三十四話 「戦闘開始。」
見事に、剣を片手で抑えているリビングアーマーは、私と花奈の魔法すらも、もう片方の手で弾き飛ばした。ただ、幸いにも、リビングアーマーの周りに居た眷属達には、私の魔法が聞いたらしく、身動きが遅くなっている。
そんな中、ライカさんに対し、リビングアーマーが話し掛けていた。かろうじだが、私の耳にも聞こえてきた。
《ほぉ、私を探していたのか。だが、残念だったな。貴様らの相手はここにいる私の眷属達だ。見事こいつらを打ち破ったならば相手してやろう。ま、貴様ごときの実力では無理だと思うがな》
リビングアーマーは呟いた後、高笑いをしながら片手に力を込めた。既に、ライカさんは抑えられていて身動きが取れない。剣を離せば剣を奪われ、斬られるかもしれない。そうなると、剣を離せないのだ。そして、遂にライカさんを剣ごと吹き飛ばしされ、壁へと激突した。ライカさんを吹っ飛ばしたリビングアーマーは興味が無くなったのか、身を翻して去っていった。とゆうよりも、消えたと言った方が正しいのだろう。まるでその場に居なかったかのように、消えてしまったのだ。
「くっ。あいつ、あんなに強かったのか……」
壁に衝突されながらも、ライカさんは呟く。私の中で、ライカさんが一番強いと思っていた。そんな人が吹き飛ばれてしまっている。果たして、これは私達で勝てるのだろうか……私の中で不安が募っていく。
「雪、不安なのは分かるけどさ、とりあえず、あいつらを倒さないとリビングアーマーとは戦えないし、逃げることすら出来ないよ。ライカさんに近寄って、助け起こしたりしたいけど、敵がいつ動きだすか分からないし……」
どうやら、花奈には私の心が分かるらしい。確かに花奈の言う通りだ。今、私には、いや、私たちには不安に思っている時間はない。
「さて、どうする雪。今のところは、相手も雪の魔法で動きが止まってるけど、正直いつ動き出すか分からない。ライカさんの所に行くか、魔法を溜めるかどうする?」
幸いにも、相手には私たちの言葉は分からないようだ。そのお陰で私達は普通に喋って作戦を立てれる。と言っても、私の魔法が切れたら終わりだ。そうなると、しょうがない事に、選択肢は一つしかない。
「そうだね。その二つの選択肢だと、私は魔法を溜める方を選ぶかな。ライカさんなら、自分一人でも大丈夫だろうし、私が更に魔法を掛けて、足止めとかした方が役に立つと思うからね」
花奈はどうするんだろう。やっぱり、ライカさんを助ける方を選ぶんだろうか。その考えは、次の瞬間、翻すこととなった。それは、
「じゃあ、私は攻撃魔法の準備しとくね!」
花奈は私が決める前から、魔法を準備していた。どうやら、花奈の持ってる武器は、魔法を何個か貯めれるらしく、花奈が溜める度に光っている。
「うっ……私に構わなくていい……そいつらの相手を少しだけ頼むぞ……」
ふと声がした。ライカさんからだ。どうやら、壁に衝突した衝撃がまだ身体に残っているらしく、剣を支えにして立つのがやっとようだ。足元がフラついていてこんな状況じゃ戦えないことは明白。せめて、何分かは私達で足止めしないと。
「雪!私が魔法を放つから、雪は出来るだけ離れて相手の姿が見えてから魔法を打って!」
花奈の言葉の通り、私は離れ、いつでも魔法を放てる準備をする。そして、私が充分な距離をとった後、ものすごい爆音が響いた。どうやら、一気に貯めてあった魔法までも放ったらしい。ただ、問題がある。それは、花奈の魔法の時に、相手が丁度動き出してしまったことだ。そして、相手の一体には確実に当たっていない。これだけは確証が持てる。
「そして、あいつが狙いに来るのは……」
