七十四話 「天界という名の雲の上」
「ちょっと待った、ストップ!ストップ!」
「えっ? なに? どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! 急に連れられたらビックリするって! 先に説明してよ!」
「えぇ……めんどくさー。大天使様に説明してもらってよ〜」
なんて事だろう。私を身勝手に連れて行こうとしながらも、説明はめんどくさいからしないなんて、ほんと有り得ない。
「ちょ、離してよ」
逃げれるのならば私だって逃げたかった。でも、この天使、めっちゃ力が強い。ほんと、私が全体重かけても歩くの止まらないし、ってか歩いてないし、浮きながら進んでる感じだもん。
「ほらほら、もうすぐ着くから抵抗しないの。そこで説明してもらえるんだから私じゃなくても良いでしょ?」
「ほんとは会いたくないんだけどね……」
「じゃあここから落ちる?」
「絶対会います!」
まさかの展開だった。どうやら、大天使様とやらに会わなければこの雲の上から落とされるらしい。なんて恐ろしいんだ。本気で会いたくなかったのに、絶対会わなきゃいけなくなってしまった。
「うむ。素直でいいね〜」
「しょうがないからね……あはは」
そして、今気づいたが、どうやら元々絶対に逃げれなかったらしい。宮殿のような所に着くのかと思いきや、普通の一般住宅みたいな家に連れてかれ、私を引っ張っていた天使まで中に入るんだから、逃げれるわけがない。
「ほんとにここに大天使様居るの? 普通の住宅みたいだけど……」
「いるいる! なんかでっかい家が嫌らしくてこうゆう風ないえにしたらしいし!」
にわかには信じられないが、ここまで来た以上、引き返すことは出来ない。
わたしは意を決してリビングがありそうな部屋の扉を開けた。
「おお!キューピットちゃん! こんな所に来てどうしたの〜?」
私が見た光景はごく普通の家庭だった。大天使様という人も、私の隣にいる天使を見て普通に話しかけてるし、てっきり王様みたいな人かと思ってたのに。
「あー。この変な迷い込んだ人をここまで案内しただけですよ。あ、お腹空いてるのでご飯下さい」
「しょうがないなぁ。そろそろ夕飯になると思うから待ってろし」
「ほーい」
「で、そこで固まってる君が迷い込んだ人かな?」
私は自分より偉い人に普通にタメ口で話す天使とそれに何も思わないで会話を続けている大天使を見て少し固まっていた。
「おーい。大丈夫〜?」
「は、はい!! 大丈夫です!」
「良かったぁ。ま、立って話すのもあれだし、適当に座ってくれたまえ」
「ありがとうございます……」
大天使と向かい合うように私は座った。ちなみに、私の隣では先ほどの天使が寝転がって寝ようてしている。ほんと、遠慮も何もなかったことに驚きだ。
「さて、話をしよう。君は、どうやってここに来たか分かるかな?」
「うーん。私が分かる限りだと、なんか天使の羽を上に掲げただけなんですよね……」
「あー。あれか。まだ処分されてなかったのかぁ……うん。分かった」
「あの、私、帰れるんですか?」
今の一番の心配は帰れるかどうかだった。この場所には自分以外誰も居ないし、早く花奈達に会いたい。一人だと余計に不安になってしまうのだ。
「確か、あのアイテムの効果が切れるのが一日だから、その後に私に話し掛けてくれればいつでも戻すよ」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
「あと、それまでは多分ご飯とか寝る場所とかないだろうし、この家の空き部屋を使っていいからね。もちろん、そこに寝転んでるキューピットちゃんと一緒の部屋になっちゃうけど……」
「この人も泊まってく感じなんですね……」
「まぁ、大天使様の家に来たら泊まるまでがデフォルトだからね!」
そこだけ話を聞いていたのか、急に起き上がり親指を立てながらドヤ顔されても私にはどう反応すればいいか分からなかった。それよりも、大天使様も大変だなぁ。という事しか思わなかった。
「あら。こんなに人が増えてたのね。ほらほら! ご飯ですよ! 良かったぁ。今日は沢山作ったからどんどん食べなさい」
「すいません。お邪魔してます」
「あら。礼儀正しいわねぇ。こちらこそゆっくりしていってね」
ついつい、いつも通り挨拶をしてしまった。まぁ間違ってはないから大丈夫だろう。
「あ、紹介してなかったけど、このおばさんが僕の奥さんね。一応、大天使の一人なんだけど、ま、おばさんだから宜しくしてあげて」
「なんか言った? あんたのご飯抜きにするよ?」
「すいません……」
既に天使は居なくなっていた。どうやら、私たちが話している間にご飯を食べに行ったようだ。
だって、私たちが向かった先に既に座って食べてる天使が居たからね。凄い食欲だと思う。
「それじゃ、すいません。いただきます」
「お口に合わないかもしれないけどいっぱいあるから沢山食べてね」
「僕も食べよーっと!」
「モグモグ……あ、いただきます……」
私に合わせてなのか、天使も既に食べてるくせに飲み込んだ後に言っていた。もう意味無いだろうけど突っ込むのはやめておこう。
「それで、聞きたいことがあるんだけど、君はもしもこの天界に居れるとしたらどうする?」
「いえ。確かに楽しそうな場所ではありますけど、やっぱり私は戻りたいですね」
「そうかそうか。んじゃ、次も来たいかい?」
「来れるなら是非ほかの二人も連れて来てみたいです!」
「それならこれを渡しておくよ。僕は忘れっぽいからね。今渡さないと。えーっと、何処やったかな……あった!はいこれ」
みんながご飯食べている中、私は大天使様から大きな羽根を一枚貰った。私が使った羽根よりも一回り大きい羽根だ。
「ほんとはそれをあげるの禁止されてるんだけどね。ま、ほんと久しぶりに来た人間だからいいかなーって。ただ、その羽根を君以外が使おうとしても使えないから注意してね」
「えっと、これを掲げれば二人も連れて来れるんですか?」
「確か、三人までが上限だったから君を合わせて二人までなら大丈夫だね!」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「あんた達。そこら辺でその話はおしまい! 冷める前にご飯食べて! その後にお風呂! 全く。早くしてよね」
「ごめんなさい! すぐ食べます!」
「あ、あなたは大丈夫よ。そこの親父に言っただけだから」
「僕だって無駄な話してた訳じゃないんだけどねぇ……」
こうして、私の初めての天界は凄く普通だった。
日本とほとんど変わらないような家で普通の夫婦みたいな大天使様と話し、大きい羽根を貰って、更にはご飯とお風呂、それにベッドまで貸してもらえるという友達の家に行った時とほとんど変わらない待遇を受けた。
そして、普通に日本に戻れるということを知った私は、一日この天界を楽しもうと思ったのだった




