四十五話 「竜族種の生き残り」
困ったこと。それは、魔法とこの世界においてのスキルについてだ。今さっき気付いたが、魔法とスキルの違いはどうなるんだろうか。そこら辺も聞きたいし、他にも聞きたいことは山ほどある。でも、現状は一番。魔法が欲しい。しかもこの状況、せっかく頼っていいと言われてるんだから、頼るしか道はないだろう。
「あの!今、出来ることなら何でもしてくれる的なこと言いましたよね!」
いや、私の記憶が正しければ、こんなこと言ってないはず。まぁいい。こうゆう風に言っておけば、乗ってくれるかもしれないし、最悪、無理やり言えばなんとかなる気が……
「えっ、俺はなんでもなんて言ってないぞ!ただ、困ったことがあれば、助けてやると言っただけだ!」
ふっ。そんな返し、私の前では無力。もちろん、こんな感じに言い返されると分かってたさ。さすがに、この人も馬鹿ではなさそうだしね。
「えー。じゃあ、私に弱めのでいいから、魔法教えてくれませんか~? 今、魔法が使えなくて困ってるんですよね~」
私の作戦、上目遣い!もちろん、上目遣いなんてやったことないけど、テレビで昔見た感じ、大体同じ感じだから、成功するに違いない!
「えっ、別にいいんだが、その下から目線はなんなんだ?」
下から目線!?何それ!上目遣いって、下から目線って言うの!?
「あ、はい。なんか、すいません。で、なんの魔法教えてくれるんですか?」
私はいつも通りの素に戻り、話を進めた。今の間は一刻も早く、お互いの記憶から消さなければならない。完全に、いや、主に、あいつの記憶から消さなければならない。そのためには、普通に話を進めるのが一番だろう。
「ん、そうだな。元々、お前に教えてやろうと思ってた魔法だ。もちろん、一番弱い魔法、そして、使ってる奴が最も多い魔法だ。対して威力もないから、教えても問題無いと思ってな」
やはり。普通に話を進めるだけで、記憶から、私の上目遣いは消されていく。ふふふ。人間の脳はなんてチョロいんだろうか。
「ふむふむ。で、なんて名前の魔法なのですか?」
一応、今は強気じゃない方がいい。とゆうか、段々と花奈と喋ってるように話しちゃいそうで怖いな。まだギリギリ大丈夫な気がするけど。
「あぁ、お前には、実践で見せてやろう。と言っても、私の家の中心にある、私専用の魔法修練場だがね。本物の敵は居ないが、私が教える魔法だと充分過ぎる広さだから、大丈夫なはずだ」
村長は言い終わると、立ち上がり歩き出した。どうやら、後を付いてこいということらしい。だが、ここで私はふと思った。この村長の名前についてだ。相手は鑑定でこっちの名前がわかっているんだろう。なのに、私は知らない。これは不公平だ。教えて貰わなければ……
「あの!村長さんは、名前なんて言うんですか? あと、見た目は結構若いですよね? なのに、村長になった理由とかも聞いてもいいですか?」
ずっと疑問に思っていたことだ、明らかに見た目は青年。なのに、村では村長と呼ばれている。それが謎だった。確かに、鑑定が使えるのは便利だが、村長である必要は無いはずだ。きっと、何か理由があるのだろう。
「そうだな。お前には、話してもいいか。なんとなく、これからもお前とは付き合いが長くなりそうだし。立ち止まって話すと魔法を教える時間が無くなるから、歩きながら話すとしよう。俺の村長になった理由と名前についてをな」
そして、村長は歩きながら口を開き始めた。自分の生まれと、名前。村長になるべくしてならなきゃいけなかった理由と鑑定を持った理由までも。
「まずは、名前を教えてやろう。俺の名前は、レイディス。まぁ、レイと呼んでくれていい。後は、そうだな。竜族種の伝説をお前は知っているか?」
竜族種。この世界に来て間も無い私は、竜族種など知るわけもなく、そして、伝説などもっと知らなかった。
「その顔は知らないようだな。まぁ、知らなくていいが、教えてやろう。
その昔、竜族種には、一人の力を持った男がいた。そいつは、とても優しく、正義感に溢れるいい奴だった。だが、その男は力を持ちすぎた。それゆえに、いつからか力に溺れ、国を滅ぼそうとした。そこで、この国の王は、全兵力を使い、その男諸共、全ての竜族種を絶滅へと追い込んだ。っと、まぁ、これが伝説の内容だな」
「えっ、でも、それは竜族種の話であって、レイディスとは関係ないんじゃ……」
「いや、俺は竜族種の唯一の生き残りだ。当時三歳の俺は、まだ竜族種だとバレなかったんだろう。それもあってか、母親は、俺とこの村に来た。そして、父親は俺たちを逃がすために、戦った。それが俺がこの村に来た理由だ。まぁ、村長になったのは、ほぼ成り行きだがな」
そこから、魔法修練場までの道のり、レイは話を続けた。そして、少し黙った後、また話し始めた。
「そういえば、噂程度で聞いたが、ここ最近、首都の方で、竜族種がどんどん増えているらしい。ただ、首都の人間は竜族種を毛嫌いしているから、殺されてないといいが……」
その言葉を聞いた瞬間、悪い予感がした。私はメニュー画面を開き、生存人数の確認をし、その数字を見て、少し怖くなった。
「嘘……でしょ?」
