四十三話 「犠牲の果て」
魔物の背中に乗り、雪原を走る中、幸運なことに吹雪は吹かなかった。辺りも未だ太陽が出ている昼間。なのに、この雪原の雪は溶けない。熱自体を通さないのか、それとも、魔法かなにかで防いでいるのかは分からないが、正直私としては溶けて欲しかった。
「うーん。全然出口が見えないからなぁ……」
私の見える範囲は現状とても広いが、それでも見渡す限り雪しか見えない。それも相まって私は雪が嫌いになりそうだった。正直な所、一刻も早くこの雪が消えれば良いなとか思ってたりする。
「とりあえず、洞窟とか入ろうかなぁ……」
洞窟自体は何個か見えるのだが、それが出口に繋がるかは分からない。もしも、今回と同じように魔物と出会った場合、私は死ぬだろう。今回はたまたま奇跡的に優しい魔物だっただけなのだから。
とりあえず、洞窟に向けて魔物に走ってもらい、これからについて考えている中、悲劇が起きた。それも唐突に。
「えっ、ちょ、どうしたの!?」
それは突然だった。普通に走っている中、急に暴れだしたのだ。それも、私が吹き飛ばされるくらいの勢いで。
「ちょ、危ないから!」
懸命にしがみついているが、私の力も弱く、結局吹き飛ばされてしまった。飛ばされた場所は洞窟の前。運良く、見える範囲に怪我はないが、問題は目の前にあった。
「あれ? こんなに雪が積もってたっけ?」
いや、有り得ない。今の今まで私の前には魔物がいた。それがこの一瞬で居なくなるなんて有り得ない。ただ、分かることは一つ。魔物は私を守ってくれたということ。今になって気づいたが、この雪は雪崩によって起きたものだと思う。それを魔物は察知し、私を死なせないように無理やり暴れた。そして、私は生き残り、魔物は雪に埋まって死んでしまった。
「ありがとね……短い間だったけど、仲良く出来て嬉しかったよ……」
涙が出そうだった。雪の隙間から見える魔物の顔。それは、優しくまるで生きているかのような顔だった。普段ならば魔物と人間は敵同士。だけど、私とこいつの仲はそんなの関係なかった。たったの一日でも、お互いを仲間だと思っていたし、既に仲は良かった。だから、こいつも私を守ってくれたんだろう。
「私、頑張るよ。あなたが助けてくれた命で生き抜く。またいつか、あなたみたいな魔物に会えると嬉しいな……」
最後に安らかな顔に祈りを捧げ、私は洞窟の中を歩き出した。これ以上いたら、ほんとに悲しくなってその場から動けなくなる。だから、私は振り向かない。助けてもらった命で絶対に生き抜く。
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洞窟を進んでいると、不意に大きな音がした。そして、それは洞窟の入口を塞いでしまった。その正体は、先程よりも大きな雪崩。もしも、私があの場に少しでも長くいたら完全に巻き込まれていただろう。そして、命を落としていた。そう考えると、急に冷や汗が出てきた。
「それにしても、この洞窟明るいなぁ……」
普通の洞窟ならば、暗いはずだが、この洞窟は明るかった。ただ、おかしな点がある。太陽の光が射し込んで明るい。それならば、普通に納得出来るだろう。だが、ここは違う。一切の太陽の光はなく、蛍光灯のように明るい。
「あ、そう言えば、あの魔物の種族とかなんて言うんだろ……」
今思えば、あの優しい魔物について知ってることは少なかった。いや、何故だろう。どんどん思い出せなくなっている。まだ顔や体の大きさ、毛の柔らかさなど覚えているが、頑張って思い出そうとすると、モヤがかかったかのように思い出せない。これも、ゲームとしての仕様なのだろうか。
「もしかして、この世界で死んだら、誰の記憶からも徐々に消えていく……とか?」
もしかしたら、私の考えは合っているかもしれない。ただ、確証はない。記憶のショックで魔物のことが思い出せないだけかもしれないし、違う要因があるかもしれない。そう考えると頭が回転して、考えが止まらないが、今私がやるべきことは、考えることよりも、もっと別の事。それは、この明るい洞窟を抜けることだ。
「なんで、分かれ道もないんだろ……」
歩いても歩いても、一本道。これじゃあ、段々と進んでる感覚すら無くなってしまう。
「入口も塞がってるし、進むしかないんだけどさぁ……出口が見えないんじゃなぁ」
私の心は少しずつ蝕まれていた。進んでも進んでも意味無いならもういっそ諦めようと思う気持ちすらあった。でも、あの魔物が助けてくれた命をここで捨てても良いのかと思うと……
「あれ? なんで私は魔物の事考えてるんだろ」
どうしても思い出せない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。だけど、魔物のためにも私は死んじゃダメ。ということはわかる。それが何故だが分からないが、自分の心が勝手に思ってしまうのだ。
「とりあえず、今は歩くことしか出来ないし、歩かなきゃね!こんな所で諦めたら、絶対現実に戻れないだろうし!」
ほんとに少し魔物のことを思い出した。ただそれだけで、私に力が湧いてきた。でも、思い出せたのは一瞬。既に、私の記憶からは薄れて消えてしまった。
「さてと、頑張りますか!」
でも、私を元気づけるのには充分すぎる時間だった。
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元気が出た後、私は数時間歩いた。飲み物はないが、食べ物ならある。それも、果物だったのが幸いして、少しの水分も得ることが出来た。
「それにしても、アイテムバックってなんでそのままの状態で保存できるんだろ」
取り出した果物を見て私は思った。まるで採ったばかりの果物のような新鮮さもあるし、全く腐る傾向もない。やはり、ここがゲームだからなのだろうか。
「うーん。ん? んん? もしかして……」
果物を片手に持ち、歩きながら考えていたところ、僅かな光が私の前に見えた。ずっと一本道だったが、既に10時間以上は歩いただろう。そして見えた光。嬉しくないわけがない。
「やった!!絶対あれ出口だよね!」
その僅かな光は嬉しすぎた。そして、私は走っていた。疲れた足を酷使しながら、無我夢中で光に向けて走った。
そして、遂に私は洞窟から脱出した。
「やったぁぁぁ!!はぁぁぁぁ!!長かった!やばい!って、あれ?」
叫び終わった時、私の足に急に今までの疲れが一気に来た、そのおかげで私はその場にへたり込み、しばらく立つことも出来なかった。
「うーん。ここは、村の前かな?」
立つことは出来ないが、見ることは出来る。どうやら、私が居るのは何処かの村の前だった。少し離れている影響からか、私に気付いてはいない。
「諦めなくて良かった……魔物さん、ほんとにありがとね……」
今や居ない、私を守ってくれた魔物に感謝を込め、私は立ち上がった。そして、重い足取りで村へと進んだ。
「上手く話せればいいけど……」
未だ誰とも話してなかったからか、言葉が通じるかもわからないし、怖い人達だったらどうしようと思った。
「でも、頑張らなきゃね!早く、桜達に会いたいし!」
自分を元気づけ、私は村の入口に足を一歩踏み入れたのだった。
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生存人数:120000
「人数がこれより増えることはないため、現時刻より、第一ダンジョン解放します」
現時刻、年が開けた瞬間、この世界から抜け出すための一番最初のダンジョンが開かれたのだった。
更新遅くなってすいません!