五十一話 「もう挫けない」
若干のシリアスですのでご注意を
エミリが死んだ日。私は何も出来なかった。その場に立ちすくみ、数十分は唖然としていただろう。
唖然としている私を見て、宿屋のおばさんが手を貸し、とりあえず部屋へ連れて行ってくれたのまでは覚えている。だが、どうにも昨日の夜の記憶が薄れている気がするのだ。
「あれ……昨日何があったんだっけ……」
エミリが居たということは覚えている。だが、エミリと出会って、エミリが死んだってことしか分からないのだ。具体的に何をしたというのは一切私の記憶から消されている。
「じゃあ、なんでエミリは死んだんだ?」
記憶が薄れていく中、エミリの死がどうしてか分からなくなっていた。でも、一つだけ分かる。それは、この世界での死についてだ。
「これでハッキリした。この世界は、死んだ人の事を少しずつ忘れていく世界だ。親しかった人は徐々に記憶から消されていく……そうゆう世界なのだろう」
でも、なんで妹のことは忘れてないんだろう。それはまだ、妹が死んでないから? それとも、姉妹だからかな?
「あれ? この部屋。よく見たら、エミリの泊まってた所?」
元々、私が泊まっていた部屋の隣がエミリの部屋だった。きっと、宿屋のおばさんが間違えてしまったのだろう。でもこれはこれでいい。まだ私はエミリという存在を覚えておきたいから。絶対に記憶からは消したくない。
「ん? ベッドの隙間になにかあるような……」
記憶が薄れていき、次第に涙が枯れた頃、ベッドの隙間に落ちている一枚の紙を見つけた。
それは、エミリが死ぬ前に遺したであろう、遺書のようなものだった。
「私が見て良いのかな……」
少しの罪悪感を感じながら、中身を拝見した。
「私の親友。雪へ
多分。これを見ている時には、私は自殺していると思う。でも、決して雪のせいじゃない。きっと、私自身が弱かったからだと思う。だから、余計に苦しませてしまってたらごめんね。雪のことだから、きっと悲しんでるよね。私なんかのために悲しんで涙を流してくれていたのならありがとう。そして、もう一度言うけど、ごめんなさい。
それに、話は少し変わるけど、昨日の夜のことまだ覚えているかな? 忘れてるかもしれないけど、あの時に雪に話した言葉は少しだけ嘘が混じってるの。えへへ。ごめんね。あの夜、ライカさんとユリナさんは私が殺したって言ったけど、あれは、嘘なの。あ、でも、こう書くと私が嘘つきみたいだよね。だから、ここに本当の事を書くね。
ライカさんとユリナさん、それに、雪の妹の桜ちゃんは魔物と人間によって殺されたの。まだ三人と出会ってなかった私はたまたま襲われている三人を見つけた。そして、ライカさん達の願いで桜ちゃんだけを首都に連れて行ったの。首都の事は、分かるかな? あの炎に包まれた日。その時に桜ちゃんは首都に居たんだ。そこで、私が護れずに人間に殺された。あの狂った人達に。でも、その気持ちも少しは分かるんだ。私もこんな世界に来ちゃって狂いそうだったしね。桜ちゃんが死んでから、あんまり仲良くなかった私は桜ちゃんの記憶が消えていくことに恐怖を感じたの。それと同時に薄れていく罪悪感に私は潰れてしまった。きっと、それに耐えれずに私は死んだ。だから、最後にもう一度だけ。私の大好きな親友。雪見。今まで友達でいてくれてありがとう。そして、さようなら」
丸めて挟まれていた遺書の内容は、長かったけど、私は読み切った。途中、目が霞んで読みにくかったけど、しっかりとエミリの気持ちも伝わった。
「やっぱり、桜も死んじゃったのか……」
桜が死んだことももちろん悲しい。でも、それよりも、エミリが殺人を犯してないことが嬉しかった。逆に、人を助けようとして、更には、私の唯一無二の妹を護ろうとしてくれたのだ。私からもありがとうと言いたい。
「エミリ。これからもずーっと、私の友達だからね。ありがとう。そして、何も出来なくてごめんね」
紙に問いかけるように言葉を掛けた。下を俯いていたからかな。大粒の涙が紙を濡らしていく。滲んでいく髪を見て、私は更に涙を流していた。
「桜。お姉ちゃんが護れなくてごめんね。こんなお姉ちゃんで本当にごめんね。いつもいつも喧嘩とかしてたけど、やっぱり私、桜のこと好きだったんだよ。だって、今こんなに悲しいんだから。桜が居ないと寂しいし悲しい。それにさ、今までずっと一緒だったからか、まだ死んだってことに実感がないんだよね。ううん。ただの現実逃避ってことくらい分かってるの。だから、桜にもちゃんと言うね。
今までこんな駄目な姉でごめんなさい。そして、いつもありがとう。桜のこと絶対に忘れないからね」
はたから見たら泣きながら独り言をずっと言っている変な奴だろう。でも、どうしても言葉にしたかったのだ。例え、二人に届かなくても、この思いを言葉にしたかった。
「エミリ。桜。私、頑張るからね。こんな世界、絶対に抜け出して見せる。お空からちゃんと応援してよね!」
涙を拭い、いつもの私に戻った。無理やりだけど、天国にいる二人が悲しまないように私はこの世界から脱出する。でも、どうしても妹とエミリに二度と会えないと思うと、涙を拭っても溢れてくる。
「お姉ちゃん……私、待ってるから。絶対に死なないでゲームをクリアしてね……」
何処からか、私を励ますかのように妹の声が聞こえてきた。そして、その声によって、私の涙は不自然にも止まり、同時に二人がまだ生きていると思ってしまった。ただの現実逃避と言われればそうかもしれない。でも、今は、そうゆう風にでもしてやる気を出したいのだ。
「うん。私、頑張るから!」
その後の私は早かった。持ち金を使い、防具と食料。それに、替えの服やら、必要なものを全て購入した。防具といっても、服に魔力を込め、見栄えは良く、防御力も少しは確保しているというやつだ。
「あとやることは……」
とりあえず買ったものをアイテムバッグに突っ込んだ。食料などはこれで大丈夫だろう。替えの服やらも突っ込み、今の服は捨てて防具を着込んだ。
「良し、行くか!」
私は街を飛び出した。この世界にある100個のダンジョンをクリアするために。そして、妹達ともう一度出逢うために。
今回で一章終わりですよ。次回から二章に行きます!




