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ゲームで少女は夢を見る  作者: ねぎとろ
2章 『親友』
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五十八話 「友情」

 町の中心部にある酒場に私達は到着し、勇者達を探していた。私らが宿屋に戻っているのに対し、勇者達はそのまま来ているのだから、既に中に居るのかもしれない。


「とりあえず私が中見てくるね〜」


 私の意図を察したのか、花奈が気を利かせて酒場に入ってくれた。正直私は酒が嫌いだ。あの独特な匂いと、酔っ払った人達の声、後はよくわからないけど、とにかく好きではない。


「早く帰れれば良いけど……」


 勇者達との話はどれくらい掛かるのだろう。まぁ、私の命の恩人と言っても過言ではないから、話すくらいは別に良いが、普通に今は帰りたい。別に自己紹介とか要らないだろ! とか心で思ってたりするが、口に出すのはやめておこう。


「雪〜。勇者達居たよ〜」


 私の手を引きながら、酒場の中を案内する。入った直後に漂う匂いに私は本気で帰りたくなった。もはや、勇者とかどうでもいい。そんな事よりも、この気持ち悪くなった私に謝れと言いたいくらいだ。


「お! やっとか!」


「遅くなってごめんね〜」


 既にお酒を飲んでいる勇者達と話を進める花奈。もちろん、私は匂いに耐えつつ、そこら辺をぼーっと見ている。


「んじゃ、とりあえず雪に紹介するね!」


「あ、うん」


「何その反応。絶対話聞いてなかったでしょ!」


「き、聞いてたし! それより、早く紹介してよ!」


 実は、ほとんど聞いてなくて曖昧に返事したなんて言えない。とゆうか、勇者達の紹介が終わったら私の番なのかな。なに話せばいいんだろ……


「えーっと、んじゃ、まずは勇者から行くかな」


「これが、かの有名な勇者様。確か、本名はガイウス的な感じだった気がするよ!」


「覚えてないのかい! 勇者の名前忘れるって……だから勇者って呼んでるのね……」


「ほんとそれな! 俺の名前いい加減覚えろよ。まぁ、勇者って呼ばれても全然良いけどさ……」


 勇者が勇者らしくないくらい小さい声で文句を言っている。やはり、お酒って怖い。人類最強の勇者をここまでにしてしまうんだから。


「ま、勇者の事は放っておいて、ほかの方の説明行きましょ〜!」


 あれ? もしかして、花奈は普通に楽しんでるだけなんじゃ……まさか、勇者を放っておくとかないよね。うん。花奈なら絶対に楽しんでる確定だね。


「んじゃ、この人から〜……」


 そこからの話は長かった。総勢勇者含めて四人紹介するだけなのに、余計な雑談やら、花奈の毒舌やら、私のツッコミやらで一時間以上は掛かっただろう。

 でも、お陰で色々分かった気がする。特に、勇者がお酒を飲むとおかしくなるって事とか。


「ねぇ花奈。あの勇者こっちに戻さなくていいの?」


 上手く会話に入れなかったせいか、勇者は隅っこで文句を言っている。しかも、チラチラとこちらを見ているのがなんか可愛い。結局は構ってほしいんだろう。

 まぁ、私は無視して構わないけどね。

 

「んじゃ、最後に、雪に自己紹介してもらって解散するかな!」


 やっとこの場所から解放される。既に会話を始めてから三時間は経っていただろう。私の体がそろそろお酒の匂いに耐えれなくなっている。そんな思いがあり、私は自己紹介をさっさと済ませた。


