チートスキルで始める優しい世界
「書き換え、って……。」
メルケアは困惑する。言葉にするのは非常に簡単だが、能力として見ればそれは神にも匹敵する万能な能力だ。
「要するになんでも好きな願いが叶うスキルらしい。…って、何だこれはたまげたな…。」
説明を終えてから、自分の言葉に驚愕する剣士郎。能力の真偽を確かめるために、彼は実際にスキルを使ってみることにした。
『オーバーライド!!時間を……夜にしろ!!』
手のひらを青空にかざし、スキル名と書き換え箇所を唱える。明らかなアドリブだがスキルの発動は成功したらしく、澄み渡る空は一瞬にして綺麗な夜空に変化する。
「え、え……!?ウソ……!?」
「……よし、『オーバーライド!不老不死!』『オーバーライド!ステータスカンスト!』『オーバーライド!ルックス超強化!』『オーバーライド!………何か金目のモノ!装備!』『オーバーライド!とにかく最強装備!』…そして『オーバーライド!俺好みの貧乳猫耳美少女!!』」
剣士郎の我欲に塗れた願いが夜空にこだまする。
「『オーバーライド!………えーと、食い物!今まで食べたことのないメチャクチャ美味しい…デザート!!』」
「はーいニャ!勇者様の仰せのままにっ!」
二十三回目の書き換えを行う剣士郎。スキルのおかげかは知らないが、いつの間にか現れた猫耳少女の使用人が剣士郎の元へとびきり美味しいデザートを運んでくる。
「イ、イャルドーニャ!?」
メルケアが使用人を呼び止める。
「にぁ!?メルケアお嬢様!!ご当主を出し抜いて勇者様の召喚に成功してしまわれるなんて、流石ですにゃ!」
「そ、それはどーも。(ところでメルキオルは今どこに?)」
「うにゃあ。(激おこでこっちに向かってますにゃ。)」
「ですよね〜。」
メルケアは振り返り、呑気に食後のデザートを堪能する剣士郎に神頼みをする。
「勇者様!お願いがありますっ…!どうかメルキオルの奴を…!あの極悪非道の冷血漢を…!メチャクチャ親切で優しい人間に変えてください…!!」
「ん?…まぁやってみる。『オーバーライド、メルキオルさんをメチャクチャ親切で優しい人間に変えろ。』」
乗り気でないが、とりあえずの親切心でスキルを実行する剣士郎。書き換えを宣言し終えると同時に、厳しいローブを纏った男が三人に接近する。
「あぁ噂をすれば……。」
「これはこれはご当主様!今日も黒いローブが素敵ですにゃ!」
「世辞はいい。…メルケア、話がある。」
「な、何でしょうか…?」
「………勇者を召喚したそうだな。」
「は、はい…。」
「昼夜の逆転、推測するに時間歪曲系のスキルか。良い勇者を引き当てたな。」
「え、…はい。」
「不本意とは言え召喚者はお前だ。ならばお前が責任を持って勇者大戦に参戦しろ。」
「いいんですか…!?」
「当然だ。勇者大戦の詳しいルール等は後日説明する。前回大戦勝利者として、出来うる限りの助言も惜しまん。……そして勇者よ。」
「何だ?」
「…妹を頼む。」
「まあ、任せてくれ。」
そして、メルキオルは去って行った。
「や、優しい…!」
「完全に別人でしたにゃ。」
「よし、『オーバーライド。メルケアを最強にしろ。』」
「!?」
「いや、なんか任されたからさ。一応何が起こっても死なないくらい強くなってくれ。メルケア。」
「え?え……!?」
こうしてメルケアは唐突に最強の力を手に入れてしまった。
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