七十二話 「恩人」
私が危機に陥った時に助けてくれた謎の男。
それは、私が何処かで見覚えのある人だった。
それはもちろん相手も同じで、今お互いに見つめ合いながら止まっている。
「あ、あの。やっぱり何処かで会いましたよね?」
先に切り出してきたのは相手だった。今の私といえば、殺される恐怖で腰が抜けて立てない状態。それはつまり、見下ろされてるということだ。
「あはは。わ、私もそんな気がするんですけどねぇ……」
今の私は自然と喋れるようになっていた。昔の私なら、こんなチャラチャラした男とは喋れなかったはず。
これは成長したってことでいいのかな?
「うーん。なんか、俺の記憶だと、君が鬼の形相で山の位置を訊ねてきた感じなんだよねぇ……」
私の頭はこれで思い出した。この男が話しているのは、私が花奈と仲直りした日のことだろう。ってことは、私を助けてくれたこの人は、
「もしかして、レギス!?」
「お!思い出したの? よかったぁ。てっきりまた知らない人に話しかけたかと思って焦ったよ。で、どうして君はここに居るの? しかも、割と危ない状況だったし」
「君じゃない。雪って呼んで。あんたは命の恩人だから特別ね。ほんとは、友達以外に呼ばせないんだからね」
「あははっ……ま、それじゃ雪って呼ばせてもらうよ」
「で、私がここにいる理由だっけ? それは、まぁ、話せば長くなるんだけど……」
「ん? もしかして、この近くにある村に戻るの? それなら俺も付いてっていい?」
「まぁ別に良いけど。んじゃ、歩きながら話すね」
こうして、私は久しぶりに会ったレギスに今の状況について話した。途中で何回も要らん話を振って来るから内心ブチギレそうになったのは内緒だ。
「ふーん。そうゆう事ね。じゃ、俺は命の恩人じゃない? まぁ、別に恩人だろうとなんだろうと、俺は女の子を助ける義務があるからね! 当たり前のことしたまでなんだけど!」
「うわぁ……何この人……こわぁ……」
「あれ!? 君って、そんなに冷たく言う人だったっけ!?」
「女の子は変わるもんなの!」
「くっ……女の子マスターの俺ですら雪を攻略出来ないのか……」
「ま、あんたが私を攻略するのは当分無理無理。諦めなさい」
「そんなぁ……」
「お、着いたよ。んじゃ、私は花奈のとこ行くから! またねー……あ、一応だから言っとくけど、助けてくれてサンキュ」
「お、おう」
森を抜け、無事に村へ戻った私たちは、ここで別れるはずだった。とゆうか、少なくとも私はそう思ってた。
「花奈ーー!! ただいまー!!!」
「雪!! おかえり!! 怪我はない?」
遠くから花奈が見えた時、私は走り出して抱きついていた。もちろん、花奈は私を受け止めてくれて、頭を撫で撫でしてくれた。
「やっぱり百合は良いもんだなぁ……」
またあいつの声が聞こえた気がする。てゆうか、今絶対聞こえた。
「ねぇあんた! いつからそこに居たの!?」
「えっ……と。雪が抱きついて撫でられてニヤけてた所までは見てたよ!」
「初めからかよ!!!」
「待った!! 雪。説明してくれる? どうして、雪と男が仲良さげに話してるの? えっ? 有り得ないよね。うん。ちょっとゴミ掃除してくるね」
「ちょ、花奈! ストップ! 何してんの!? 」
「何って、大丈夫。ただの粗大ゴミだから。ちょっと森に捨ててくるだけ」
「会話になってないよ! とゆうか、なんで笑顔なの!? 怖いよ!」
「雪ちゃん!? この人誰!? なんで笑顔で俺のこと殺そうとするの!?」
「雪……ちゃん? 何言ってんだてめえ。私の雪にちゃん付けだと!?」
「ひぃぃ。すいません!! これあげるから許してください!」
「ん? なんだこれ。こんな宝石で許すわけねえだろ!!」
私が会話に入る隙間もないほど、二人は未だに口論している。それも、私の話でだ。なんか恥ずかしい。
でも、今は私が気になったのは、花奈がレギスから受け取り、投げ捨てた真紅の宝石。
「なんだろこれ……」
一瞬ルビーだと思ったが、どうにも違う気がする。なんていうか、ルビーっぽくないっていうみたいな。説明出来ないけど、私の中で違う気がしていた。
「鑑定してみよっと!」
口論している二人をとりあえず無視して、私は一人で宝石を調べることにした。
アイテム名:熾天使の雫
滅多に手に入る物ではなく、ごく限られた者のみが入手することが出来る。このアイテムを使うことで死んだ人間すらも生き返らせれるかもしれない。
「えぇぇぇぇぇぇ!!!」
私は驚きでいっぱいだった。なにせ、私が一番欲しかった物がこんな所にあるのだから。それに、鑑定結果でも、生き返らせれるかもしれないと書いてあるし。
「うん? かもしれない?」
果たして、熾天使の雫に人を生き返らせる力はあるのだろうか。確かに、かもしれないと書いてあるが、これは、出来ないかもしれないとも読める。一体どうゆう事なんだ?
