七十六話 「意味の無かった旅」
なんとか無事に天界へと戻ってこれた私達は前回とは違い、大天使様の家の近くに居た。
「いてて……ここが、天界?」
前回は一瞬だが記憶が飛んだような意識がなくなったような感覚に陥ったが、今回は大天使様から貰った羽根ということもあり、大丈夫そうだった。
「うん。ま、下を見てみれば分かるよ……」
案の定、私以外の二人は下を見て驚いていた。さすがに私はあまり驚かないが、普通の人なら雲の上にいる時点で驚くだろう。
「って、なんだこりゃ! やば! 高っ!!俺帰れる!? ずっと天界とか嫌だよ!?」
「落ち着けレギス。 雪が何も考えないで私たちを連れてくるわけないだろ? な、雪……」
「う、うん。あ、当たり前だ、だよ……あはは」
やばいやばいやばい。正直言って帰りのこととか考えてなかった。行きはこの羽根でなんとかなるけど、帰りってどうすればいいんだ!? 大天使様が帰してくれるのかな。やばい。どうしよう。
「ほ、ほら! 雪も大丈夫って言ってるし!」
「完全にあの顔は考えてなかった顔だよね……嫌だぁぁぁぁ! 天界に住むとか嫌だぁぁぁぁ!!」
「う、うるさい!! 私だって考えてるもん! ……多分」
私たちが家の近くで騒いだことが原因なのか、不意に玄関の鍵が開く音がした。
さすがに騒ぎすぎたから怒られるかもしれない。大天使様が怒ったら私達、帰れるのかな?
「あのー、この辺で騒ぐのは少しやめてもらっていいで……って、雪じゃん! やっほー! また来たの? ってか、もしかして帰ってない感じ?」
大天使様かと思いきや、カミエルだった。って、そりゃそうだ。私が帰ってからまだ時間はほとんど経ってないし、まだ居てもおかしくはない。
「ねぇ雪。あの人だれ? 雪の知り合いっぽいけど……」
「あぁ。あの人は私が一回目来た時に色々教えたくれた人。花奈と性格似てるし、多分気が合うんじゃない?」
私たちが小声で話していると、いつの間にかレギスは消えていた。というよりも、いつ移動したのか、カミエルの前に立っていた。
「あ、あの。か、可愛いですね。お名前の方とか伺っても……」
「あ、ごめん。私男に興味無いから。って、こんな奴より、雪ー! 早く中入ろ!! 後そこの女の子も一緒に!!」
「こんな奴……」
レギスの身体は燃え尽き、真っ白になった。そして、私と花奈はカミエルに引っ張られ、無事に大天使様の家へと入る事が出来た。
もちろん、レギスも無理やり入れたが、未だに玄関で燃え尽きている。
「さて、雪ちゃん? どうしてこんな早く帰ってきたのかな? 私としては嬉しいけど、なんか用事があるんでしょ?」
私は花奈の事を大天使様やカミエルなどに一通り説明し、今はまたリビングのいつもの場所で向かい合って話している。
今この場にいるのは私と大天使様の二人で、カミエルと花奈は二人で遊びに行ってしまった。やはり、気が合ったのだろう。
「はい。このアイテムのことなんですが、どうやって使えば良いのか……」
私は懐から熾天使の雫を取り出して、大天使様の前に出した。
「ふむ。雫か。これは、確かに本物じゃな。だが、ハッキリ言おう。人間界にはこのアイテムは死者を復活できるアイテムとして知れ渡っているが、このアイテムのホントの効果は違う。これは、死んでから10分以内なら死者を天使としてこの天界に送り届けるアイテムだ。死しても幸せに出来るというアイテムなのだがな。いつの間にか、あんな噂が広がって……」
私はその言葉を聞いて、驚きのあまり固まってしまった。
だって、このアイテムがホントにその効果なら私にとってなんの意味もない。妹だって復活出来ないし、天使にしてあげることすらも出来ない。
「ほんと、私、なにしてんのかな……」
今思えば、こんなアイテム集めずにダンジョンを制覇していくべきだった。そうすれば、手っ取り早く日本へと帰れる。確かに、日本へ帰って妹が生きている確証はないが、可能性はある。そちらに賭けるべきだった。
「雪ちゃん? 大丈夫かい? 君に一ついい事を教えてあげよう。ホントは秘密のことなんだが、この世界での死についてだ」
「死について?」
「あぁ。例えば君は異世界から来た者だろう? そうゆう人間はこの世界で死んだ場合、魂は元の世界へと戻る。君がなぜこの世界に来たのかは分からないが、生きたまま元の世界へと帰れるのなら、一緒にこの世界で死んだものの魂も解放されて生き返る可能性もあるだろう。もちろん、確証はないがな」
「どうしてそんな事が……」
「昔な、雪ちゃんみたいな人が全く同じことをしたんだよ。その時は、あの子は元の世界へと戻った。そして、今はこの天界にいる。その子に話を聞いたんだ。そしたら、元の世界に戻った瞬間に全ての人間が生き返ったと言っていた。信じるかは君次第だがね」
「それで、その天界にいる人の名前ってなんですか?」
「ほら。君も知ってるだろ? 君が初めて会った天使。カミエルちゃんだよ。あ、でも今話したことについては絶対に言っちゃダメだよ? カミエルちゃんは記憶を無くしてこっちに来てるんだ。思い出したら天使ではなくなってしまう。それはあの子も望まないことだからね。それと、この事は他言無用だ。君だけに特別に教えたことだからね。誰にも言っちゃダメだよ?」
「はい。分かりました。教えてくれてありがとうございます! なんか、俄然やる気が出ました! しっかりとこの世界を抜け出して、また私もまた来れるならこの天界に来ますね!」
「うん。そうしてくれ。では、そろそろ君達を天界から帰すとしよう。長居は危険だからね。さぁ、力尽きている男の子と花奈ちゃんを連れておいで」
「はい!!」
私は自分が知りたかった最も嬉しいことを知り、凄く嬉しかった。これで、この世界を私がクリアすればみんな生きて元の世界へと戻れる。この時の私はその事を信じて疑わなかった。
「…………ほんとに、こんな事言って良かったのか?」
「――――しょうがないでしょ。あの子、こうでも言わないと今にも自殺しそうだったからね」
「だが、あまりにも酷すぎはしないか?」
「大丈夫。きっと、あの子なら乗り越えれるよ」
「そうだね。私もあの子の心の強さを信じるよ」
私が居ないリビング。そこに居たのは、大天使と何処から来たのかは分からない人が誰にも聞こえない声で話していた。
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「では、この先の旅も頑張るんだぞ」
なんとかレギスを立ち直らせ、花奈を呼び、少し時間は掛かったが、無事に三人集まることが出来た。
いつの間にかめちゃくちゃ仲良くなっていた花奈とカミエルが別れ際に泣いていたのを見て私も貰い泣きしたのは内緒だ。
あと、ちなみにだが、レギスはカミエルにシカトされたのが辛かったのか、終始黙っていた。
「じゃあ、本当にさようなら!!」
「ありがとね!大天使様! それと、カミエル!また会いに来るからね!」
「花奈〜!!絶対来てよね!!!」
「うん!」
「では、さらばだ!」
こうして、私たちの熾天使の雫を使うという目的の旅は終焉を迎えた。次の目的はもちろん、ダンジョン攻略。
花奈が元の世界に戻りたいと思うかわからないが、私は帰りたい。また会いたい。だから頑張る。レギスもいるし、大丈夫だろう。
次の旅も成功するようにと私は願っていた。
今回でこの章は終了であります!