六十八話 「新たな旅路」
ほんと遅れてすいません。
近くにあった木にもたれかかり、セバスさんが終わるのを待つ。
「ふぁ〜……眠い……」
ドラゴンとの戦闘で疲れてしまったのか、私の身体は休息を求めていた。
目を閉じて、少しだけ仮眠しようとした時、ふと誰かに肩を叩かれた。
「ひゃっ!」
肩を叩かれたことに驚いたのか、私は思ったよりも変な声をあげてしまい、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
「すまん。起こしてしまったか。まぁ、ちょうど起きたなら聞きたいことがある。お前は血とか大丈夫か?」
私を起こした犯人はセバスさんだった。ただ、いつもとは目が違う。今の目はなんていうか、冒険者の頃の目だと思う。
「あ、全然大丈夫ですけど……」
今までに血とか何度も見ている。正直に言うと、今死体を見てもさほど驚かない自信もある。
「ふむ。なら、解体をやって見るか?」
「良いんですか!?」
「お、おう。まぁ、教えとけば便利だしな。初めからドラゴンは厳しいと思うが、ま、俺が手伝えば余裕だろう」
解体が出来ると知り、目が完全に覚めてしまった私はセバスさんと共にドラゴンの元へと向かった。
「よし。まずはなにをすればいいんですか?」
「うーん。そうだな。まず、このナイフを使って、そこの鱗の間に上手く切り込んでみろ」
そう言って、セバスさんは私にナイフを手渡してきた。私が使っている短剣よりも少しだけ重みのあるナイフ。これが解体ナイフというやつなのだろうか。
「ま、多分初心者には無理だと……思う……って、もしかして普通に出来てるのか?」
「えっ? こんなの出来ない人いるんですか?」
「ま、まぁ。うむ。良しとしよう」
そして、私はセバスさんから解体のほぼ全てを教えてもらった。ほとんど使うこともないらしいが、今回はドラゴンの目をくり抜いて、そこから魔石を取るという作業も教えてもらうことが出来た。
「ま、本来なら魔石なんて持ってる魔物は少ないんだけどな」
セバスさんが私の手に持っている魔石を見て呟く。
確かに、この魔石はすごく綺麗。日本の宝石よりも格段に綺麗といえるだろう。
「ほぇー。ってことは、私達は割とレアな魔物を倒したってことなんですね!」
「ま、そうゆうことになるな。さて、そろそろレイラ様の元へと戻らなければ……」
「そうですね。そろそろ花奈達を呼びに行きましょうか」
ドラゴンの元を離れ、少しだけ歩く。花奈達が何処にいるのかわからないが、まぁ、付近に居ることは確かだ。
「お、やっと見つけた!」
ドラゴンの元から少し離れた花畑に二人はいた。レイラちゃんが花の冠を頭に被りながら走り回っている。
「あ、ゆきおねーちゃん! 戻ってきたー!」
レイラちゃんは私を一番に見つけ、隣にいたセバスさんよりも私に抱きついてきた。ちょっとだけセバスさんに勝った気持ちでいるのは内緒だ。
「ん。ただいま。さ、早くお城に戻ろっか!」
「うん! レイラもお腹空いたー!」
「でも、どうやって戻る? 歩くにしても結構時間が掛かるからなんか食べてから戻るでもいいけど……」
「いえ、この転移石を使えばいいんじゃないですか?」
セバスさんが手に持っているのは一際大きい石。どうやら、それを天にかざせばお城へと一直線で戻ることが出来るらしい。なんて便利なアイテムなのだろう。
「さぁ。使いましょう!」
「セバスー! 早く!早く!」
「いやー。楽でいいねぇ」
「では、失礼致します」
こうして、私達は無事に王都へと帰還した。お城へ入り、レイラちゃんとセバスはご飯を食べに何処かへ走って行ってしまった。
だが、それは丁度いい。今から私達は王様に話がある。それをレイラちゃんに聞かれるとどうしても困るのだ。
「おぉ!よくぞ戻った! 無事でよかったわい」
「はい。転移石のお陰で無事戻ることが出来ました。それで、折り入って相談があるのですが、王様の知り合いなどに鍛冶屋は居ませんか? ドラゴンの素材を使った防具を作っていただきたいのですが……」
さすがの私も王様の前だと敬語を使う。不慣れな敬語だがまぁ、まだマシな方だろう。
「ふむ。鍛冶屋か。一人だけ知り合いがいるが、あやつは頼みを聞いてくれるかのぅ……ま、素材を渡せば嫌でも作るであろう。明日の朝にでも素材をわしにくれれば鍛冶屋に渡しておくぞ?」
「さっすが王様! ほんとありがと! 」
「ありがとうございます。では、明日の朝に渡しますね。それと、私達は明日の朝にここを出ます。本来の目的は果たせなかったのですが、ついつい長居してしまいました」
「ふむ。そうか。では、今夜が最後の晩餐じゃな。楽しみにしてるが良い。豪華にするからな!」
王様に一礼だけして、私達は謁見の間を出た。流石に疲れ果てた私は、部屋へと戻り、寝る前に明日の支度を始めた。
