六十四話 「冒険者」
路地裏を抜け、花奈の言っていた酒場を目指している私たちの前に、なんとも言えない木造建築の酒場が見えた。もしかしなくともこれが花奈の言っていたカフェなのだろうか。このTHE 酒場みたいな見た目のこれをカフェと思うやつは居ないと思うが。
「ねぇ……もしかしてこれじゃないよね?」
「ごめん……雪」
「これのどこがカフェやねん……」
「看板にカフェって書いてあるんだもの……」
花奈が言った通り、私も看板を見てみると、本当にカフェと書いてあった。もしかして、この世界でのカフェって酒場のことを言ってるのかな?
「でも、この店さ、絶対私たちの思ってるカフェとは違うって」
「うん。そうだね。とりあえず、違うとこ行こっか」
「レイラはギルドってとこ見たいぞー!!」
私たちがどこに行くか悩んでいる時に、レイラちゃんがちょうど良く行きたい場所を言ってくれた。これで私たちの目標も定まった。
「花奈、ギルド場所分かる?」
「うーん。うろ覚えって感じかなー」
「では、私がご案内しましょう」
「おー! セバスありがとー!」
「これくらい任せてくださいよ」
何故だろう。レイラちゃんに褒められたセバスが私たちにドヤ顔してるのが凄く気になる。しかも、めっちゃウザイドヤ顔なのが凄く殴りたい。セバスってこんなキャラだったっけ?
「んじゃ行きましょうか」
セバスの後に続いて私たちが歩く。相変わらずレイラちゃんはセバスに抱き抱えられている。まだ六歳だから歩くのが嫌なのだろうか。ま、とにかく可愛いからどっちでもいいけど。
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「到着しました。ここがギルドです」
酒場を素通りして、20分くらいかな? 歩いたところで一際大きい建物に辿りついた。中からは色んな人の声が聞こえてきて、凄く楽しそうだ。
「んじゃ中入ろっか! 雪を冒険者登録しないとだしね!」
「えっ!? 冒険者登録!? なにそれ!」
「あ、言ってなかったけ? てっきりギルドに行くから冒険者登録するのかと思ってたけど」
「聞いてないけど、冒険者って楽しそうだから良いよ!」
「よしじゃあ早く行こう!」
「では、レイラ様もこちらへどうぞ」
「レイラ自分で歩けるぞー?」
レイラちゃんの言葉を無視するかのように、セバスはまた抱きかかえて肩に乗せていた。
そして、私達は建物のドアを開け、ギルドの中へと入っていった。
「もっと酒をくれ!!」
「お前に昨日の俺の武勇伝を聞かせてやろう」
「よっしゃぁぁ!! 今日からCランクだぁぁ!!」
案の定、中は凄くうるさかった。日本だとゲーセンがこれと同じだろう。ほんとにうるさい。花奈はなんか楽しそうだけど、私的には既に帰りたいまである。
「さてと、冒険者登録しに行きますか!」
「えっと、花奈は冒険者登録するの? 」
「ううん。私はもう登録してあるから大丈夫。あと、執事のセバス居るじゃん? あの人さ、実は元冒険者らしいんだよね……ここだけの話、あの人Aランクらしい……」
「ちょっと待った。そのランクってなに? 私全然分かんないんだけど」
「嘘でしょ!? 分かんないの!? 雪なら既に分かってると思ってた……」
「では、私が説明致しましょう。そこらのギルドの娘よりも私の方が早いでしょうし」
突然セバスが割り込んできた。レイラちゃんはどうしたのかと思いきや、背中で寝ていた。まさかこのうるさい中で寝てるとは思わなかったけど、普通に寝ててビックリ。
「では、説明致します。まず、ギルドでは、随時ステータスを見ることができます。まぁ、それはプレイヤーの貴女達ではほとんど意味ないことでしょうけど」
「ちょ、私たちがプレイヤーってこと知ってるの?」
「そりゃ、知ってますよ。だって、私もプレイヤーですし」
まじか。まさかプレイヤーの中に執事が居るとは思わなかった……ってか、王様の執事になるって相当凄いよね。ほんと、この人元の世界だとなにしてたんだろ。