 私の自己紹介は可もなく不可もなくという感じで終わり、普通に解散となった。私達は先に酒場を出て、宿屋へと向かう。


「なんか、勇者の人達が思ってたのと違ってたな〜」


「それは良い意味で?」


「うん。そうだよ」


 私の中での勇者といえば、お酒なんて飲まないイメージだった。だが、それが単なるイメージだと今日発覚してしまった。知りたくなかったような気がしなくもない。


「さて、後は、宿屋で雪とお話だね!」


「うん……」


 私は、これから話すことを頭の中で簡潔にそれでいてわかり易く伝えるため、脳をフル回転させていた。

 宿屋に着くまで残り五分程度。時間にしては短いが、覚悟を決めるには充分な時間だ。


 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


 宿屋に着き、部屋に戻る。私にしては、完全に纏めることが出来たと思う。まぁ、ぶっちゃけ頭で思った通りに説明するとか無理だけども。


「よし。早速だけど話を聞こうかな!」


  「うん。ちゃんと話すね」


 私はさっきまで纏めていた言葉の数々を頭に浮かべながら話し始めた。


「あのね……あれ?」


 いや、話せなかった。話そうと思っても口から言葉が出ない。喉になにか詰まったような感覚で話すことすら出来ないのだ。


「ううん。私が意地悪だったね。大丈夫。ちゃんと分かってるよ。でもね、その悲しみをやっぱり自分で話せなきゃダメだと思う。やっぱりエミリの事は私も悲しい。その時はいっぱい泣いたけどさ、雪と出会えてなんか嬉しくなったし、一緒に悲しみを分けれたら大丈夫かなって思えた。だからね、雪の口から聞きたかっただけ。あはは。ほんとにごめんね。急かしちゃってさ……」


「花奈……やっぱり知ってんだ……でも、わたし、花奈の言葉は正しいと思うの。私も、エミリのことをもっと早く話そうと思ったし、それに……桜のことも……」


「桜!? 桜ちゃんがどうしたの!?」


「うそ。でも、エミリの事は知ってるんだよね? ううん。これは私の言葉で言うね。私の妹、桜は死んだの。これも、エミリから聞いたんだけどさ、私の知らない間……で、桜……が、いな、く、なっ、……」


 私の心はやはりダメだった。桜とエミリの話をすると涙腺が崩壊して泣いてしまう。


「雪。大丈夫。私の胸で泣いていいよ。私がすべて受け入れるから。友達としてさ、悲しみを背負わせてよ。えへへ……」


「ありがと、花奈……」


 私と花奈はその日一緒に寝た。あ、変な意味ではないよ。起きた後、ちゃんと桜とエミリの話をして、私がどんな風に生きてきたか、花奈がどうして勇者と出会ったかの話をした。

 花奈は勇者との出会いの話はあまりしなかったから、今度聞こうと思う。でも、今は二人で一緒に居れることが何よりの幸せ。


「でさ、花奈はどうする? これからも勇者と旅するの?」


「ううん! ちゃんと勇者の人達に話したの! 雪と一緒に旅して、雪を守るから当分一緒に行けないって! あの人達もプレイヤーだからさ、仲間の大切さとか分かってて、私が行くことも普通に良いって言ってくれたから、って、私の語彙力ないね、てへへ」


「大丈夫だよ!大体分かったから! これで一緒に冒険出来るね!」


 私の中では夢の中の夢だった。この世界で誰かと一緒に居ることが私の夢でもあったから、花奈と一緒に居れることは半端なく嬉しいのだ。


「お、お前らもどっか行くのか。俺らは、また引き続きダンジョン攻略行くけど、お前らはどうするんだ?」


「私二日酔いで頭痛いんだけど……」


「うるせえ。お前が呑みすぎたんだろ。愚痴ってんじゃねえ」


「あうぅ……」


「あはは。んじゃ、私と雪はとりあえず王都に行くね。またどっかで会ったらよろしく〜」


「おう! そっちの子も宜しくな! 花奈は割とうるさいけど、まぁ許してやってくれ」


「は、はい! 頑張ります!」


「何それ〜! 全く、そうゆうこと言うのやめてよね!」


 私達は街の外で最後に皆で笑いあったり、話したりした。中々歩き始めなかったのはまだ寂しさもあったからだろう。


「よし! じゃあ!ほんとに行くわ! じゃあな!!」


 勇者が切り出し、勇者達は歩き出した。それに続き、私も王都へと向かうことにした。


「「さようなら(じゃあね)!」」


 去りゆく背中に挨拶し、全くの逆方向に向かって歩き出す。まだ見ぬ王都への希望と、勇者達の無事を願って。

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