五十四話 「勇者という存在」
少し横になり、休憩をとった私は、意を決して宝箱を開けることにした。やはり、人間は欲深いと思う。罠かもしれないのに、好奇心が上回って欲に眩む。ま、私は自分とで言うのもなんだけど結構欲深いと思うからね。
「えぃ!」
少し警戒しつつ、宝箱を思いっきり開けた。
「……………」
私の警戒は虚しく終わり、結局何も起きなかった。ちょっとだけ何かが起こるのを期待していたのか、ガッカリしている自分も居る。
「ま、とりあえず中身貰っとくかな……」
帰りのことなんて知らない。それよりも宝箱の中身のが重要だ。ほんと、マジでもう一回あの暗闇とか通りたくない……
「えっと、お金とスクロール? 呪文書的なやつかなぁ……」
宝箱には、割と多め? のお金と一枚のスクロールが入っていた。まぁどうせ、このスクロールは魔法だろう。
「これじゃ結局、あの暗闇を突破出来ないじゃんか……」
まぁ、何が出たら突破出来るんだと言われたら、ぶっちゃけ言葉を返せないけどさ。うん。通るしかないよね。
「はぁ。通りたくないなぁ……怖いしなぁ……」
呟きながら必死に今いる部屋を探索する。何処かに隠し扉や抜け道があることを少しだけ期待しながら歩く。
「うそっ! やった! 抜け道あった!!」
嬉しさのあまり声を上げてしまった。私が探し始めて、部屋を一周しそうになった頃に抜け道は見つかった。半ば諦めていた私にとってこれはもはや神からの贈り物と言っても過言ではない。
「この抜け道の先が安全でありますように……」
私が屈んで入れるくらいの大きさの抜け道を通り、どんどん進んでいく。この先がもしかしたら、ボス部屋かもしれない。そうなると、私は死を覚悟するだろう。
「おっ、出口が……」
結局、この抜け道は普通に外へと繋がっていた。私が入ったダンジョンの入り口付近だ。辺りは既に暗く、夜迎えていた。月の光が妙に明るく、夜なのに普通に見えるほどだ。
「ん~……とりあえず街に戻るかな」
お金はあるし、街に戻って宿屋に泊まろうと思ったのだ。夜に探索するよりも、充分に休んでから朝に探索した方がいい。どうやら、この世界でも夜になると魔物が活発になるので危ないとかいう噂も聞いたし。
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街へと帰る道中、私は魔物と数回しか出会わなかった。やはり、私は魔物を寄せ付けない体質でもあるのだろうか。今までもそんなに襲われなかったし。
「よし。前と同じ宿屋に行こっと!」
私が知っている宿屋はあそこしかない。この世界でのエミリとの思い出の場所だ。
「ふぅ。やっぱりお風呂いいねぇ……」
ダンジョンで入手したお金を使い、前と同じ部屋を頼み、お風呂と食事も頼んだ。
汗をたくさんかいていた私は、真っ先にお風呂に入り、今出た状況だ。食事はまだ出来てないようなので、私は部屋でスクロールについて調べることにした。
「うーん。このスクロール。読めるには読めるんだけど……どう使えば良いのかなぁ」
やはり、プレイヤーとしての力なのか、どんな言語も読めるようになっている。スクロールには日本語で光魔法【ライト】と書いてあるが、使い方までは書いていない。
とゆうことは、自分で調べろという事だろう。
「とりあえず、明日にでもダンジョンで調べてみるかな」
宿屋のおばさんから食事が部屋に運ばれてきたタイミングで私はスクロールをアイテムバッグにしまった。
「ん。この世界の食べ物美味っ!」
なんの食材を使っているかは分からないが、絶妙に美味い。日本でいうと、和食の部類に入るであろう食事は私にとって最高だった。
食事が終わると、私はクゴの実を取り出し、デザートとして食べる事にした。やはり、この実は美味しい。日本のフルーツを超えるくらいの美味しさだろう。
「よし。寝るか!」
電気を消し、本当は歯磨きとかしたい所を我慢して私は寝る事にした。明日も早起きしなければならない。そう思うと、疲れていたのか自然に眠ることが出来た。
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「んん……何この騒ぎ……」
私が寝ている間に祭りでもあったのかと思うほど騒がしい。まだ時間にして朝の6時だ。
「何かあったんですかぁ〜……」
あくびをしつつ、宿屋のおばさんに尋ねる。
「こんな時にまだ寝てたのか。ま、お前さんにはあまり関係ないかもな。今は、勇者が来てるんだよ。どうやら、この付近のダンジョンを攻略するとかで王都から来たらしい」
これを聞いて私が驚いたのは二つ。まず、この世界に勇者がいるということ。ゲームの世界だから居るだろうとは思っていたが本当に居るとは思わなかった。
もう一つは、王都があること。私の中で、首都がこの国の中心だと思ってたが、もう一つ国民が集まるところがあったらしい。それが王都。
「王都って誰でも入れるんですか?」
「いいや。あそこは無理だね。王都は基本的に入れない。限られた人物か、王様に認められた人。まぁ、始めに門で選別されるんだよ。そこで入れる人は決まる。主に貴族とかは入れるらしいけど、一般人じゃ厳しいだろうね」
ってことは、首都は誰でも受け入れる都市で、王都は選ばれた人が入れる所と。私は入れるかな? 花奈とか王都に居そうな予感がするんだけど。
「おばさんありがとね! 私はもうダンジョンに行くことにするよ!」
「死なないように気を付けるんだぞ」
なんだかんだ言って優しいおばさんに挨拶をしてから私は宿屋を出た。
宿屋付近はそれほどでもないが、少し先に進んだところはとてつもなく賑わっていた。やはり、勇者というのは凄いものなんだろう。
「ま、私には関係ないけどね」
私は出来るだけ早くダンジョンに向かうために、小走りで人混みを抜けた。途中、チラッと勇者が見えたが、まぁ案の定金髪のイケメンというテンプレな人物だったね。
「そういえば、勇者が来るダンジョンって何処だろ……」
ダンジョンの付近にたどり着いた時、入り口に何人かの人が立っていることに気づいた。そして、それは勇者のパーティーということもすぐに気づくことができた。
「嘘っ。ここのダンジョンだったのか」
何故私より早く着いてるのか分からないが、まぁどうせ魔法の力だろう。
「はぁ。勇者とは一緒に行きたくないし、私は抜け道から行こーっと」
その時の私は完全に忘れていた。抜け道から入ると、またあの部屋に辿り着き、あの暗闇の中を通らなければならない事に。
勇者がダンジョンに入り、私は動き出した。前の抜け道付近に近づき、そこからコソコソ入る。
「勇者がクリアしちゃうのかなぁ……」
初のダンジョンは自分で攻略したかったが、勇者が居るなら多分無理だろう。
「今回は、絶対にダンジョンから出ないようにしなきゃ」
せっかく回復薬とかも買ったんだ。限界まで戦うつもりで私は今日来た。だから、私は逃げない。勇者か私がクリアするまではこのダンジョンに居るつもりだ。これが私のガチのダンジョン探索。昨日の単なる下見。これからが本気だ。
心の中で私は意気込みながら、抜け道を進んでいく。
こうして、勇者は普通に入口から、私は抜け道から、別々にダンジョン攻略を開始するのだった。
今回全く進んでないですが、勇者を出したかったです……すいませんぬ




