六十三話 「ロリっ子現る」
私たちがまず向かったのは昨日の夜ご飯を食べた場所ではなく、事前に教えて貰った王室の横、接客の間だ。
「ほんと王都は色んな部屋あるよねぇ〜」
「うん。そうだね!」
私の頭の中は未だに夢のことばかり。どんなに考えても、あの結末は納得出来ないのだ。私にどちらを選ぶなんて出来ない。
「ん? 雪。どうしたの?」
考えてばかりいる私の前で花奈が屈んで手を横に振っている。その事に気付くのに私は少しだけ時間が掛かってしまった。
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してたの!」
「ふーん。私に隠し事〜?」
「ううん! ほんとちょっとした事だからさ! 気にしないで!」
「そっかー。ま、隠し事の一つくらいあるよね! そして、ここが接客の間だよ!」
私たちが話している間にいつの間にか目的の場所に着いてしまった。
「おぉ! よく来たな! 朝ごはんの用意は出来てるぞ! はよ座るが良い!」
「はよはよーー!!」
私達が扉を開け中に入ると、昨日も聞いた王様の声ともう一人の声が聞こえた。それも、幼い声。そして、その娘は私に向かっていた。
「あの、その娘誰ですか?」
「あぁ。雪はまだ見たことなかったか。あの娘はね、王様の娘さんで、確か、6歳だったかな?」
「うむ。名はレイラと言うんじゃ。よろしく頼むぞ」
「おねーちゃんよろしくー!!」
「ふふっ。宜しくね! レイラちゃん!」
「さてさて、朝ごはん〜」
私がレイラちゃんの頭を撫でている間、花奈はさっさと走って席に着いてしまった。
「よし。私達も行こっか!」
「うん!」
何この可愛い生き物。やばい。持ち帰りたい。言動も可愛いし、顔まで可愛いとかマジやばい。金髪も似合ってるし、ほんと可愛い。
「お姉ちゃん?」
「はっ! 」
ついつい可愛すぎて見てしまっていた。早く行かねば。
「では、食事としよう」
「いっただっきまーす!」
そして、私達は朝ごはんを食べ始めた。その時に、王様から色々なことを教えてもらった。それに、王都の地図も貰い、なんとお小遣いも貰った。その時に、この世界の私が知らなかった通貨の単位を教えて貰った。
どうやら、この世界には、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒銀貨があるらしい。日本円で換算すると、銅貨が10円、銀貨が100円、金貨が1000円、白金貨が1万円、黒銀貨が10万円らしい。そんな中、私が貰ったのは黒銀貨10枚。実に100万円だ。これさえあれば装備も買える。
「じゃあ私は王都に買い物に行きます!」
「私も行く!」
「わたしもー」
「「えぇ!?」」
なんと、私たちの他にもレイラちゃんまで行きたいというのだ。私ら的には良いのだが、王様がなんて言うか分からない。いくら私たちが居ても、王都の中は危険だろう。
「ふむ。王都を歩かせるのも勉強じゃな。花奈と雪。頼めるかの?」
「大丈夫ですよ!」
「この花奈に任せなさい!」
「やった!! おねーちゃんたちありがと!!」
こうして、私達は、レイラちゃんと手を繋ぎ、三人でお城から出て、王都へと向かった。何故か、レイラちゃんを連れてくお礼とか言って王様から黒銀貨5枚貰えたのは内緒だ。
「おい、セバスよ。花奈達を信用してないわけではないが、一応お前も陰から見張ってくれ」
「はっ! 私めにお任せ下さい。見事にバレずに見張っておきます! では!」
私たちが居なくなった接客の間で、王様とその執事が謎の会話をしている事は私たちが知る由もなく、ただただ、何を買うか迷いながら歩いているのだった。
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「わーー!!! ここがお城の外!!! すごーい!!!」
お城から出てすぐの市場を見て、レイラちゃんが叫ぶ。もちろん、周りの音が既にうるさいのでレイラちゃんの声がバレることは無い。それよりも、この反応的にレイラちゃんはお城から出たことはないのだろうか。そこが気になる。
「あれ? レイラちゃんってもしかしてお城から出たことない?」
私が思った矢先に、花奈が聞いていた。
「うん! いつもパパが大人になるまでダメって言うから出れなかったの!」
「へぇー。まぁ確かにそとはこわいからねぇ……」
なんだろう。今なおこの二人が仲良く喋っている。もしかして、私が嫉妬してるのかな? 二人が仲良くしていると自分だけ一人ぼっちな気がして嫌だな。
「でねでね!パパったらいつもお風呂一緒に入ろうって言ってくるの! それをママが止めてるんだけど! 」
「フフフッ。やっぱり王様もお父さんだね」
まだ二人で話している。私も入るべきなのだろうか。いや、邪魔だよね。やっぱり、私は一人で少しだけ見てこよう。
