四十六話 「私とレイディス」
村をこっそりと出て、レイディスの案内の元、首都へと向かっていた。途中、何度か魔物に遭遇したが、レイディスの魔法のおかげで何とか乗り切ることは出来た。が、現状レイディスに頼りすぎた結果、私は元気で、レイディスは疲労している状態になっている。
「あの、毎回助けてもらってありがと……あと、全く戦力にならなくてごめんね」
今までの雪原地帯を抜け、今や広い草原と木々が生い茂る所に居る。なんというか、ゲームでいう序盤のエリアみたいな場所だ。
「いや、そろそろお前にも戦ってもらわねばならん。雪原の魔物を抜けたから、この草原は余裕だろう。魔物の強さが桁違いに弱いからな」
ですよね。やっぱり、そろそろ私も戦わなきゃダメですよね。今までが楽すぎたんだ。
「でも、私、魔法使えませんよ? まだ教えて貰ってませんし、武器もないので戦えないですし……」
せめて魔法を教えてもらうか、武器さえあれば戦うことは出来る。が、今の私は赤い木の実くらいしか持っていない。まぁ、これはこれで食べ物には困らないくらいあるから良いのだが。
「そうだな。じゃあ、これを使うといい。それと、魔法はこの本を一通り読めばお前なら使えるようになるだろう。本当なら、俺が教えてやりたいが、現状は少し辛くてな」
そう言って、レイディスは自分が持っていたもう一つの武器、短剣を渡してくれた。それと、私用に持ってきてくれたのか、初級魔法が書いてある本をくれた。
「ん、ありがと! とりあえず、魔法は時間がある時に覚えるとして、レイディスはお腹空かない?」
時間は分からないが、そろそろご飯を食べる時間だろう。まぁ、私がお腹空いているだけだが。
「そうだな。そろそろ飯にしよう。だが、俺はあまり飯を持っていないが、大丈夫だろうか……」
そう言って、レイディスは村を出る時に持ってきた乾燥した肉と、水を取り出した。もちろん、私は謎の赤い木の実。とゆうか、これしか持っていないからしょうがない。
「ん!私はこれがあるから大丈夫!」
「ちょ、待て!お前、それって、クゴの実じゃないか? そんな貴重な物食べてほんとに良いのか? 俺の乾燥肉で良ければ分けるが……」
えっ。この木の実ってそんなに貴重な物なの? いっぱいあった気がしたんだけどなぁ。
「ううん!この木の実ならいっぱい持ってるから大丈夫!」
私そう言って、アイテムバックから木の実を取り出し、レイディスにも分けた。初めは、アイテムバッグの存在にも驚いていたが、しっかりと説明して分かってもらい、木の実についても説明した。
「お前、そのアイテムバッグ? とやらは、あまり人前で公開しない方がいいぞ? 俺だからまだ大丈夫だが、その存在はあまりにも大きすぎる。まず、時間を止めて食べ物が保存出来るという点でだな……」
「はいはい!分かったから食べよ!」
「お、おう。ほんとに気を付けるんだぞ? それと、ほんとにこのクゴの実貰っていいのか?」
「さっきも見せたけど、まだまだこの木の実いっぱいあるから大丈夫だって!」
「俺なんかが貰っていいのだろうか……」
未だボソボソ何か言っているが、この際無視しよう。それよりも、私はレイディスに聞かなきゃいけないことがある。
「ねぇレイディス。今から結構質問するけどいい?」
「俺なんかが貰って……」
「もう!村長だったんだから!もっとシャキッとしてよ!こんな木の実程度でさ、ボソボソ。私が聞きたいことがあるから、ちゃんと答えてよね!」
「は、はい。でもだな、この木の実ほんとに貴重だぞ? 俺の村でも、年に一つ。良くて二つ取れればいいくらいだからな、俺が食べるのもあまり無いことなんだ。だから、結構戸惑ってしまってな。すまん。よし。もう大丈夫だ。それで、質問ってなんだ? 俺が答えれる範囲でなら答えるが」