「ねぇ。そういえば、ここに来た目的さ花奈は覚えてるかな?」
「ゆ、ゆき。そんなに怒らないでよ。ね? 噂に惑わされたのはたしかに謝るけど、やっぱりモンスターテイムなんて無理ってことがわかっただけいいじゃん! んでんで、それよりも聞いてほしいことがあるの!」
私達は支度をしながら随分と会話していた。どうやら、花奈はまた新しい情報を仕入れたらしい。しかも、今度のは王様直々に聞いた話。
どうやら、この近辺の街でトーナメントが行われるだとか。しかも、その報酬が熾天使の雫。
「よし。そこの街行くしかないね!」
「即答だね。ま、そう言うと思ってたけど。さてと、そろそろ夜ご飯の時間か。準備もあらかた終わったし、行こっか!」
「そうだね。行こっ!」
部屋を出て、晩餐が開かれる場所へと向かった。
そこには、数々の料理と、王様、レイラちゃん含め、全ての執事と付き人、メイドが立っていた。日本にいたら絶対に見ることが出来ない光景だろう。
「さぁ、早く座るが良い」
「なんか、豪華ですね……」
「美味しそう!!! 早く食べよ!!」
「遠慮せずどんどん食べてくれ!!」
そして、私達の最後の晩餐が開かれた。皆が王様の前だというのにお酒を飲み、まるで宴会会場と化してしまった。王様も王様で楽しんでいるのだから大丈夫だとは思う。
時間を忘れ、楽しんでいるうちに、夜は更け、私と花奈はまだ一応学生ということもあり、早々に寝させてもらうことにした。レイラちゃんもとっくに寝ていたので、後は大人達だけで楽しんでもらいたい。
「雪。ここおいで」
「えっ? どしたの?」
「良いから来なさい!」
花奈は私の手を引っ張り、無理やり私を抱き寄せた。
「ちょ、苦しいって」
「いいこいいこ。ほんと、雪は可愛いなぁ」
「もしかして、酔ってる? こっそりお酒飲んだの?」
「えへへへっ。バレちった」
「もう!早く寝なさい! 私もう寝るからね!」
花奈を押し退け、私は眠りに入った。途中、花奈が後ろから抱きついてきたが、まぁ、それはそれで嬉しいので良しとしよう。
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次の日の朝、私達は目覚めた。まだあ日が昇ってあまり時間は経っていない。
そんな中、既に支度を終えている私達は謁見の間に居た。
「では、王様。この素材をお願いします」
「うむ。確かに受け取った。どうやら、出来上がりは最短でも一ヶ月は掛かるという事なので、これを持っておくと良い」
そう言って、私達に転移石を何十個も渡してきた。こんなにあっても使うかは分からないが、まぁいつでもレイラちゃんに会えると思えば最高という言葉しか出ないだろう。
「そうじゃそうじゃ。これわ雪に渡したいと思ってな」
王様が懐から出したのは装飾された一本の短剣。どうやら、これを私にくれようとしているらしい。
「王様。私は大丈夫です。受け取りたい気持ちはあるのですが、当分この今の短剣を手放すつもりはありませんから。ほんとにごめんなさい」
やんわりと断った。私の中で短剣はこのレイディスの短剣のみ。これを返すまではきっと、私はどんな短剣でも受け取らないだろう。
「そうかそうか。まぁそれも良い。きっと、その短剣は大事なものなのだろう。それよりも、お主たち、もう行くのか?」
「はい。そろそろ行きたいと思います。花奈も寝ちゃいそうですし、早く行かないと」
「そうか。気をつけてな。いつでも戻ってきて良いのだぞ?」
「はい!ありがとうございます!」
「ばいばーい。王様ありがとね〜」
私たちが謁見の間を出る時、初めて寝ぼけている花奈が喋った。まぁ別れくらいちょっと馴れ馴れしくても許してくれるだろう。更には寝ぼけているし。
「よし。花奈! 起きて!行くよ!」
「うーん。はーい……」
お城を出て、王都を出た私達はまず最初に地図を見ていた。王様から貰った地図だ。
「ん。ここから三日くらいで着くのか。良かったぁ……」
「ん〜!!目覚めた! 雪!行こ!」
「まったく。急に元気になったと思えば、すぐに引っ張っていくんだから」
「いいのいいの!」
トーナメントが開かれるのは、今日を入れてあと二週間後。ここからはその街まで三日は掛かる。私達は新たな目的を定め、また新たな旅へと向かっていくのだった。
「……………………………………やっとだ。ようやく俺の目的が達成できる…………」
何処から雪と花奈を見る影。ハイテンションな二人は、陰から見ている人物に気付くことはなかった。
生存人数:5863
残りダンジョン数:37
そして、雪たちの知らない間で、着々と人数は減るものの、まるで時計の針のように元の世界へと戻るまでのタイムリミットは迫ってきているのだった。
一応今回から新章に入ります……