その数は、今までより減っていた。私が見た時は、十万程だったのに、今や一万人も減っている。もしかしたら、竜族種じゃなく、普通に死んだ可能性などもあるが、今の噂通りだと、大量の私と同じような人が殺されたということになる。
「いや、でも、一万人もこんなにすぐ殺すなんて無理、だよね」
今思えば、人数が既に増えていない。これは、もうこの世界に来る人間がいないと言うことだろう。そして、それが意味するのは、この残った人数でこのゲームをクリアしなければならないということだ。
「おい、さっきからどうしたんだ? 急に、驚いた声を上げたり、ボソボソ呟いたり、何かあったのか?」
私の急な行動にレイディスはびっくりしているようだった。だが、私にはやるべき事がある。それは、首都へ向かうことだ。この世界において、私のような人間が向かうのは大体は首都だろう。ならば、私も向かうしかない。
「ごめん。私、行かなきゃ行けない場所を見つけちゃった。せっかく魔法教えてくれようとしてたのに、ほんとにごめんね」
首都に行き、この世界を知っている人を見つけ、話を聞く。それと、私と一緒にこの世界来た、二人も見つけなければならない。生存人数が減っている今、一刻も早く、二人に合わなければいけないのだ。
「そうか。ならば、俺も付いていこう。元々、この村はそろそろ出ていく予定だったしな。今なら、擬態魔法も使えるし、普通に生活する分には何処に行ってもバレないはずだ。だから、俺も連れていけ。これは、命令だ」
それは、思ってもみなかった言葉だった。まさか、レイディスが私と一緒に来てくれるなんて……
「でも、私が行くの、首都だよ?」
竜族種のレイディスには、首都に行くのは辛いだろう。噂が本当ならば、今頃、竜族種が殺された話が飛び交っているだろうし、そんな所でバレたら死を覚悟しなければならない可能性だってある。
「あぁ、なんとなく、そんな予感はしてたさ。でも、俺の心配なら無用だ。自分の身くらい自分で守れる。それに、俺が無理言って付いていくんだ、最悪見捨ててくれても構わない」
どうゆう訳か、私はこの世界来て、仲間が増える。でも、前の仲間は思い出せない。そして、今、レイディスをどうすればいいのだろうか。きっと、普通に言っても聞いてくれないだろう。
「やはり、俺を連れてくのは無理か?」
「いや、本当に私に付いてきて良いの? 村長としての義務とかもあるんじゃないの?」
「いや、俺の側近に一人、俺のことを良く知る人物が居るが、そいつに村長を任せる。そいつなら、大丈夫だろう。信頼も厚いし、俺がいなくなることも話したしな。問題はない。それに、お前に付いていくことがもしかしたら、俺のメリットにもなるかもしれないからな」
「そう。んじゃ、頼もっかな!レイディスが居れば、安心できそうだし!魔法とかも教えて貰えそうだしさ!」
「全く。自分の身くらい守れるようになれよ?」
そして、私たちの話は終わり、目的を定めた。魔法修練場に行く予定だったが、道を翻し、家を出る事にした。幸いにも、この家は、村から少し離れている。逃げることは容易だろう。
「それじゃ、行くかな!」
少しだけ、この村に居たい気持ちもあったが、それよりも、二人に会う気持ちが上回ってしまった。
「あぁ、行こう。おれの気持ちが変わらないうちに。あと、外に出たら、少しだけ時間貰っていいか? ほんの少しでいい」
「うん!大丈夫だよ!」
そして、家を出て、数分待っていると、少し悲しそうな顔をしながら、レイディスが帰ってきた。
「話は終わったの?」
「あぁ。あいつも、納得してくれたよ。ちょっと怒られちゃったけどな」
レイディスが外に出た理由。それは、村長の後継者に話をするためだ。この村に来てから、仲が良かったのだろう。私が少し見た限りだと、相手の方は泣いていた気がする。
「もう一回聞くけど、この村に残ってもいいんだよ?」
正直、魔法についても知っていて、この世界についても、少しは知っているレイディスが居なくなるのは少し悲しい。でも、本人の気持ちが最も重要だ。それを尊重したい。
「いや、俺は俺で目的があるからな。この村とは、長い間おさらばするよ。大丈夫だ。問題ない」
「そっか。それと、悲しい時はいつでも泣いていいからね?」
今にも泣きそうな顔で話すレイディスに言うと、その言葉で涙腺が崩れたのか、目から涙が出ていた。
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レイディスの泣いている時間はほんの少しだった。
「すまんな。俺の無様な姿を見せてしまった。あれは、忘れてくれ。とりあえず、もう行くとしよう。ここに居たら駄目だ。また、泣き出してしまうかもしれない」
泣き終わっての一声が、私への謝りだった。そして、どうやら早く行きたいようだった。
「そうだね。行こう」
「あぁ、それと、お前がさっき知りたがっていた、この世界の名前と、国の種類や、首都の名前など、俺が知っているものは、後で歩きながら話そう」
どうやら、私が知りたいことを教えてくれるらしい。やっぱり、レイディスは優しい。
「ありがとね!レイ!」
こうして、また仲間が増えた私は、村の正式な出口からではなく、荒れた獣道から、レイディスと共に首都へと向かったのであった。