この木の実ってそんなに凄いものだったのか。ってことは、私がたまたまいっぱい取れたあの木は伝説的な何かなのかな? まぁ、雪崩で既に消えちゃっただろうけど。
「ねぇ、レイディスはさ、もしも私が違う世界の人だとしたらどうする?」
きっと、ここ以外の世界から来たと言っても信じないだろう。正直な話、私もこの世界に来るまでは異世界に行く。なんて思ってもみなかった。
「つまり、お前は異世界人ってことか?」
やっぱりか。まぁ、信じられるはずないよね。
「うん。私は違う世界から来たよ。多分だけど、私みたいな人をプレイヤーって言うんだと思う。そして、私はこの世界のことは何も分からない。せいぜい知ってるのは、スキルの種類とか名前。いや、この世界では魔法っていうのかな? 後は……」
「なるほど。お前は異世界人だったのか。で、それがどうしたんだ? 仮にお前がプレイヤーとやらでも、お前が俺と違う世界で生きていたとしても、お前に対して、嫌悪感などは抱かないぞ? むしろ、その違う世界の話を聞きたいくらいだ。それに、今お前が言っていたスキルってのはどんなものなんだ? そんなもの、聞いたこともないぞ?」
私が話そうとした途中で、レイディスは言葉を挟んできた。さらには、私の言葉を信じて、尚且つ、日本について聞きたいと言われた。ただ、レイディスがスキルについて知らないというのが気になる。この世界において、スキルは無いのだろうか。だとすれば、完全にここはゲームというよりも異世界という風になってしまう。
「そっか。ありがとね!レイディス!それと、私が居た世界のことは言わないよ〜!もっと、仲良くなったら教えてあげる!」
今はとりあえず、異世界についてとスキルについては言わない方が良いだろう。余計な疑問を持たせてしまう訳にはいかない。
「いや別に、そんなに知りたいわけではないが、まぁ、お前が言う時までは聞かないでいてやろう。それと、俺からも聞きたいことがあるんだが、聞いていいか?」
既に、木の実も食べ終わり、お腹は膨れている状態だった。どうやら、気付かなかったが、この木の実には、満腹にする作用があるっぽい。そして、現状、私の目の前には、真剣な表情のレイディスがいる。それも、私に聞きたいことがあるとまで言っているのだ。もちろん、私は聞く。私も質問したんだ、レイディスにも質問する権利はあるはず。
「これは、少しだけ真面目な話だ。もし、お前が鑑定の魔法を手に入れたらどうする?」
まるで、子供のような質問だった。そう、例えるなら、大金持ちになったらどうする? みたいな軽い質問だ。でも、レイディスの顔は真剣。これは、大事な質問なんだろう。
「鑑定の魔法。私なら……使わないかな。それに、勝手に人間を見るなんて良くないと思う。あ、魔物とかは別だよ? あと、明らかに敵対してる人とかね!あれ? でもそうなると、普通に使ってることにもなるし。うーん……」
「いや、もう大丈夫だ。お前がお前で良かったよ」
その意味深な言葉の後、レイディスは一人立ち去り、私を一人にした。
「お前で良かった……か。どうゆう意味なんだろ」
考えても何も思いつかない私は、とりあえず広い平原に場所を移した。と言っても、魔法の練習をするためだが。
「よし!とりあえず、この本の通りにやってみよっと!」
本を片手に、記載されている通りに、魔法を放つ事にした。
「えーっと、手に魔力を集めて、それを一気に燃やす?」
書いてあるとおりにイメージをし、最後に手から炎を放つ感じにしてみると、成功した。いや、正確には成功はしていない。何故なら、炎は手から出ているのだ。飛ぶまでは至ってない。
「よし!とりあえず、ここまで出来れば、次は撃てるはず!」
そして、私はその日一日、ひたすらと【ファイヤーボール】を撃つ特訓をした。そして、夜になってもレイディスは戻らず、久しぶりに一人での就寝となった。