六十一話 「微妙な空気」
大変遅くなりました(´•ω•`)
私達が入ったあと、護衛の一人が門を閉め、なにかの魔法陣を仕掛けていた。
「あの、今あそこの門になにしたんですか?」
付き人に私は訊ねる。出来るだけ小さな声で聞いたつもりが予想外に辺りに響いたことには正直驚いた。
これも、この城が相当広く、音が広がりやすいという事だろう。
「あぁ。あれはですね。この城の警備の一つですよ。あの魔法陣は明らかな敵意がある人や、勝手に門を開けた者などが近づいた時に反応して、大きい音を出し、辺りの者に知らせるものですよ」
「そうなんですか! ありがとうございます」
ふむ。ってことは、あれは日本でいうと、普通に防犯システムの一ついう事だろう。
「では、今日はここで食事をするとしよう。良いかね?」
王様が指定した場所は、『郷里の場』という所だった。どうしてこんな部屋が城にあるのかは謎だが、それは置いといて、今は私の目の前にある長いテーブルが凄く気になっていた。
「わぁ……」
私がこのテーブルを見たのは、アニメや漫画だけ。ほんの少しだけ憧れていのは言うまでもない。ただ、自分の家、いや、日本にいる限り縁のないものだと思っていたから何故か少しだけ嬉しかった。
「雪。目が輝いてて子供みたいだよ」
「嘘!? 」
「はっはっは。まぁまだご飯まで時間はある。好きなだけこの城を見てきなさい。この部屋に戻りたい時は、この転移石を使うといい。この場所が登録されているからいつでも戻れるはずじゃ」
「ありがとうございます!」
「若いっていいのぅ」
転移石を受け取った私は、花奈と一緒に城を回る事にした。私は城を見るのが初めてだが、二度目の花奈は少しだけ覚えているらしく、ドヤ顔で私に案内していた。
「いやー、ほんと夢みたいだよね。こんな、絶対に日本にはないような城を自由に歩き回れるとかさ。それに、魔物とか魔法とかだってあるし。だからね、私、なんか少しだけこの世界に居ても楽しいんじゃないかなって思えてるんだ。自由だし、大人達にも何も言われない。確かに、命の危険はあるけど、ストレスは感じないからね。今の私って、多分、元の世界に戻ったら生きていけないかもしれない。それくらいこの世界に馴染んじゃってる気がするの」
周りに誰もいない時。ふと立ち止まって花奈が私に話し掛けた。それは、普段の花奈とは違い、それは真剣な表情だった。そして、花奈の言葉に私は返せない。今の私はまだ元の世界に戻りたいのだ。でも、これを言ったら花奈はどう思うだろう。そう考えるだけで言葉が口から出ない。
「雪!そろそろ戻ろっか!」
さっきの真剣な表情から一転して変え、いつもの花奈に戻った。ほとんど城の中を見ていないが、この静かな空間に微妙な空気の二人が居るべきじゃないと思ったのだろう。やっぱり、こうゆうとこが花奈の空気の読める所だと思う。
「花奈……ごめんね」
「ううん。大丈夫。雪と私の思うところは違ってもほんとに大丈夫だから」
花奈は分かっていたのだろうか。私が元の世界に戻りたいってことを。どうして戻りたいのかは分からない。でも、元の世界に戻れるなら、また桜達が居る日常に戻れる気がする。
そう思うとやっぱり私は戻りたい。
そして、私達はお互いに複雑なまま王様の居るところへと戻っていった。
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「おお! 戻ったか。丁度いい! 今わし専属のシェフに作らせているところだからな!」
私がまず思ったのは、この世界でも料理人をシェフと呼ぶこと。それと、王様が私達の空気に気付かず、普通に話しかけてきたことだ。
「ん? どうしたんじゃ? 喧嘩でもしたかの?」
ようやく空気を察し、訊ねてきたが、まぁ、喧嘩とは言えないし、どうしようもない。
「いえ、早くご飯を食べたかっただけですよ」
「そうそう! ご飯ご飯! 早く!早く!」
出来るだけ私達は心配掛けないようにと、いつも通りの私達を演じた。
「そうかのぅ。では、そろそろ食べるとするかの! お主たちも席に着くがよい!」
私の心は複雑なまま食事は始まり、付き人含む、大勢の人間でご飯を食べるのだった。
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そして、ご飯を食べ終わり、結局私達は城に泊まることとなった。お酒を飲んだ王様がしつこく泊まれと言うのでしょうがなく泊まったのだ。決して、お城に止まりたかったとかそうゆうのじゃない。
「わぁ! なにこれ! スイートルームじゃん!!」
私と花奈はもちろん、同じ部屋だった。既に先程までの複雑な気持ちは無くなり、今はこのまるでホテルのような部屋を楽しんでいる。
「やっほーい!……なにこのベッド! めっちゃフカフカ!! やばっ!! ほら! ちょっと雪も来て!!」
ちゃんとお風呂とトイレは別で、部屋はリビングと二つ。2LDKくらいの広さでさらにリビングは何畳あるか分からないくらいの広さだ。今、私はお風呂の様子を見ているが、花奈はベッドで遊んでいる。叫んで私を呼ぶ様子はまるで子供のようだ。私は笑いながら花奈の元へと向かった。
「全くー。子供じゃないんだから、ベッドで遊ばないの!」
「えぇー。だって、雪もこの部屋見て子供みたいにはしゃいでたじゃん!!」
「うるさいなもう! それはそれ! これはこれなの!」
「ぶーぶー!」
花奈が不満げ口を膨らませている。その様子が私には面白く見え、遂には吹き出してしまった。
「あはははは!! なにその顔!」
「え!? そんな変な顔してたの!?」
「うん! あはっ。やば、涙出そう」
「もう!私の顔はいいから!お風呂行こ!!」
「はーい!」
私たちは、二人でお風呂に入り、色んな所を洗いあった。まるで昔一緒に入った時を思い出した私は、凄く楽しかった。花奈はどう思っていたのだろうか。それに、花奈の胸が……くっ……
「よし!寝よう!」
お風呂を出て、下着のまま花奈は叫んだ。でも、私はまずこう言いたい。
「服着なさい!!」
「やだ! 暑いもん!」
「あなたは女の子だから着なさい!」
「なんか雪がお母さんみたいでやだー!!」
「私が着せてあげるから!」
「しょうがないなぁ。着てあげるよ」
「なんでそんな上から!?」
少しの会話だけでも、二人なら楽しい。もしここに桜が居たら、エミリが居たら、いや、考えるのはやめよう。
「ふぅ。やっと寝れる……なんか、疲れたから早く寝たかったんだよね……ぐぅ……」
なんと、花奈は喋りながら寝てしまった。部屋は幾つかあるが、今更分けて寝る訳がない。丁度キングサイズのベッドがあったので、二人で寝転んで話そうと思ったらこれだ。
「もう。昔のこと話したかったのに……」
電気を消し、花奈に布団を掛け、頭を少し撫でたあとに私も花奈にくっつき深い眠りについた。寝る前に、少しだけ桜たちを思い出して泣いたのは私だけの秘密だ。




