七十八話 「火山の守り」
炎王。それは、私達にとって最もな壁だった。そして、同時に炎王はこの火山の砦と言えるくらいの強さでこの火山を守ってるのだろう。だが、幸いにもまだそいつは気付いていない。奇襲を掛けるなら今しかないだろう。
「雪。この距離から最大火力の矢を放てる?」
花奈の提案はこうだ。私が矢を作り、ギリギリ届くからの距離から放つ。もちろん、威力は私が出せる全力だ。
「でも、これを放つと私ほとんど動けなくなるけど大丈夫?」
「おう。その後はこの俺たちに任しとけ。雪ちゃんの攻撃のあとなら結構体力削れてるだろうしな」
「ま、レギスいなくても私なら余裕だけどね」
「俺だった花奈が居なくても一人で余裕だし!」
「まぁまぁ。喧嘩しないの。それよりも、相手が気付かないうちに私、やっちゃうね!」
二人が未だに睨み合ってるうちに私は一本の矢を作成した。もちろん、全魔力を使ってだ。回復手段はある。大丈夫。
「準備完了! いっくよー!!」
ギリギリで見えた炎王の頭を狙い、一直線に矢を放つ。ヘッドショットが上手くいったようで、私の矢は炎王に直撃した。
「おっけー! 相手もよろめいて今がチャンスだし、雪はここで休んでて! 守りは……うーん」
「これ使っとけば大丈夫っしょ! 」
私が倒れた後にレギスが出したアイテムは一時的に結界を張るアイテムだった。これなら少しの攻撃は耐えれる。これだけあれば充分だろう。炎王がいるおかげで魔物は滅多に近付かないだろうし。
「それじゃ、雪は安心して寝ててね。起きたらもう終わってるから!」
「おう! 雪ちゃんはしっかり休んでてくれ!」
「うん。あとはよろしくね」
私は目を閉じ、休む事にした。魔力を全て使って攻撃したせいか、身体が重くなっている。今のままだと完全に足を引っ張るだけだろう。なら、休んでるのが正解だ。
「二人共……任せたよ……」
暴れ回る炎王に二人が果敢に挑む姿を見て、私は眠りについた。次目覚める時に二人が生きていることを祈って。
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「雪。起きて雪!」
「ふぁっ!?」
私が眠りから覚めた時、私に花奈が覆いかぶさるような体制でいた。その為、目の前に顔があるのだ、驚くのも無理はない。
「ふぁ〜……それで、あの敵はどうしたの?」
炎王と戦っている二人のことは覚えているが、その後は覚えていない。結果として二人が私の前に居るのだから勝ってはいるのだろうが。
「あー。炎王だってけか? あいつならなんか普通に勝てたぞ? 正直俺一人でも余裕なくらいだったね」
「いやいやいや。私一人のが余裕だったね。あんたは別に居なくても良かったし」
「はっ? 花奈を炎王の攻撃から守ったのは誰だと思ってんの?」
「知らないし。あんたが勝手に守ったんでしょ?」
「ま、まぁまぁ。そんなに毎回喧嘩しないの。二人共よく頑張ったんだからそれでいいじゃん!」
「ま、まぁ。雪がそう言うなら良いけど……」
「雪ちゃんにそう言われるなら喧嘩はやめとくかなぁ〜」
ほっ。私の言葉で喧嘩やめてくれて良かった。私の体力も割と回復したし、ダンジョンくらいなら探せるだろう。
それに、炎王も倒したからこの火山にいる敵はほとんど恐がって出てこないし。
「さてと、探すかぁ……あ!!!そうだ!炎王の死体は? あいつ、どうなったの!?」
私の中で炎王だろうと魔物の一種だ。やはり、死体は残っていると思っていたが、どこを見ても何も無い。ただ暑い空間が広がってるだけだった。
「あー。雪? 言いづらいんだけどさ、炎王の死体はないんだよね。それに、ダンジョンの方も……ほら、そこに……」
花奈が指差した方を見てみると、先程までは明らかになかったダンジョンが誕生していた。
「もしかして、炎王を倒したから出てきたのかな?」
「多分な。で、どうすんだ? 俺はもう行けるけど、もう少し休んでから行くか?」
「いや、行こう。ダンジョンは早くクリアした方がいい。それに、ここら一帯は暑いから休んでてもあまり体力は回復しないし」
「おっけー。んじゃ行こっか」
「おい。何あんたさり気なく手を握ろうしてんの? ぶっ殺すよ?」
ほんと危なかった。途中で花奈が割り込んでくれなかったら不本意にもレギスの手を握っていたかもしれない。
「あ、えっと、って、また喧嘩してるし……」
既に喧嘩している二人を見て、私は諦めた。
どうせ喧嘩を止めるのにも時間が掛かるし、その間に残りのダンジョン数を見る事にした。
生存者:1423
残りダンジョン数:4
この時の私の顔は誰が見ても凄い顔をしていただろう。
「花奈とレギス! ちょっと見て!」
二人にこの数字を見せた途端、やはり二人も驚いていた。それはまぁ普通の反応だろう。
まず、明らかに量が減っているの自体が驚くし、それに、残りのダンジョン数の減りようも気になる。
「もしかして、運営が操作した……?」
ずっと忘れていたが、この世界は一応ゲームの世界だ。運営という存在がいてもおかしくはない。
「ま、残りが少なくなったのはいい事だよ! まぁ、生存者がだいぶ減ったのは悲しいけどさ……」
「おいおい。そんな顔すんなよ。その残りのダンジョンの一つが目の前にあるんだぜ? さっさとクリアしようぜ?」
「あんたは気楽でいいわね」
「ま、この世界に来ておれはずっと一人だったからな。あんま友達とかの感情がないんだよ。でも、俺はお前ら二人は少なくとも友達だと思ってる。だから、そんなら悲しい顔はあんま見たくないんだよ」
「ごめん。そうだよね! やっぱりダンジョンクリアしなきゃ! 泣いてなんてられない!元の世界へ帰るんだから!」
私も立ち上がり、ダンジョンの入口へと歩き出した。
その後に、レギスが続き、花奈も後ろから歩いている。
「雪……私、どうすればいいのかな……」
私と花奈の距離は離れている。後ろにいた花奈の声が私に聞こえないのは至極当たり前だった。
花奈の俯いた顔に気付かなかった私は、今の勢いのままダンジョンへと入ってしまったのだった。