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七十三話 『激突』

 十数名の冒険者達と、マキトとレオサンドラ。

 地を這うような数匹の小さな魔物達と、ダスト。


 広場の中心にいる彼らの元へ突撃するコフィン人達は、戦士団長ガロルを入れての、約二十名の集団だ。


 数の上ではスノーバ人側が一気に劣勢になるが、不死身の勇者マキトと、さらに広場から散り散りに逃げ出した入植者達の存在が懸念材料として残る。


 ルキナの処刑を見物に来た多くのスノーバ人は王都から草原へと逃げ出したが、その全てが戦いを放棄したとは考えにくい。


 物陰から魔王と将軍の戦いを盗み見ていた者や、機を見て手柄を立てようと狙っている者もいたはずだ。


 事実、ガロル達が広場に突入した後方から、数人の冒険者達がばらばらと走って来ている。


 下手をすれば挟み撃ちになる。ダストは短剣を引き抜こうとしているマキトから離れ、足を上って来る虫の影を腕に拾いながら叫んだ。


「後方にも敵だ! ガロル、陣形を……」


「どけえェいッ!!」


 大鎌の攻撃をかいくぐり、ガロルがダストに突っ込んで来る。


 振るわれた幅広の剣がヂッ! と外套の袖をかすり、ダストの腹に食らいつこうとしていた赤い蛇を両断した。


 赤子の泣き声のような断末魔を上げ、蛇の頭が地に落ちる。


 赤い蛇を背中の傷から伸ばしていたマキトが、引き抜いた短剣の刃を握り締め、うなった。


「召使いィ……この反乱は、王女の意志と取って良いんだろうねェ……!」


「戦士団長ガロルだ! ルキナ王女殿下の命の下、そっ首落としてくれるッ!!」


 背後から襲って来た大鎌を剣で受け止め、気合と共に刃をすべらせて、使い手の喉を突くガロル。


 血を吐く敵の体を蹴り飛ばし、混戦状態の中ダストと背中合わせに剣を構える。


 縫い目の走る口が、荒い息と共に背後の魔王へ問いを放った。


「神は押さえたのか!? それともまだスノーバの手駒のままか!」


「一時的に暴走しているだけだ……ユーク将軍が奪還に向かった。やつの回帰の剣なら俺の魔術を無効化できる。

 そうなれば神は再びスノーバのものだ」


「ルキナ様はお前に賭けた! 当然未だ勝ち目はあるんだろうな!」


 空中を飛んで来たナイフを叩き落すガロルに、ダストがせきをしながら、低く答えた。


「まだ、試したい魔術がある……長い呪文が必要な魔術だ……集中する時間が要る」


「こいつらが邪魔か?」


「引き受けてくれると助かる」


 ガロルが、こちらへ向かって来るマキトに駆け出しながら叫んだ。


「カザン、フードラ、ギルマン、アラン! 戦士団員はダストを中心に円陣を組め! 他の者も二人以上で固まって戦え! 隠れていた新手がやって来るぞ!!」


 広場の入り口から、騒ぎを聞きつけて続々と冒険者の残党が駆けつけて来る。


 王都の外には冒険者の軍勢、内にも潜伏した敵がいる。神がユークの手に戻る前に、せめて王都内の敵だけは殲滅しておかなければ対応できない。


 マキトと刃を打ち合わせるガロルを睨みながら、ダストは戦士達の円陣の中で身を低くし、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。







「――動き出した」


 王都の入り口。石壁の隙間を荷車や瓦礫で封鎖する人々の頭上で、壁にかけた梯子はしごに上がったケウレネスが声を上げた。


「ルキナ様! 草原の冒険者達が動き出しました! スノーバの都方面から迫る集団……およそ二百!」


「二百だと!? 何故先刻観測した数より増えている!?」


 ドレスの上から鎧のパーツを装着するルキナに、ケウレネスが石壁から顔を出したまま答えた。


「一度草原の向こうへ逃れかけた連中の一部が、向きを変えてこちらへ向かっています。おそらく……飛翔したモルグに、戦意を高揚されたものと」


「どういうことだ……! 味方である神の暴走には逃げ出し、モルグの復活には武器を手に向かって来るとは……」


「神の暴走の理由は判然とせず鎮圧も神喚び師に任せるしかないが、モルグを復活させたのは十中八九魔王の仕業だと分かっているからでしょう。

 せっかく倒した竜を蘇生させ、太陽を隠した魔王に対する怒りと憎悪……魔王を自分達の手で殺したいという意志が、恐怖を凌駕りょうがしたのでは」


「ふざけおって! 怒りなら虐げられてきた我々の方がはるかに強いわッ!」


「ル……キナ……様ッ!」


 石畳を走って来るドゥーの影。頭蓋骨に装着したハミに体を結びつけ、がくがくと不安定な姿勢で乗ってきたナギが、ルキナの前で停止する魔物の上から落ちるように飛び降りた。


 ふらふら、よたよたと歩いて来る彼女に手を貸しながら、ルキナが「どうした!」と問う。


「何故戻ってきた!? 王都の裏側から兵と共に民を連れて逃げろと……」


「民は、王都を出て行きません……! 衰弱した者は草原でのたれ死ぬことを恐れ……気力の残っている者は、ルキナ様と共に最後まで残ると……」


「! ……馬鹿な……!」


「とりあえず護衛の兵士と共に、元老院の議場へ避難させました。それから……あっ!」


 不意に振り返ったナギの視線の先では、石畳の上でぼうっと空を見上げている少年、チビがいた。「何してるの!」と叫ぶナギに、チビが空を見上げたまま、口を開く。


「帰って来たんだね。モルグ。見て、はがれた鱗がきらきらしてるよ」


「戦争なのよ! 議場に残して来たのに……!」


「だって、窓の外に見えたから。あのね、鱗が」


「ルキナ様! 冒険者達が弓の射程に入ります!!」


 ナギとチビの会話を引き裂いて、ケウレネスの声が飛ぶ。


 ルキナは強弓をたずさえた、たった八人の兵士達、戦士達に視線を向け、ぎゅっと拳を握る。


「四倍以上の敵だ……だがやるしかない! 弓兵! 配置につけッ!!」


 ルキナの号令に、男達が石壁にかけられた無数の梯子に駆け上がる。


 チビを抱き、王都の奥へ走るナギを横目に、ルキナが己の剣を抜き放ち、叫んだ。


「全ての矢を命中させよ! 射てェーッ!!」


 八つの弓から、長い鉄の矢が、高い悲鳴のような音を響かせて放たれた。

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