「雪!? どうしたの!!この変態になにかされた!?」
「ちょ、おれは何もしてねえよ!!!」
「ううん。それよりも、花奈。これ見てよ。これが熾天使の雫だった」
「えぇぇぇぇぇぇ!!! ほんとに!? なんでこんな所にあんの!?ってか、なんであの変態が持ってるの!?」
「ん? その変な宝石か? あぁ。それはなんかトーナメントで優勝したら貰えたやつだぞ? 要らないからお前らにやるよ」
あれ? ちょっと待って。今、レギスはトーナメントで優勝したって言ってたよね。あれ? 今から二週間後の筈じゃ……
「もしかして、トーナメントって二週間前に開催された?」
「お、よく分かったな。俺はたまたま飛び入り参加で優勝しちまってな。まぁ、金もなかったし優勝賞金貰えたから嬉しかったんだけどよ」
「はぁ。今度は王様が間違えたのか……」
「雪。なんかごめん」
「いいよいいよ。それよりも、この雫の使い方考えなきゃね……」
「ん? その宝石なんか使い道あんのか? 売るくらいしかないと思ってたんだけど」
「あるに決まってるでしょ馬鹿! アホ! もしも、この宝石を売ろうとなんてしてたらお前の頭吹き飛ばすところだったよ!!」
「そんなになの!? ま、いいや。俺には必要なさそうだし、その宝石あげるね。その代わり〜。俺も二人の旅に加わっていい?」
「えぇー。あんた変態だからなぁ……宿屋とか野宿で襲ってきそうだし……」
「そんな事しないし!!ってか、襲うとか俺出来ないよ!! 怖いもん!! 二人共絶対殺してくるじゃん!無理無理無理」
「ふーん。ならいいけど。少しでも襲おうとしたらほんとに殺すからね?」
「んじゃ、私は雪と喋ろうとしたら骨一本折ることにする。もちろん、触れようとしたら殺すけど」
「何この人たち。怖すぎるんだけど……」
「んじゃ、付いてきてもいいよ。もちろん、あんたにもこの宝石の使い方考えてもらうけどね!」
「ん。サンキュ。俺も一人で寂しかったし、良かったよ。これからもよろしくな!」
「なに笑顔で雪と握手しようとしてんの? お前の手を握ったら雪にお前が移るじゃん? やめてくれる?」
「痛たたたっ。ちょ、折れるって!ストップ!ギブギブ!!」
「もう。花奈もその辺で許してあげて」
「雪に言われたらしょうがないか」
「はぁ。折れるかと思ったぁ……」
こうして、私たちの旅にまた新たな人が加わった。
なんだかんだ言っても、私と花奈はレギスの事が嫌いではないし、旅は楽しくなるだろう。
そして、熾天使の雫も何故か入手出来たし、私達のやるべき事はこれをどう使うか調べるだけになったのだった。