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棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
301/306

百四十八話 『放棄』

*魔王の処刑人(棺の魔王0書籍版)二巻 発売中

 集音装置の件をサビトガが実際にレイモンドに相談できたのは、翌日の夕刻を過ぎてからだった。


 けが人の看護に回っていた人員が八割がた二日酔いに倒れ、塔の中が繁忙はんぼうを極めたことと、レイモンドが戦死した異邦人の葬儀を律儀に形式どおりに執り行ったことが、その原因だった。


 サビトガはギドリットの様態が安定し、一人で便所に行けるようになったのを確認してから塔を離れた。まだオーレンが床から起き上がっていないが、彼の今の疲弊ひへい原因はブレイズとの酔っ払い喧嘩だ。先に回復したブレイズに看護の責任を負わせ、他の雑務は酒の残っていないレッジに任せる。


 本当なら少女にもレッジのサポートに回って欲しかったのだが、彼女は自分もレイモンドに会うと言い出した。ことさら拒む理由もなく、二人で村長を訪ねる運びとなる。


 レイモンドは、集落のはずれにある井戸で水浴びをしていた。井戸の水は真水ではなく、石と砂でろ過された限りなく塩水に近い湧き水だった。


 一応は飲用が可能だと言うのでひとすくい試してみるが、潮の香りがきつくて飲み下すのに気合が要る。喉越のどごしも悪く、妙な栄養素の味がした。持ち歩くと、水筒がいたみそうだ。水浴びにも適しているとは思えなかった。


 レイモンドは長時間戦死者の心臓を握り締めていた手を洗い流しながら、サビトガの要件を聞いた。予想通り集音装置の故障は彼も把握していて、装置の修復ではなく防壁の設置にかじを取ったらしい。巨大骸骨を水路に取り込んだ今、以前のような集音体制を復活させるのは専門の建築家が居なければ不可能だからだ。そんな人材は、今の集落には望めないらしい。


 レイモンドは服を着込みながら、「建築家のアテはねえが」と、ズボンのポケットをあさった。首をひねるサビトガに、次の瞬間きらきらと赤光を反射させる何かが投げ寄越よこされる。つかみ取ると、それは立派な銀貨だった。ツルハシのマークが刻印された厚めの銀が、手の平の上で輝いている。


「やるよ。新人さんが頑張ったご褒美ほうびだ。俺は頑張り屋さんには優しいんだ」


「これを使える場所があるのか?」


「集落内の塔や住居を回りな。建築家以外の色んな職人や売人が看板を出してる。そのコインを外に持ち帰って生きがねにしようってやつもいりゃあ、良質の銀として実用品に欲しがるやつもいる。もちろん価値を認めねえやつもいるがな。鍛冶師あたりに売りつけて、中古のナイフやフォークに大量に替えてもらうってのも手だ。そういう金属品は物々交換で手広くさばける」


 集落の長が、集落の市場システムに積極的に参加しろと言ってくれるのはありがたかった。サビトガが個人的に売買を持ちかけたなら嫌な顔をする異邦人も、レイモンドの銀貨を見れば応じてくれるかもしれない。


 銀貨をふところにしまうサビトガを見届けるや、レイモンドは靴をいて歩き出そうとした。その背に、すかさず少女が待ったをかける。


 少女をサビトガの付属品のように見ていたレイモンドが、片眉を上げて「何だ?」と振り返った。少女はおくさずに言葉を続ける。


「ずっとこうと思っていた。この集落にはなぜ、優れた異邦人のパートナーである産道の民が、一人もいないんだ?」


 サビトガもまたレイモンドに視線を送った。産道の民の不在。それはサビトガ自身も内心疑問に思っていたことだ。集落で出会う人間はことごとく外からの上陸者ばかりで、少女の身内であるところの原住民は今のところ影も形もない。


 レイモンドは二人の視線を浴びながら、がりがりと頭をかいた。心底迷惑そうな顔をする彼が、次の瞬間予想だにしなかった答えを吐いた。


「逃げたんだよ。あいつら。俺達優れた異邦人と共闘するって使命を放り出して、どっかに行っちまったんだ」

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