五十話 「友達」
一人で街に入り、歩いていると色んな人たちを見ることが出来た。例えば、私と同じプレイヤーであろう人。完全にこっちの世界の人。ドワーフっぽい人? さらには、魔族のような人までもいた。中には、私と同じプレイヤーなのに、とてつもなく強そうな装備をしている人もいる。
「ほぇー……首都ってもしかしたら、こんな感じだったのかなぁ……」
当たりを見渡していると、自分の格好が少しだけ恥ずかしい。薄汚れたジャージ。それに加え、明らかに場違いな綺麗な短剣。髪も土埃で汚れている。
「お風呂入りたいなぁ……」
まだこの世界にお風呂というものがあるのか分からない。でも、自分の汚れに気付いてしまった今、どうしても、お風呂に入りたくてしょうがなかった。
「へぃ!そこのお嬢さん!なにかお困りかな?」
ふとした時、とてつもないほど怪しい人に話し掛けられた、とても派手な服に、サングラス。それに、髪の色は金髪で怪しさ満点だった。
「い、いや。大丈夫です……」
こんな怪しい人に相談したら、お金が全部消えちゃう。そんな事になったら、私は生きていけない。そうなると、することは一つ。
「それでは、ごめんなさい! そして、さようなら!」
それは、謝って逃げることだ。相手の返事も聞かず、無我夢中で私は走り出した。そして、周りを見ていなかった私の不注意で、私はスピードの出ている馬車に轢かれた。
「おいあんた!大丈夫か!? まさか、急に飛び出してくるなんて……」
意識が朦朧としている中、周りからの雑音だけが頭に響く。それ次第に頭痛になり、私は痛みに負け、倒れてしまった。
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私は夢を見ている。既に今の私は自分の世界が夢なのか現実なのかハッキリとわかる程になっていた。そして、今見ている私の夢が前に見た夢と殆ど同じということにも既に気付いている。
黒い影が私達を襲い、全員を皆殺しにする。まぁ、前回一度見たから何となく分かるのだが、今回は少しだけ内容が違っていた。まず、喋っている声が私には聞こえず、もちろん、私からの声も届かない。
それに、何よりも一番変わっていたのが、桜と花奈の存在だ。
前回は存在していたはずなのに、今回は何故か居ない。そして、その事に気づいた時、私の夢は突然ブラックアウトした。そう。ここで夢が終わってしまったのだ。
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夢が終わり、どれくらい経っただろう。私の目はようやく覚めた。
「うーん……ここは、どこだろ?」
見知らぬ天井。周りには、私が寝ているベッドとほぼ同じものが並んでいる。
「おっ、目覚めたかい。あんた、運がいいねぇ。傷一つないみたいだし、私が助けたのも、あんたの友達? とやらに頼まれたからだからねぇ……」
私の友達が助けてくれたってことか。でも、それは誰だ? もしかして、花奈? いやでも……
「あ、それと、あんたの服は洗わせてもらったからね。それに、その汗かいた身体じゃ嫌だろうし、お風呂はいってきな」
まさか、お風呂に入れるなんて。あの人天使すぎないかな……
「あっ! 雪!起きたんだね!」
私がお風呂に入った直後、まるで図っていたかのように誰かが話し掛けてきた。話し方からして、女の子というのは分かる。が、ここまで馴れ馴れしく話しかけくるのは変な気もする。きっと、この人が私の友達? なのだろう。
「って、エミリ!?」
「えっ!? 何をそんなに驚いてるの!?」
「いやだって、完全にエミリがこの世界に居ないと思ってたし……」
「まぁ、事前に連絡とか取ってなかってし、私も元々ログインだけしようと思った程度だからね……」
なんて事だろうか。私と桜と花奈だけかと思っていたのに、まさかのエミリまで居た。これは本当に嬉しい。でも、となるとライカさんや、ユリナさんも居る可能性が出てくる。ここは、一応エミリに聞いてみるとしよう。
「まぁ、エミリがこの世界にいて心強いよ! それとさ、聞きたいことがあるんだけど、良い?」
「なんか、軽いなぁ……ま、いっか! 会えたんだし、それでいいや。んで、私に聞きたいことってなに? 私の知ってる範囲でなら答えるよ!」
「あ、うん。じゃあ聞くけど、ユリナさんとライカさんってこの世界に居るの?」
「ユリナさんとライカさん…………ううん!私は知らないよっ!ごめんね。力になれなくて……」
「あ、いや。全然大丈夫だよ! 逆に知ってたら凄いし!」
私は気付いてしまった。気付かなければ良かったことに。それは、私の質問でユリナさん達のことを聞いた瞬間のエミリの顔だ。ほんとに一瞬だけいつもとは違う顔をしていた。まるで、二人のことを知っているような顔だ。その後は、普通に戻ったが、完全に怪しい。二人のことを知りつつ何かを隠しているのだろうか。
