七十九話 「離れ離れ」
訳もわからず、見つけてしまったダンジョンに入り込んだ私達。
今回はあまり驚かなかったが、やはり入った直後に蝋燭の火が灯され、辺りが明るくなった。
「このダンジョン強いのかなぁ……」
私が一人呟くが誰も返答してくれない。それどころか、何故か物音一つしない。
「ねぇ、誰か反応して……よ」
私が振り返り、後ろを見ると、まるでずっと誰もいなかったかのように静寂が広がっていた。
「あ、あれ? なんで二人が居ないんだ?」
もしかしたら、ダンジョンにまだ入ってないのかもしれない。私はそう思い、引き返した。
「こんなに長かったけ……」
歩いても歩いても出口が見えない。光すら見えず、ただずっと同じ道を歩いている感覚だ。まだダンジョンに入ってほとんど歩いてないというのに、この遠さは異常だろう。
「私を置いて先に進んだのかな?」
心の中では薄々気付いていた。これがこのダンジョンの性質で、きっとパーティーを分散させる罠なのだろう。でも、一人という事実に気付きたくなかった私はひたすら二人を探そうとする。
「先進んでみるかな」
もう一度ダンジョンの先へ進もうとまた振り向いた時、私の前には絶対になかったはずの扉があった。
今までもずっとそこの場所にあったかのように佇む扉に私は惹かれていってしまった。
「中はどうなってるのかな……」
絶対に開けたくない。やばい扉だと分かっているのに、好奇心がどんどん膨れ上がり、私は扉を押している。
「なに、ここ……」
扉を開けた時、私は我に返った。ただその時には私は扉の中にいて、既に扉は閉まり、どんなに力を加えても開かなくなってしまった。
中に入った私の前には、何も無い空間だけが広がっている。
真剣勝負をするのに適した障害物もなく、暴れ回るのに適した広い空間。
「やぁやぁ。ようこそおいでくださいました。さっそくで悪いのですが、自己紹介をさせていただきます」
広い空間に私以外の人影が一つ。空間の真ん中に背筋を伸ばして立ち、私を見つめている。
「おや? 返答がないですね。まぁいいでしょう。では、自己紹介を致します。私の名前は『デビルズ・ルック・ディアボロ』。魔王様の四天王の一人でございます。是非お見知りおきを。いえ、覚えなくとも貴方はここで死ぬのですから大丈夫ですよ」
「な、なんでここに四天王が……」
この世界にも四天王という魔王の幹部が居ることは噂で聞いていた。でも、ダンジョンの中に居るとは思わなかったし、出会うとすら思ってなかった。この一人という状況の中で、四天王に会いたくなかった。
「ふむ。まだ驚きで動けてないようですね。では、10分間時間をあげましょう。その間に心の準備をしといて下さい。あなたとは楽しい死合をしたいですから」
遠くからでも私に伝わる声で話し、ディアボロはその場に座り込んでしまった。
私に残された時間は10分。この間に私が出来ることといえば、一つだけ。逃げることも出来ないこの状況で少しでも仲間を増やす手段。
「『キアラン召喚!』」
花奈やレギスとは違い、私は弱い。だから、仲間に頼る。確かに、キアランが傷ついて死んでからあまり時間が経っていないため、ほんとに来てくれるかは分からないが、可能性には賭けたいのだ。
「眩しっ……」
部屋を一瞬光が包み、中から人が二人出てきた。
「二人? あれ?」
キアランを召喚したはずなのに二人はおかしい。でも、ちゃんとキアランを召喚できたことは嬉しかった。これで、私は一人じゃない。これなら戦える。どうせ逃げることは出来ないんだ。あとは戦って勝つしかない。
「初めまして。私の名前は『ジークフリート』本来ならば召喚されることはほとんどないですが、今回は我が友に頼まれたため、参上致しました。よろしくお願いします。我がマスター」
全身に鎧を着て、背中には大きな大剣。これが私が呼びたかったジークフリート。もっとレベルが高くなければ呼べないと思ったが、まさか、来てくれるなんて。
「我が主よ。申し訳ありません。ジークフリートには私が頼み、急遽来てもらいました。なにせ、今回の敵は私一人では勝てませんからね。でも大丈夫です! 私の友、ジークフリートは強いですから!」
「キアラン……来てくれてありがとね」
私の危機に対して、強い味方も呼んでくれて、更には、死ぬかもしれないとわかってるのに召喚に応じてくれた。私は思わず、キアランに対して抱きついてしまっていた。
「ま、マスター!? こ、こんな所で抱きつくのはちょ、ちょっと、困ります……」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「い、いえ。逆に嬉しすぎて戦う前に死にそうでした……」
「二人共。戯れるのは良いが、そろそろ準備を頼む。敵が動き出すぞ」
「ジークフリートさんもありがとうございます!」
「マスターに感謝されるとは。騎士として嬉しく思います。では、マスターの為に全力を出し、目の前の敵を倒してみせましょう。ただ、強敵ともなるので援護はよろしくお願いします」
「ジークフリート。手を抜いちゃダメですよ? 私は出来るだけ音を出さず、傷を与えていくので、あなたは注意を私とマスターから逸らし続けてください」
「了解だ。マスターも大丈夫か?」
「うん! 二人がいれば大丈夫! 援護は任せて!」
「では、四天王との戦いを始めるとしよう。久々の強敵ですので腕がなりますね」
大剣を背中から引き抜き、ディアボロを真っ直ぐ捉える。既に、私の近くから気配すら消したキアランがいなくなり、私も魔法を準備する。
「10分経ちました。準備できましたか?……三対一。ふむ。丁度いいハンデでしょうか。では、死合を始めましょう。どちらかが死ぬまでの戦いを!!」
相手は気配すら消えているはずのキアランを見抜き、三対一と言った。これは私が会った中でも一番の強敵かもしれない。頼みの綱はジークフリート。
果たして私は四天王を見事に倒し、花奈とレギスにもう一度会えるのだろうか。不安は募っていく。




