三十五話 「絶体絶命?」
ふぅ。
「ちょ、待って!やばいから!止まって!!」
私の魔法は、敵と被ってしまっていたライカさんを狙いだした。これは非常にまずい。避けてくれると嬉しいが、敵が目の前にいる今、相手に背を向けるのも難しい。
「しょうがない……ふん!」
私は衝撃的なところを見てしまった。それは、私の魔法を素手で砕いたところだ。なんというか、凄いのもあるのだが、若干ショックな部分もある。
「割と力込めたんだけどなぁ……」
多分、あれが私の一番火力の高い魔法だろう。それを一瞬で砕かれた。さすがに少しは悔しいのだ。
「まぁ、雪。しょうがないよ。ライカさん……絶対私たちより全然レベル上だから……」
さすがに花奈も驚いていたのか、私の肩を叩き、遠い目をしながらライカさんを見ていた。
「そうだよね。しょうがないよ……」
遠い目をしながら、睨み合っている二人を見つめていると、ライカさんが動き出した。
「んじゃ、サクッと終わらせるかな!」
言葉の後に、ライカさんは背中へと手を回した。それは、きっと剣を取るためだろう。
「よいしょっと!」
いや、違った。うん。剣を投げるためだったらしい。
「よし、これでお前を思う存分殴れるよ。」
あれ? なんか、また怖いなぁ。目が正直怖いよ。完全にヤンキーだよ。なんか花奈も震えてるし、これは相当だよ。
「マ、マテ、オレノブカニナラナイカ? オマエノジツリョクナラミギウデクライニシテヤルゾ」
ライカさんの殺気を感じとったのか、突如相手が説得をし始めた。まぁ、そんなの聞くわけないと思うんだけどなぁ……
「はっ? 何言ってんのお前。さっさと死ねよ」
うわぁ。見てて可哀想になってきたな。顔面潰れちゃってるよ。なんか、血も吐いてるし、これは完全に死にますね。うん。でも、これで分かった気がする。絶対、ライカさんには逆らっちゃダメですね。私が死んじゃうし。
眷属を一人で倒しきったライカさんは、走って私たちのもとに来た。それも、返り血で真っ赤に染まりながら。
「よし、お待たせ!サクッと倒したきたぞ!……ん? どうした、そんな青い顔して」
そりゃそうだよ。そんな顔で近づかれたら、誰でも青い顔するよ。
「ん? 私の顔になんか付いてるのか?」
自分の頬を触り、確認している。どうやら、気付いたようだ。
「うわ!どうしようこれ……顔も洗えないし……はぁ。当分血まみれかぁ。なんか、ごめんね。こんな顔で近づいて……」
急に申し訳なくなったのか、ライカさんは私たちと随分距離を取ってしまった。
《ほぉ。あいつらを倒すとは。まさか、予想外だったよ。まぁ、私は嘘はつかない。言葉通り、お前らと戦ってやろう。そして、もちろん、邪魔は入らせない。私には分かってるのだぞ。お前達の他に、三人ものネズミがこのダンジョンに居ることがな》
これは、リビングアーマーの声。声が響いた直後、辺りに黒い霧が現れた。これが、現れる合図だろう。
「花奈。ここからが、本番だ。例え、私たちでは、ダメージが与えれなくとも、援護はしないと……」
相手の力は私たちよりも遥かに上だ。とゆうよりも、私たちの中で、一番強い、ライカさんよりも上だと思う。そんな中、エミリや、ユリナさんは助けに来れない。
「そうだね。私たちでも出来ることをやろう。負けたとしても、悔いのないように!」
そう言って、霧から敵が現れる前に、魔法を溜め始める花奈。それに伴い、私も魔法を溜めておく。もちろん、攻撃じゃない。相手の動きを少しでも封じる魔法だ。
「お前達、危なくなったら逃げるんだぞ……」
投げた剣を拾い、私たちの前に仁王立ちするライカさん。その背中は、やっぱり頼もしい。
と、その時、霧が凝縮し、一つの形となった。これは、そろそろ現れる合図だろう。
「お願い、効いて! 【フレイムウォール】!」
霧を閉じ込めるかのように、花奈の魔法が炸裂する。炎は高い壁となり、霧を阻む。そんな中、もう一つの魔法が私の前で輝いている。それは、光。いや、雷。と言った方が正しいだろう。高出力の雷で霧ごと焼き尽くそうとしているのだ。
「はぁはぁ。これで、少しは……」
魔法を二回連続で放った影響と、先程から魔法を使ったことから、花奈は疲れ果て、息が荒くなっていた。これ以上、魔法を撃つと倒れてしまうかもしれない。だけど、そんな事は無視して花奈は撃つだろう。
「待て!あいつ、全く効いてないぞ!そして、これは……一体」
目の前のそれは異様な光景だった。炎を飲み込み、真っ黒の壁となる霧。霧は、雷すらも飲み込み、全てを無へと返してしまった。
「やっぱりダメか……」
自分の魔法が全然効かなかったことがショックだったのか、花奈の足元はフラついてしまった。放っておいたら倒れてしまうだろう。だが、私もいつでも魔法を放てるように、準備している。支える暇などないのだ。ごめん。花奈。
「雪!魔法を撃て!」
ライカさんの指示通り、私は【氷雪】を放つ。これは、広範囲魔法だ。さすがに霧には当たるだろう。いや、当たっていた。だが、案の定どんどん吹雪は飲み込まれていく。ただ、この飲み込んでいる時間は大事だ。最も隙があり、攻撃が出来る。例え、相手の本体が霧に居るのならば、物理の攻撃も効くだろう。
「そこだ!」
この考えは、ライカさんにもあったらしく、私の魔法を撃った直後から動いていた。そして、満を持して剣を振り下ろした。その剣は、霧に入り、無効化されたと思いきや、途中で突き刺さったのだ。霧へと刃が通った瞬間である。これは、物理の干渉が効くということでもある。
《フハハハハハッ!!まさか、私の身体に傷をつける者が現れるとはな!!だが、今のはまだ初期段階だ。さぁ、ここからが本番だ。お前達の力を見せてもらおうじゃないか!》
思わぬ攻撃に予測してなかったのか、少しだけ驚いているようだ。そして、霧は言葉の通り、姿を本当に変えていった。先ほどとは違い、猛スピードで変え、すぐにでもリビングアーマーへとなってしまった。
「雪。やっぱり、私、ダメかも……なんか、身体の調子が……」
敵を見ていることに夢中になっていた私は、花奈の体調に気付いていなかった。こんなにも、顔色が優れていないというのに。だが、原因は一目で分かった。それは、こいつの霧の影響だ。花奈は、この霧を体内へと侵入させてしまったのだろう。それが、暴れまわり、花奈の体調は変化し、倒れてしまった。
「くっ……あとは、私と雪だけか。せめて、他の三人が来てくれれば、まだ勝ち目はあったというのに……」
ライカさんがそう思うのも無理はない。現時点で、私は魔法を結構放っているが、ダメージを与えれていない。もはや、相手が自分から当たりに来てくれていることさえあるのだ。完全に遊ばれている。
そんな中、私は必死に悩んでいた。この戦況を打開出来るかもしれない策があるが、それを使うかどうかを。
いやー、また更新遅れちゃうかも……