「ちょっとあっち見てくるね」
「花奈おねーちゃんのパパはどんな感じだったの?」
「うーん。私のお父さんはちょっと怖かったかな……」
私の声は届かなかった。見事に二人には届かず、反応すらない。その事に私はまた嫌になった。
そして、私は一人で歩き出した。少しだけ遠くなる二人の背中。
「やっぱり、私がいなくても気付いてないじゃん……」
ずっと話していて気付いてくれなかった。構ってちゃんなのは分かってる。けど、少しだけでも気づいて欲しかった。
私は、下を見ながら、歩いていた。いつしか、二人は遠くに行き、かろうじで姿が確認出来るくらいの遠さだ。
そして、いつしか私は誰もいない路地裏へと歩いていた。一体自分が何故ここに向かったのはわからない。でも、何故かこんな人気のない場所にいた。
「おいおい、そこの姉ちゃん。ここが何処か分かってる? 俺達のアジトなわけ。入りたかったらさ、体で払うか、お金貰わないとねぇ」
もちろん、こうゆう場所で絡まれるのは想定済み……ではなかった。正直言ってめっちゃ怖い。
まさかの三人で一人の女の子を囲んでくるとは思わなかった。
「おい! なんとか言えよ! てめえが女だからまだ殴ってねえだけで男だったらお前死んでるからな!!」
「ほんと、ごめんなさい……」
「あ? ボソボソ言ってんじゃねえよ!! もっとハッキリ喋れや!」
「ボス。こいつ、結構可愛い顔してますぜ。どうします? そろそろ拘束しやすか?」
「うるせえ!! まずはこいつに決めさせてやる。今は別に女には飢えてねえしな。金さえ払えば良いんだ」
「へい。了解です」
「お金……払えばいいんですか?」
「さっさと払えや。帰りたいならそうだな。黒銀貨5枚で許してやる」
「雪!!!! 大丈夫!?」
私が懐からお金を取り出そうとしたその時、花奈と王様の近くにいた執事、それに抱えられ目隠しと耳栓をしているレイラちゃんが現れた。
「ちっ! 仲間連れかよ!! お前ら!行くぞ!!」
「「へい!!」」
なんとまさかのすぐさま逃げてくれた。結構派手なバトルするのかと思いきや真っ先に逃げてくれた。これは助かる。こっちとしても怖い思いした以外は特に何もされてないし。
「雪。大丈夫? それと、ごめんね。一人にしちゃって……もっと私が周りを見てれば……」
「雪おねーちゃん見つかったのですか!? 良かったです!! セバスもありがとなのですよ!」
「ううん。花奈は悪くないよ。私が勝手に嫉妬しただけ。あぁ、後、三人とも助けてくれてありがとね!!んで、そこの執事さんが私を見つけてくれたの?」
「はい。失礼ながら、三人のあとを付けておりました。念には念を重ねてですね。その時、雪様が三人の輪から離れ、一人で歩いていたので花奈様にそれを伝え、レイラ様には耳栓と目隠しをさせていただきました。ですが、まさかこの路地裏に居るとは思いませんでしたよ。あらゆる場所を探したのですが、路地裏とはね。さすがの私も驚きです」
「そんなに捜してくれたんですか? ありがとうございます。ほんと、セバスさんには感謝してもしきれないです……」
「いえいえ。お礼なら花奈様とレイラ様に言ってください。ほんと、花奈様の慌てっぷりったら凄かったですからね。しかも、スキルを使い始めた時はビックリですよ」
「花奈。なんかスキル使ったの?」
「えへへっ。雪が心配でね。あの、遠く見れる遠視ってスキルあるじゃん? あれを両目に使って捜してたらさ、なんと遠視が千里眼に変わって、すぐ見つけれたの! でも、何故か今は遠視に戻っちゃったけどね」
そう言って笑う花奈。どうして千里眼に変わったのかは分からないけど、真剣に私のことを捜してくれたのは嬉しい。ほんと、嬉しすぎて、涙が出てくるくらいだよ。
「えへへ……なんか、目から汗が……」
「もう!泣かないでよ!」
「三人共! 私を置いて何の話をしているのですか!? レイラにも教えて欲しいのです!」
「さて、こんな場所に長居はしない方が良いよね。とりあえず、さっき私が見つけたカフェ? っぽい所で話そっか! レイラちゃんの目隠しとかも早く取ってあげたいし!」
「では、私はこれにて……」
「ん〜? もちろんセバスも行くんだよ? なんてって、ストーカーしてたんだからね。じっくりお話聞かないと」
「いや、私は王の命令で動いていた……だけ……で」
「問答無用! 行くよ! ほら!雪も!!」
「うん!!ありがとね!!三人共!」
「早くレイラの目隠しと耳栓を取ってくださいまし〜!」
こうして、少しだけ予定が狂ったけど、なんとかセバスさん含め四人の絆が深まった。無理やり連れてかれてるセバスさんがちょっと可哀想だけど、セバスさんだけ除け者にするのはちょっとやだし、皆仲良くしないとね!
そして、私達は路地裏を抜け、歩き出した。四人で仲良く話している姿は誰がどう見ても楽しそうな光景だっただろう。