「ごほん。では、話を戻させていただきます。花奈様も寝そうですし、早めに説明するとしましょう。
手始めに、冒険者にはランクというものがあります。それぞれ強さに応じてFからSまでですね。まぁ、Sランクは世界に5人しかいないと言われてるのでなるのは不可能に近いでしょう。
ちなみに、その中の一人が勇者ですよ。特殊スキルと身体能力のお陰でS。他は滅多に見ることは出来ないですね。それと、Cまでは普通になれますが、B以上からはランクアップ試験があり、既にBランクの試験官と戦ったり、Aランクに上がりたいなら、Aランクの試験官と戦ったりする。そこで見極めて決めるらしい。まぁ、要は自分がBランク以上になりたいなら、それに合った試験官と戦うのです。あ、ちなみに私は元Aランクですからね」
「長い説明ありがとうございます。あと、凄くそのドヤ顔殴りたいので殴っていいですか? それと、長すぎてあんまり覚えてないので、短くまとめてもらっていいですか?」
セバスの説明が終わる頃には私以外は全員寝てしまっていた。とゆうか、予想以外に長いことにビックリしたし、自分がセバスに対して強気になれている事に驚きだ。
「短くまとめるのは無理です! こっちにメモしてあるのでこれを読んでください。あと、殴るのはやめてください。そんな拳を強く握ってないでください。怖いですよ」
「んん? 話終わったぁ?」
「終わったよ。ってことで今のこの強気な気分のまま一人で登録してくるね」
「いってらっしゃーい……」
また花奈は机に突っ伏して寝てしまった。セバスもレイラちゃんの近くに寄り、見守っている。やはり、私が一人で行く以外道はないだろう。
「こんにちは! 今日は冒険者登録ですか?」
「はい。冒険者になりたくて……」
もう既に私はダメかもしれない。段々と声が小さくなってるし、なんか上手く喋れない。
「では、まず登録料として金貨1枚頂きますがよろしいですか?」
「はぃ……」
そう言って私は金貨を1枚差し出した。まぁ、冒険者は死と隣り合わせだから冒険者になるのにも少しはお金が必要という事だろう。
「ありがとうございます。では、ここにステータスオープンと呟いてください。そうするとあなたのステータスが見れますよ」
「ステータスオープン……」
小声でボソボソ呟いたが、ちゃんと反応したらしく、紙に私のステータスが映し出された。
「うーん。貴方は、Dランクからですね! では、頑張ってください! 依頼は受付に聞くか、ボードの方に貼ってあるので是非頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます……」
私は冒険者としての証としてDランクのバッチのようなものを貰った。それを持って花奈の所に行き、セバスと共に皆を起こして、とりあえずお城へと戻ることにした。
「へぇー。で、雪はDランクなんだぁ……」
「何ニヤニヤしてんの? そういう花奈はランクなんなのさ!」
「私ー? 私はもうAランクだけど? ステータスとかも雪 よりも全然強いからね!」
「ふ、ふーん。そうなんだぁ」
お城に戻ってから、セバスとレイラちゃんとは別れた。その後、王様と出会い、王都に居る間このお城に泊まっていいか聞いてみたところ見事に良いと言われたのだ。
そして、今私達は、王様が貸してくれた部屋の一つ。唐辛子の間という部屋にいる。
「ま、まぁ、ランクはどうでもいいし。それよりも明日どうする?」
既に夕方になりそうな今日はもうすることもないだろう。となると、明日なにをするか決めなければならない。
「うーん。そろそろ修行した方がいいかな、魔物狩りに行くかなー。依頼でも受けてお金も貰えば一石二鳥だしさ!」
「またレイラちゃん付いてくるかな? それなら強いとことか行けなくなるけど……」
「ま、その時はどうせセバスさんとか強い執事さんが来るっしょ! 大丈夫大丈夫!」
「そうかなぁ……」
明日のなにを倒しにいくか決めている花奈を前にして、私は強い魔物と戦うことに少しだけ不安を感じているのだった。