「うん! それじや、私は忙しいからちょっと出掛けてくるね!ユリナさん達の情報手に入れたらまた話すから!」
私のいた部屋から出て、外へとエミリは走って行ってしまった。窓から見えたエミリの姿は、見る見るうちに遠ざかり、いつの間に見えなくなっていた。
「はぁ。今からどうしようかなぁ……あのおばさんもお風呂に入ってこいって言ってたし、とりあえずお風呂行くかぁ」
ノロノロと立ち上がり、私も部屋を出た。途中、道が分からなくなり、おばさんに聞くハメとなったが、結果的にはお風呂場に着いたので問題は無いと言えるだろう。
「ん〜……やっぱり、お風呂って最高!」
服を脱ぎ、すぐさま身体を洗いお湯の張ってある風呂桶に入った。少し熱いが、久々のお風呂ということもあったので、私はウキウキしながら楽しんでいた。
結局、私はお風呂に長居してしまい、気づいた時には、数時間が経っていた。正直、気持ち良すぎたのが悪いと思う。
「さてと、今からどうしようかな。もう外は暗いし、やっぱり寝るべきだよね!」
寝て起きて、お風呂入って寝る。ほんとにだらしがない生活だ。まぁでも、たまに位なら良いと私は思うから良いってことにしておく。
さすがに、何も食べないわけにもいかないので、寝る合間に大量にあるクゴの実を食べ、私は寝床についた。先ほどおばさんと話した限りだと、明日にはここを出ていかなければならないらしい。どうやらここは宿屋で、お金が無いものは普通泊まれない場所とまで言っていた。
「明日は街を探索しないとっ!」
自分の貰ったお金を少しだけ見てから、アイテムバッグにしまい、私は眠りについた。
私が眠りについて数十分経った時。少しだけ異変が起きた。それは、私の寝ている部屋のドアが静かに開いたことだ。普通ならば開くことは無いドア。誰かが開けたとしか思えない。
「えっ……」
私は静かな音に目が覚めてしまい、布団の中で寝た振りをしていた。初めに少しだけ発した声がバレていないか心配だったが、どうやらそれは杞憂に終わった。
「ごめんね。雪。私、もうダメみたい……」
薄々感づいていた。そろそろエミリが私を殺しにくると。最初にエミリに会った時、少しだけ服の端が血で赤くなっていた。そして、きっとその血はユリナさん達のものだろう。どうやって殺したのかは分からないが、エミリは狂ってしまったようだ。
「ねぇ、エミリ。もしかして、あなたはこの世界に来て狂ってしまったの? 首都にいたあの人達のように……」
私に謝りながらなくエミリを見て、私は遂に話しかけた。突然の私の言葉にエミリはビクッとして、手に持っていたナイフを床に落とした。
「雪。起きてたんだね。あはは。私の計画が失敗しちゃった……でもね、もう、この世界はダメなの。プレイヤーなんて生きてはいけない。この世界にいたら雪も狂っちゃうよ? だから、私が殺すの。ユリナさん達も私が殺した。でも、私の行動は間違ってない……はず……」
「ねぇ、どうしてエミリはそうなったの? この世界にいても、普通は狂わないと思うんだけど……」
「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい! この世界は狂ってる! 何も知らぬただの人間だった私たちを虐殺し、またその知り合い家族も殺す。これが狂ってないわけがない! だから、首都は破壊されたんだ! 私たちの同士によって!」
「やっぱり……か。首都が関係してたんだね。でもさ、エミリは本当に私を殺したいの? ユリナさん達を殺して、私を殺したらこの世界の人達と同じになっちゃうんだよ? それに、さっきも私を殺す時謝ってたし、本当は自分がやっていることがおかしいって事に気付いてるんでしょ? だったらもう辞めようよ! 今からでも遅くはないからさ、私と一緒に……」
「雪は、優しすぎるよ……ごめんね。そして、さようなら」
私の言葉を遮り、エミリは落ちたナイフを拾い、部屋を駆け出した。
突然のことに驚いた私は、エミリを追い掛けず、その場でただ泣きじゃくることしか出来なかった。
そして、そのまま朝を迎えた。
翌日、私は知りたくないことかを知ってしまった。昨日の夜、エミリが死んだらしいわ、原因は自殺だった。出会ったその日に別れた私の数少ない友達。もしも、あの時私が追いかけていれば助かったかもしれない。そう考えると罪悪感で胸が痛くなる。
「ねぇ、桜。私はどうすれば良かったの?」
この場にいない桜には聞こえる筈もなく、風に乗って私の言葉は消えてしまった。
次の話で一章が終わりますよ〜~( ´•౪•`)~




