序章 異世界で生まれ変わる為に生まれて
山も谷もなく、ただただ平坦で、少しも面白くない人生だった。原稿用紙に書き記せば、百文字くらいで手が止まるほどの本当に薄っぺらい人生だった。
そんな退屈な彼の人生にあらすじを付けるとしたら、きっとこんな感じになる。
『百夜剣士郎は、トラックに轢かれて死ぬ可愛そうな少年だった。』
なんせ、生前は死ぬ瞬間以外にろくな見せ場が無いのだから。
*
「……。」
ロウソクばかりが立ち並ぶ薄気味悪い空間で剣士郎は目を覚ます。辺りを見渡すと、いかにも魔女っぽい三角帽子を被った少女が部屋の隅で腰を抜かしている。
「せ、成功しちゃった…。」
「…え?」
「え?」
二人は目を合わせ、しばらく呆然とする。お互いにこの状況が呑み込めていないようだ。
それにしても、ここは一体どこだろう?剣士郎は頭を抱えて自分の身に何が起きたのかを必死で考える。だが、思い出せたのはコンビニに突っ込んできたトラックに撥ねられる瞬間の記憶だけ。この記憶からどうやって今の状況に繋がるのかは皆目検討も付かない。
「あ、あの…。」
三角帽子の少女が剣士郎に声をかけ、現状の説明をする。どうやら今の剣士郎は、異世界から召喚された魂に使い魔としてかりそめの器を与えただけの存在らしい。
「使い魔?俺が?」
「信じられないとは思いますが……そうなんです。お気の毒ですが、あなたは正真正銘私の召喚した使い魔です。」
剣士郎は少しばかり困惑した。使い魔だとか、いきなりそんなことを言われても、どう反応しておけばいいのか分からない。…まさかパシリにでもされるんじゃないだろうか。そうだとしたら確かに自分は気の毒だな。と、剣士郎は思った。
「あ、使い魔と言っても悪魔とか精霊とか、そういう簡素な使い魔とは全然格が違うので安心して下さい!呼吸はしますしご飯も食べます!ほとんど生身と一緒だと考えてください!」
「それ、逆に不便だな。」
「い、いいじゃないですか!この形式で召喚を行うのが勇者大戦の規定なんですから!」
「ちょっと待った。…勇者大戦って何だ?」
「あ、そこが本題なんですよ。勇者さん。」
三角帽子の少女は剣士郎を勇者と呼び、勇者大戦の概要を説明する。どうやら彼の召喚された世界では十年に一度、八つの国の魔術師達がそれぞれ召喚した使い魔で代理戦争を行い、その勝敗によって国家間の均衡を維持しているそうだ。
そして、召喚される使い魔には決まって勇者の称号が与えられる。
「それってつまり……。」
「つまり、あなたにはオードラン王国代表の魔術師。メルケア・アケメネスの召喚した勇者として、他国の勇者たちと戦ってもらいます。」