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本日二話目の投稿です。

 お茶会当日――。


 母と兄に連れられ、お茶会会場に向かいました。今回も何も変わらない。今日のお茶会に呼ばれたのは、将来殿下の側近となる子息達と私。未来の王太子妃となる私との顔合わせでもあるのです。

 トリスターノ侯爵家嫡男ヴァーン様。後に近衛騎士となられるクレンツ伯爵家嫡男パトリック様。お兄様を加えたこのお三方が私を排除するのです。きっと、誰からも愛されるコゼット嬢が王太子妃に相応しいと思うのでしょう。波打つ紅茶色の輝く髪に愛くるしいエメラルドの瞳を持つ彼女。私はアメジストのような髪にシトリンクウォーツの様な金の瞳。彼女の愛くるしさに比べれば、私は冷たい印象を受けるのでしょうね。


 そしてとうとう、今回も何の狂いもなく妃殿下と――ジョルジュ王子が会場にお越しになられました。

 ――銀髪碧眼の見目麗しい王子。今生の私はもう諦めがついているのか、初めての人生の時ようなトキメキも感じません。

 一度目は、視線が合ったら目を逸らすことができずにいましたが、今回は目礼をするふりをして視線を落としました。王妃教育では感情を出してはならないと習うのです。公爵令嬢としての気品を求められた私は、歳を重ねるうちに表情が乏しくなっていましたね。

 娼婦として売られた時、女主人からもっと笑顔をとよく言われていました。子どもの頃からの教育と娼婦という境遇で笑うことは至難の業でしたね……。

 それぞれ自己紹介が終わり、各々が席に着きました。目の前に出されたカップに手を付けると、ふわりと鼻孔をくすぐるよい香りが漂ってきます。


 ストロベリーティー。


 思い出します。娼婦としての生涯を終える間際、女主人から何か食べたいものはないかと聞かれ、ストロベリーが食べたいとお願いしました。病床についた私を放り出すことなく、女主人は娼館に置いてくれたのです。息を引き取るまで面倒を見てくれました。そして、彼女が言ってくれました。


 ――あんたは貴族の娘だろう?初めてここに来た時そう思ったよ。貴族の世界も生きにくいんだろうねぇ。あんたみたいないい娘が何をしたらこんなになるのかねぇ……もう、何も考えずにゆっくりしてな。あんたにゃこっちも世話になったからね。上客相手のあんたがいなくなるのは痛いが、まあ、それが商売だからねぇ。

 ありがとうよ、イリアーヌ――。


 思えば、女主人は問題行動を起こした客は出禁にして、同じ店の子達を守ってくれていました。ここに来る女性達は問題を抱えてどうしようもなくなった者達だとも言っていました。あの娼館に売られた私は、まだましな方だったのかもしれません。

 そんな事を思い出しながらカップを置くと。

 え?

 皆様の視線が私に集中していました。何か、粗相をしたのでしょうか……。

「ふふ。その紅茶、気に入ってくれたかしら?」

 へ?

 妃殿下が目を細めてにこやかにお尋ねになりました。何故、わかったのでしょうか?

「はい。香りがよく、美味しゅうございます」

「ふふ。娘はストロベリーが好きですの」

「そうでしたの。お気に召してくれたなら嬉しいわ」

 無難に答えてその場を凌ぎ、お兄様の横に座るお母様を窺えば、特段怒っているような様子ではないので粗相をしたのではないのでしょう。よかったです。

 それからも無難にこなし、お茶会はお開きとなりました。


 帰りの馬車では、お母様が頑張ったわねと褒めてくださいましたので問題なく終えることができたようです。

「リーナ、そうやっていればいい」

 ?

 お兄様の言葉の意味を計りかね、じっと見つめてしまいました。

「不要な心配はするなと言ったんだ」

 ――あの仮定の話の事でしょうね。

「はい、お兄様」

 はい。今生の私も大人しくしていますから心配は無用です。きっと、お兄様もコゼット嬢がお好きなんです。だから、彼女の望みでもある王太子妃の座を用意したいのでしょう。彼女の喜ぶ顔が見たいから。そんなところでしょうか。


 今生の話ではありませんが、もう生娘の様な貞操観念はありません。男がどのような欲望を持っているのか知っています。客の中には、思い悩む胸の内を話す人もいました。好みの相手がいてもどうしようもない相手だとか、婚約者がいても結婚するまで手を出せないもどかしさなんかを解消するために娼館を訪れる客もいると聞いたことがあります。下世話な話ですが、お兄様達はどうしたていたのでしょう?コゼット嬢が王太子妃になったら、お兄様達はどなたを妻に迎えたのでしょうね。私がいなくなっても、世界の時間は続いているのでしょうから。

 私がいないだけで……


 この人生の繰り返しは――一体何なのでしょうか……?

 私にとっては、辛い人生を繰り返しているだけですもの……。




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