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 着々と、前回と同じような日常の時間が流れていきます。新しい年になり、季節は流れて、そろそろ婚約破棄の時期が近づいてきました。一度目と二度目の断罪の日は違っていましたのではっきりとはわからないのです。ですが、社交シーズンが始まってから王宮舞踏会が開催されるまでの間であるのは間違いないかもしれません。

 家族からは何も聞かされませんがお茶会へ行くと、聞かなくてもいい殿下とコゼット嬢の情報が話題に上ってきます。

 そこでいつも言われたことは、『何も言わなくていいのか?』ですね。

 一度目では、この言葉に乗せられた感がひしひしとします。何も私のために怒っているのではないのでしょう。冤罪をかけられたのです。二度目の私は傍観していたので、何もしなくていいと言っていたのに。この中で、自分の腹いせのためにやったことを擦り付けた可能性だって捨てきれません。

 疑えば疑うだけ犯人の数は膨らんでいくばかりなので、気にしないことに決めています。


 楽しくもないお茶会に神経をすり減らした後、時間ができた私は今日も神殿を訪れていました。ここに来ると、純粋な子ども達の笑顔が眩しくて心が洗われるのです。神殿の静謐な空間も気に入っています。

「ふふ。ほらほら、もう皆帰る時間でしょう。お姉さんが困ってしまうわよ」

「「「は~い」」」

 今日も子ども達の講義を手伝った後、一緒に遊んでいました。一番年下の子達の手を繋ぎ、今日訪れていた十六人の子ども達と神殿の塀の外まで歩いていきます。そして、いつものようにこの場で子ども達と別れるのです。

「「「ばいばい~い! おねえちゃん! またね!」」」

「ばいばい! またね!」

 方々へ別れて家路につく子ども達に手を振り返して見送ります。ああ、楽しい時間というのは早いですね。

 私が貴族と漏れないように神殿の近くに停めている、公爵家の紋章が描かれた馬車に向かいます。神殿の塀の外にある横道に停めているので往来には問題ない場所。馬車の中で着替えて、邸と神殿を行き来しているのです。


 ――いつから私は……邸に帰るのが、こんなに億劫になっていたのか……。




「リーナ!」


 突然背後から、此処ではだれも知らない私の愛称を呼ぶ声がしたかと思えば、これまた突然腕を掴まれて、進行方向から反転させられたのです。驚いた私は、肩が跳ねあ上がっていました。

 誰!?

 見上げた先には――――殿下のお顔が……――――え??

「リーナ! お前は此処で何をしている!」

 殿下!?

「そのような恰好で何をしていると聞いている!」

「あ、その、あのっ」

 何故、殿下がこれほど怒られているのか、何故、殿下がこんなところにおられるのか、全く分からない状況に混乱して言葉が出ませんっ!

 殿下の厳しい視線に体が竦み上がります。私の腕を握り締める殿下の手にさらに力が籠りました。

 思わずその恐ろしい視線から逃れるために目線を動かすと――。

 ああ、なるほど、そういうことですか。

 殿下の後方、少し離れた場所に――コゼット嬢とパトリック様の姿が見えました。殿下も皆さんもお忍びのような恰好ですね。そうでしたか――――。


 頭の芯が冷え、私に冷静さが戻ってきました。視線を上げて、さらに険しくなっている殿下のお顔を見上げます。

「――市井の勉強をしておりました、殿下」

 きっと、すでにコゼット嬢への嫌がらせが始まっているのかもしれません。彼女が行く先に私がいたので激怒されているのでしょう。この剣幕では、私が主犯だと確信しておられるのですね。

 前の人生でも、こんな感じで冤罪に繋がったのでしょう。優秀な側近が私の動向を調べられないはずがないのです。それとも、本当に側近の方々も私が主犯だと思ったのでしょうか?冤罪を見破れなかったか。見破る必要もなかったか。それはもう、今生でもこの際関係ありません。

 どう足掻いても、もうここまで来ているのです。現に、殿下が激昂されています。何を言おうが、もう何もできないんですよ。


「市井の勉強だと?」

「はい」

 本当の事を申し上げるだけです。信じてくださるとは思えませんが。案の定、私の腕を掴む手の力が緩みませんからね。

「――殿下、お咎めは甘んじてお受けいたします。この身なり故、この場はご容赦願えないでしょうか。同行されている方々がお困りのようですし」

 すると、はっとしたように殿下が腕から手を離されました。

「御前失礼いたします、殿下」

 私は淑女の礼をとり、その場から去りました。


 笑うしかありません……。

 馬車に乗り込むと、急に腕の痛みと手の震えに気が付きました。馬車に着くまで気を張っていたようです。馬車が出発すると、私にも冷静さが戻ってきたようで、いつものように着替えに取りかかりました。 平民服のまま邸に戻ることはできませんからね。


 ――やっぱり、王都にいては駄目なようですね。まさかこんなところで殿下と鉢合わせするとは思っていませんでした。

 修道女を選んだ場合も住み込みで働くにしても、王都以外に移った方がよさそうです。兎に角、まずは穏便に勘当されるのを待ちましょう――――。




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