五十九話 「天使」
勇者と別れ、王都へと向かった私たち。
正直、何の為に王都に行くんだと聞かれた、目的はないので言い返すことすら出来ないが、しいていえば、あるアイテムが欲しいと言えるだろう。
「ほんとにそのアイテム王都にあるの?」
「うん! 私が噂で聞いた話だと、王都に居る、謎のおじいさんに勝利すれば、テイムの指輪が貰えるとか……」
「なんの勝負で勝てばいいんだ……」
「そ、それは、私も分かんないなぁ〜……」
桜とエミリの悲しみを分かち合ってから、私達は一層仲良くなっていた。ただ、今の花奈の言葉にはあまりにも信憑性がない気がする。所詮噂は噂な気がするし、明確に手に入れる情報言ってないし、嘘のような気が……花奈もなんか口笛吹きながらそっぽ向いてるし。
「全く、これで何もなかったら、王都に行く意味無くなっちゃうからね!」
「ま、その時はさ、王都の近くにあるダンジョンで鍛えよっか!」
「しょうがないなぁ〜」
既に勇者達のお陰でレベル自体はわりかし高くなっている。だが、肝心の戦闘がまだ微妙だ。
今現在王都に向かっているが、途中に出てくる魔物も大抵短剣で一振りすれば倒せるし、倒せなくても花奈がさっさと倒してしまう。やはり、あのダンジョンが強すぎたんだろう。
「そう言えばさ、なんか人を復活させるアイテムとか花奈知らない?」
未だに私はエミリと桜、それにライカさん達を復活させればしたい。そんな都合の良い物ないと思っているが、もしもの希望に縋るのも別に良いだろう。
「うーん。なんか、あるにはあるらしいんだよね。でも、今までも私が見たことないし、勇者達も見たことないって言ってたんだよね〜……ごめん」
「ううん。まぁ、知ってたら先に言ってるもんね……いや、あるって分かってればまだ希望はある! 頑張って探さないと! で、ちなみに、アイテムの名前とか分かる?」
いくらこの世界にあるという事が分かっても、名前がわからなくちゃ意味がない。見ようと思えば、鑑定で効果とか見れると思うが、一々試すのはめんどくさいだろう。
「あ、それは分かるよ! 確か、熾天使の雫って名前だった気がする! あと、一応、なんか手に入れるには熾天使と会わなきゃいけないとか言ってたよ!」
天使と出会わなきゃいけないとか無理ゲーすぎる。天使って普通に空飛んでますよね……ははは。私は人間ですからね、空の上とかいけませんし、こりゃ無理そうな気しかしない。
「ま、とりあえず熾天使とやらがいたら交渉して貰えばいいってことね。多分、出会うことないと思うけどさ」
私の言葉に返答はない。それどころか、花奈は何故か遠くをずっと見つめている。私から見ても何も無いが、花奈にはなにか見えてるのだろうか。
「どしたの?」
私がのぞき込みながら訊ねると、ハッと、我に返り私に言葉を返してくれた。
「うーん。私さ、スキルで遠視っていう千里眼の下位互換のスキル持ってるんだけどさ、それを使ってこの先の王都を見てたのよ。そしたら、今さっき話してた、熾天使? かどうかは分からないけど、なんか光の輪っか見たいのを頭に付けた羽の生えてる人が飛んでるんだよね。ただの天使か変人かもしれないけど!」
興奮気味に答える花奈は少し息を荒らげていた。
私は、花奈の言葉を信じ、天使に会うためにと走り出した。
「熾天使じゃなくても、天使に会えばもしかしたら、熾天使の雫の在り処を教えてくれるかも!」
「うーん。どうだろうね〜。もしかしたら、ただの変人かもしれないし」
これ以上走りながら喋ると舌を噛みそうだったので、私は喋るのをやめ、走ることに集中した。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
王都までは距離があった。確かに、私走ったが、当分まだ着かないだろう。だが、それほどまでに花奈の遠視は凄いという事だ。
「ねぇ、もしかして、あんまり強い魔物と出会わないのって……花奈のお陰?」
花奈が遠視を使い、先に強い魔物が居ないか、確認しているのなら納得出来る。現に、花奈は何度か私に左方向に行こうや、今回は右! とか指示を出してくれる事もあった。
「うん。だって、強い魔物と戦わない方が良いでしょ? 死んだら嫌だし……なんか嫌だった?」
「ううん! ただ気になったから聞いただけ! ってか、むしろ有難いよ! 弱い魔物の方が楽だからね!」
「良かったぁ……もしも雪が強い魔物と戦いたいなんて言ったらどうしようと思ったよ」
「あはは。ゲームの中ならそうかもだけど、命懸かってるから無理だよ〜」
いつの間にか走るのをやめ、歩いて向かっている。
多分、これからも花奈と一緒に居ると、どうしようもない場合以外だと強い魔物とは出会わないだろう。それは、良いようで悪い気もする。でも、善意でやってくれている手前、嫌だとは言えないし、どうしよう……
「ま、たまには、ちょっと強いくらいの魔物と戦ってみない? 私も鑑定があるから、どのくらいの強さか分かるしさ!」
鑑定がどの範囲まで通じるか分からないが、まぁ、目で見える範囲には通じると信じたい。とゆうか、むしろ花奈の遠視と組み合わせれれば良いのに。
「そうだね! 私達も勇者達みたいに強くならないと! ちょっとずつでも魔物と戦ってレベル上げよっか!」
「うん! がんばろ!」
私達は、ゲームの中のようで、現実の世界でまた目標を定めた。確かに、ダンジョンをクリアしなければならない。私だって元の世界に早く帰りたい。けど、少しくらいならこの世界を楽しんでもいいよね? せっかくのゲームの世界だし、定番のRPGみたいだしさ。
「お! 王都が見えてきたねぇ」
いつの間にか、だいぶ歩いたらしく、私達の視線の先には王都が見えていた。
それに、花奈の言っていた、天使のようなものが王都の真上に浮いているのも見える。
「よし! また走ろっか!」
天使を自分の目で見た私は、俄然やる気を出し走り出した。ただ、そのやる気は虚しく終わった。
天使は私たちの前から消えてしまった。だが、私の頭にふわりと一枚の羽根が落ちてきた。真っ白の羽だ。
「これ、なんかに使えないのかな……」
一瞬の思いで、私は鑑定を使用した。花奈は私の行動に不思議がっている。
天使の羽根
効果:この羽根を天に掲げることで、一度だけ天使を呼ぶことが出来る。ほとんど入手することは出来ず、入手出来たものは相当な幸運の持ち主だろう。
ただ、使用する時は注意するべき。羽根が真っ黒な時は……
「えっ……ここで終わり?」
「ん? 雪、どうしたの?」
私が見た鑑定の結果は、途中で終わった。しかも、めっちゃ知りたいのに終わった。まるで分かっているかのような焦らしだ。
「この画面、見てくれる?」
今の鑑定の画面を花奈に見せ、花奈にも知ってもらう。
私と同様に花奈も驚いているが、まぁ、それが普通の反応だろう。
「ま、とにかく王都は目の前だし、入りますか!」
私達は門に近づき、入ろうとした。でも、一つだけ忘れていることがある。
こうゆう場所には必ずある、検問だ。もちろん、私達はそれを無視して入ろうとしたので、怒られてしまった。
怒られた後は、普通に検問してもらい、必死に謝り、どうにか入れてもらった。とゆうか、花奈が喋った瞬間に色々変わった気がする。
………………
ま、まぁ、そんなこと気にせず私と花奈は仲良く王都の中へと入ることが出来たのだった。