私の予感は的中した。そのお陰もあり、ライカさんの目の前で私の魔法に掛かっている。鎖に繋がれ、動けなくなった敵は、隙だらけと言っても過言ではないだろう。そして、そんな隙だらけの敵など、少し回復したライカさんでも倒せる。
「さて、やっと目眩も収まって動けるし、肩慣らしに殺させてもらうよ」
剣を手に取り、充分な力を込めているのがわかる。相手は、殺される恐怖からか、より一層暴れだしてしまった。
「おいおい、動くなよ。これじゃあ手元が狂って一発で殺してしまうじゃないか」
なんか、ライカさんの顔が怖い。言動も怖いけど、顔がまるで鬼の形相だ。
その後、相手は暴れても無駄だということが分かったのか、静かになった。そして、上手い具合に首を切られ、血を噴水のように吹き出しながら倒れてしまった。
「ちっ……汚ねえな」
次々と血が溢れ、床が侵食されていく。返り血で顔や身体が濡れてしまったライカさんは口調も変わってしまい、少しだけいつもと違うみたいで怖かった。
「さて、あと二体だが、さすがに花奈の魔法じゃ倒せてないだろう……ってか、そこに居るのバレバレだからな」
花奈の魔法で出た煙の中に入り、剣を横に振る。そして、剣が相手に直撃したのか断末魔のような叫び声が聞こえた。やっぱり、ライカさんと私たちの強さは違いすぎる。もはや次元が違う。
「ふむ。こんなもんなのか。あいつは強かったから、眷属も強いと思ったが、普通に雑魚の部類だな……」
「雪!後ろ!危ない!!」
遠くから傍観していた私に花奈の叫びが聞こえる。ただ、遠くに離れすぎていたのか、上手く聞こえず、なんて言ったか聞くために私は近付くことにした。
「って、危な!」
少しだけ身体を前に出した時、私の髪を爪のようなものが掠った。もし、自分が一歩でも動かなかったらどうなっていたのかはすぐにでも想像できた。
「オレハ、アイツラトハチガウ。オマエラコロス」
私の後ろからふと声がする。先ほど私を殺そうとした相手だ。こいつが喋っている。とゆうことは、さっきの敵よりも強いことは私でも分かる。
「雪!下がれ!お前一人じゃ死ぬぞ!私が戦うから、お前と花奈はバックアップを頼む!」
ライカさんの言葉に従い、相手に背を向けて全速力で走った。振り返らず、全力で走っているが、後ろから殺気が伝わってくる。その殺気だけで私には充分な威力だった。
「オマエ、オソイ、シネ」
私の全速力でも相手にはとても遅く感じたようだ。そして、それと同時に私は死を覚悟した。後ろに目があるわけじゃないが、今にも一度見た鋭い爪が私に降り掛かるのが分かる。
「コレデアトフタリ」
目を瞑り、耳を塞いだ。
少し経っても私は死んでいない。どうゆう事なのだろう。そこで、ライカさんの声が聞こえてきた。怖い声じゃなく、いつもの声で聞こえたことに私は安心した。
「お前に雪は殺させない……!」
目を開け確認するに、ライカさんは相手の爪に合わせて、ギリギリで剣を当て、今は鍔迫り合いになっている。
「雪!早くこっちに!」
どうやら、花奈が遠くから魔法を放ってくれたらしい。そのお陰で私は生きている。
「うん!ありがと二人共!」
私も花奈の近くに擦り寄り、武器を構える。
「さっきのお返しだからね!」
杖先に魔法を溜め、放つ。それが、相手に効くかは分からないが、これが私に出来る唯一の最大攻撃だ。
「ちょ、私も居るんだけどーーーー!!」
あ、ライカさんが居るの忘れてた。やべ。って言っても、もう遅い気がする。今にも、魔法が放たれちゃうし。
「ごめんなさい!ライカさん避けて!」
私の覚えた新魔法。【ブリザードアロー】は、標的を定め、貫くために放たれてしまった。
その光景を見て、私はライカさんに当たらない事を祈ることしか出来なかった。
うーん。最近難しいなぁ……もしかしたら、更新遅れちゃうかも……