四十八話 「崩壊」
レイディスと共に城へと向かう中、辺りからは、燃え盛る炎の音とそれに紛れて色んな声が聞こえたきた。
「よっしゃぁ!これでレベルアップだぜ!」
「やめてくれ……俺には家族が……」
「うるせぇ!死ね!」
「どうしてお前ら、こんな事を……」
聞こえてくる声はどれも、悲惨なものばかり。人を殺してレベルアップし、強くなってまた殺す。今ここにいる殆どのプレイヤーはその行為をやっているのだろう。
「くっ……下衆な奴らめ……」
ここで私はレイディスの態度が何故変化したのか気付いてしまった。それは、今のこの有り様が原因だろう。プレイヤーが首都を燃やし尽くし、破壊しようとしている。もちろん、私もプレイヤーの一人だ。レイディスに嫌われるのも無理はない。
「ねぇ、レイディス。きっと、レイディスは今ここに居るプレイヤーと同じように、私のことを嫌いになっていると思うの。でもね、これだけは言わせて。今ここにいるプレイヤー以外にも、ちゃんとした優しいプレイヤーも居る。一応、私もその一人だと思ってはいるけど、そこはレイディスが判断して欲しい。でも、今の状況だけで全てが悪だと決めないでほしい」
「俺には、分からない。まず、プレイヤーというものがこんなに居るなんて思わなかったし、ましてや、この国の大事な首都を破壊しようとするなんて思わなかった。それはもちろん、お前を見ていたからだ。初めて出会ったお前は、優しかった。それは、鑑定の結果もあるし、俺が直で判断したからだ。でも、今この惨状を見て、俺は迷っている。お前を信じるべきかどうかを。迷ってしまっている自分が本当に嫌いだ。でも、これはどうにもならないんだ。なぁ、どうにかして俺を信じさせてくれ。お前が悪でないことを証明してくれ」
悪でないことの証明。それは、果たして私に出来るだろうか。まず第一に、どこからが悪なのかすら分からない普通の高校生だぞ? 確かに、今この世界にいるプレイヤーの大半は悪と言える人物達だったのだろう。それは、今の有り様で分かる。
「そ、そうだ。今のこのプレイヤー達は、きっと狂ってるだけなんだよ!一緒に居た人達が急に殺されて、少しおかしくなってるだけ!きっと、すぐに治るって!」
それは、苦し紛れの言い訳だった。私の言ってる言葉は何もかもがおかしいし、矛盾すらしている。殺されて狂っているのはきっと合っているのだろう。ただ、治るのは無理だろう。
「そうか。お前の言いたいことは分かった。ただ、一つだけいいか? お前の言っている言葉は正しい部分もあると俺は思っている。人間は誰しも、身近な人が殺されたら狂ってしまうだろう。それは、本能的なものでしょうがないものだ。でも、これは俺が思うに治らないと思う。もちろん、根拠が無いわけじゃない。実際に狂った人達を見たから俺は言えるんだ」
やっぱり、レイディスも分かっている。今のこの状況が絶対に覆らないという事を。そして、一回狂った人達が治るのはほぼ無いという事までも。
「それって、レイディスと同じ竜族種の人達のこと?」
私がレイディスを見て思ったことは、竜族種についてだった。昔の話を聞いた限り、この首都で竜族種達の虐殺のようなものがあったのは分かる。きっとその時に反乱が起きたのだろう。そして、その時に今と同じような狂った人を見たんだと私は思う。
「よく分かったな。俺が見たのは、俺の種族が殺される時だ。俺は、その時運良く逃げていたが、辺りを見渡して気付いたんだよ。急に竜族種狩りが行われ、狂い始めている人たちをな。竜族種の身近な人間やエルフ、他の種族達は、徐々に狂い始め、狂気と化していた。その時既に、殺すことくらいしか脳に無かっただろう。目を見れば大体分かるしな。しかもだ、今のこの状況、俺は色んな人を今の首都で見たが、どいつも目が狂っている。だから、こいつらがもう普通に戻るのは無いと俺は思うんだ」
「そう。でも、前回も今回と同じなら、どうして首都は残ってるの? もう既に壊滅していてもおかしくはないと思うんだけど……」
「前回は今よりも人が少なかったし、個人の力も弱かったからな。何とか抑え込めたんだろう。ただ、今回は違う。全く人数も違うし、個人の強さも違う。既に分かっていると思うが、今回で首都は壊滅するだろう。それに……」
そこまで話し、急にレイディスの口は止まった。視線を真っ直ぐ捉え、黙っている。わたしも同じように前を見るが、炎が邪魔で何も見えない。一体レイディスは何を見ているんだろう。
「おい、お前は、アレを見てもまだ治ると言えるのか?」
突然の言葉。前を見据えながら私に話しかけている。それでも、私には答えることは出来ない。炎が邪魔でまだ見えていないし、何も返せない。
話しかけられ、数分経った頃だろう、炎が少し止み、レイディスが何を見ていたのかハッキリとわかった。
「嘘……あの人達……」
人が群がり、剣を突き刺している。もはや見るに堪えないが、どうしても、目が釘付けになってしまう。その刺されている人物は、この国において、最も有名な人であり、一番居なければ居なければいけない人だった。
「王……様……」
それは一見王様に見えないだろう。でも、頭に被っている王冠のお陰で王様に見える。ただ、今やその王様も服を奪われ、全裸。それに、王冠だけの状態だ。
「ねぇ、レイディス……あれ、どうする?」
私としては助けたかった。でも、私一人では絶対に勝てない。相手は複数人いるのだ。一人の少女では勝てない事は明らかだろう。
「ねぇ、レイディスってば!」
いい加減返答がないことに怒って、隣を見ると、またもやレイディスは消えていた。音もなく消え去り、また私の前から姿を消した。そして、今の声により、王様を殺そうとしていた人たちは私に気付き、一斉にこっちを向いた。それは、目が充血して赤くなっており、とてつもなく怖かった。
「に、逃げなきゃ……」
震える足を無理やり動かし、走ろうとしたその時、何処からか、か細い声が聴こえてきた。
「助けて……くれぇ……」
この状況でその言葉を発するのは、一人しかない。それは、紛れもなく王様。私に気付いた王様は、私に救援を知らせている。でも、私は怖かった。助けて欲しいという声を無視し、私は走り出していた。恐怖が勝ってしまったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
目からは涙が出ているが、走る足を止めない。どうしても、殺されるのは嫌なのだ。あの場で助けていたらほぼ確定で私は死ぬだろう。でも、それでも助けるべきだったのかもしれない。結果的に、私は人を裏切ってしまったのだから。
「私にもっと力があれば……」
後悔と自分の力の無さに私は未だ涙が止まらなかった。やがて、走り続けていた私は外へと出て、炎に包まれる首都から逃げ出すことに成功していた。
「レイディス……どこにいるの?」
レイディスが居ないことを思い出し、ふと呟く。そんな時、私の声に反応するかのように首都は爆発した。これで、首都の人たちはみんな死んでしまっただろう。そう思うくらいの威力はありそうだった。
「レイディスが死んでなければ良いけど……」
この大きな首都を最後にどうやって爆発させたかは分からないが、この一夜にして、この国の大部分は壊れ、何十万という人々は亡くなった。見ず知らずの人が死んだという時、私は無意識のうちにまた涙を流し、桜と花奈、レイディスの無事を祈るのだった。
はっはっはっ!