二十九話 「またゼロから始めよう」
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「か、花奈。お待たせ。多分、待ったよね」
後ろを向いている少女に対して、話し掛ける。
「うん。この場所が良くわかったね。雪」
向けを変え、私の方に向く。これで、私たちは、向き合い、目を合わせる形となった。
「まぁ、突然でめっちゃ焦ったけど、たまたま知ってる人に出会えたからね」
嘘はなし。私として、ありのままの自分で話す。これから、花奈と話す時は嘘や、言い訳をしない。それが、自分で決めたルールだ。ただ、最悪の事態だけは回避しなければならない。
「そっか。最悪出会えないことも考えてたから、雪が来てくれて良かった。このまま話がしたいから、ちょっと座ろっか」
頂上に佇むベンチを指差し、花奈は座りだす。多分、このベンチは周りを見渡すためだろう。まぁ、今はそんなこと気にしている場合ではないが。
「さてと、落ち着いたことだし、話をしようか」
私は、とりあえず呼び出した理由を聞きたいがために、急かしている。これは、ダメだ。もっと時間をかけて聞くべきだった。
「そう、だよね。私から呼び出したし、まずは、私から話すべきだよね」
「うん。お願い」
ここまで来たら、私は逃げない。たとえ、どんな事を言われようとも、私は逃げない。いや、逃げたくない。
「あのね、私と、雪が離れ離れになった時があったじゃない?」
ある程度予想していたが、まさか、ストレートでこの話をしてくるとは思わなかった。ある意味予想外だ。
「うん。その時、なんかあったの?」
平然を装い、話を聞く。この話は正直、あまり掘り返したくない。少し、辛くなってしまうから。
「ここに呼び出したのは、それを謝りたかったから。あの時、雪は何も悪くないの。私が全部悪い。そう、イジメられるのが怖くて、雪を裏切った。最低な女。だから、最後に謝りたくて呼び出したの。忙しいのにごめんね……」
これは、流石に予想してなかった事態だ。まさか、イジメというもの影にあったなんて。
「えっ。でも、誰に? 私たちの学校にそんなイジメをする人なんて居なかったよ。みんな優しかったし……」
あらゆる、イベントの時でも、みんな元気があり、イジメなんてあるわけないと思っていた。ただ、花奈はイジメられるのが怖いと言っていた。これは、事実だと思う。花奈がこんな場面で嘘を付かないと思う。
「あー。うん。私ね、他校の女子とさ、いざこざがあって、仲が悪かったんだよね。それで、たまたま私と雪がゲームしてる所を発見したらしく、脅されてたの……ホントにごめんね……今謝っても許されないと思うけど……謝りたくて」
他校の女子……か。それは、私は知らなかったな。でも、親友なら、少しくらい相談してくれても良かったのに。なんでだろ。
「私に相談してくれても良かったんだよ? 私たち、親友だったじゃん。理由さえ教えてくれれば、私は花奈とまだ話せてた。でも、花奈から、その話を聞けて良かった。私、実はさ、花奈に嫌われたと思ってたんだよね。ほら、私ってゲームオタクじゃん? だから、花奈はそうゆうの嫌かなって。それに、これは言うけど、人間は誰しも自分が大事だと思うの。私も、花奈と同じ立場なら同じことをしていたと思うし、私ならこんな風に謝ったりしないかもしれない。その点、花奈は偉いと思うよ。ちゃんと、話せてるんだから……」
とても長くなってしまった。でも、私の中で言いたいことは言えたし、聞きたいことも今言えた。あとは、花奈の反応を待つだけ。
「グスッ……ゆ、雪。ありがとう。私……雪のこと嫌い、じゃない、ううん。むしろ、好きだもん!!!!それに、雪に相談しなかったのはね、雪を私情に挟みたくなくて、それに迷惑を掛けたくなかった。でも、結果的には、迷惑を掛けちゃったよね。それでも、雪はこうして、私の言葉を信じて話を聞いてくれているし、こんな良く分からない場所までにも来てくれている。本当にありがとう。多分、絶対に嫌だろうけど、私は、できるならもう一度雪と仲良くなりたい。図々しいと思う。でも、もう一度だけ、雪と仲良く遊びたい!」
少し泣いていた花奈の言葉はしっかりと私に伝わった。友達じゃなくなった日については、これ以上言わないでおこう。多分だけど、ここでさらに追及したならば、夢と同じになる気がする。そして、今はまだ花奈とやり直せる。ただ、私はもう一度花奈と昔のように話したり出来るのかな。そこだけが不安。
そんな時、黙ってこちらを見ていた花奈がもう一度口を開いた。
「やっぱり、ダメ、だよね。ううん。分かってた。私は酷いことをしたからしょうがないの。でも、たまにでいいから、私にメールとかくれたら嬉しいな。わざわざ呼び出してごめんね。そして、ありがとう……」
後ろを向き、服を使って、顔をゴシゴシしている。泣いてしまったのだろう。このままだと、花奈はログアウトして、二度と会うことはないだろう。結局これでは、夢と変わらない結末。このままだと不味い。
「えっ。どうしたの? 雪」
私は、自分でも思ってもみなかった行動に出ていた。それは、愛情の表現。よくある、後ろからのハグだ。
「ごめん。つい、咄嗟的に抱きついちゃった。やっぱり、花奈は変わってないよ。昔みたいに暖かい」
前に花奈を見た時、少し変わっていた気がしたけど、やっぱり内面は変わっていない。何故か、そう感じるのだ。
「ううん。私も嬉しいよ。なんか、一瞬でも昔に戻れた気がする」
「あのね、私は今でも、あの時のことを思い出す。そして、多分、今も花奈とは上手く話せないと思うの。でも、でもさ、またゼロからでもいいんじゃないかな。私は、また始めから、花奈と上手に友達になりたいな」
「ほ、ほんとにいいの? だって、私だよ? 一回裏切ってるんだよ?」
この後に及んで、まだ花奈は踏み切れずにいるらしい。うーん。でもなぁ、明確な理由が分かったし、私としては許せるんだけどなぁ。
「うん。花奈はどうなの? またやり直したい?」
「本当にいいの? でも、私に拒否権は無いよね。うん。出来るなら、もう一度!」
「花奈に拒否権は無いよ!また宜しくね!!!」
私は簡単に許しすぎたのだろうか。でも、一人の親友を失い、また友人として始められるのならば、私の許しは良いと思う。そして、選んだこの道が正解だと信じている。
「じゃ、とりあえず、私は色んな人に今回のこと報告しないと行けないから、三時間後にギルド前集合ね!私の知り合いとか紹介するから!」
エミリにもちゃんと事情を説明しなければならない。それに、エミリと花奈には、仲良くなってもらいたい。
「わ、分かった!じゃあ、また後でね!」
はぁ。また後で。その言葉が聞けるだけで何故か、嬉しくなる。やっぱり、私は心の何処かで友達が欲しかったのだろう。
「ばいばーい!」
私は凄く嬉しくなってしまい、少し泣きそうな花奈に手を振って、エミリの元へと走り出した。
「うん。ホントにありがとね。雪」
最後の花奈の言葉は、雪に聞こえたのだろうか。ただ、花奈の顔は、夢とは違いとても嬉しそうな顔をしていた。
さて、一応目標は達成しましたけど、普通にゲームをする物語として進めていきますよ!