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棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
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百二十話 『橋上の決闘 前編』

「決闘……」


 思案しあん顔を作るオーレンに、レイモンドがこめかみを押さえ「だから言ったろ」と染み入るようなため息をついた。


 サビトガは槍を少女に預けると、首と肩の骨をボキボキと鳴らし、こぶしにぎり込む。「いやいや!」と素早く手を振ったオーレンが、サビトガのすぐ後ろまで迫った集団を指し示した。


「受けるわけないでしょー! なんでここまで身内まみれの状況で一対一サシの勝負に出なきゃならないのさ! 意味が分からないよ!?」


「俺が思うに……味方も資源も限られた魔の島の最奥で、わざわざ人間同士の波風を立てようというやからは、相当に稀有(けう)な存在なのだろう」


 しゃべりながら呼吸のリズムを整え、肉体を戦闘態勢に向かわせるサビトガ。


 彼のぶ厚い胸板が、ゆるやかに鼓動を早める心臓を表すように上下し始めた。


「長い道程を歩き続け、産道の民の使命にも付き合い、ようやく島の秘宝に近づいたかと思えば待ち構えていた魔王に無理難題を押し付けられる。優れた異邦人の道行きは、けっして安楽なものではない。可能なら一人でも多くの同志を得たいと思うのが当然だ。

 それを考えれば、お前の気勢きせいと行動力にはすさまじいものがある。いつ死ぬか分からぬ状況で新参者いびりなど、できるものじゃない」


「……あー……つまり、何が言いたいのさ?」


「お前のような大馬鹿が二人居るとは思えんということだ」


 オーレンが両手を下ろし、乗馬ズボンを手の平で打ち鳴らした。


 サビトガと少女のすぐ後ろで、集団が立ち止まる。背に無数の視線を感じながら、サビトガはオーレンに拳を向けた。


「お前がなぜ欲しくもない他人の荷物を盗むのか、俺には分かる。人が集団に属する時、最初に示した態度がその者の以降の立ち位置や、あつかわれ方を決めると思っているからだ。お前に荷物を盗まれた新参者が、おさのレイモンドや他の住人達と衝突することを恐れ、荷物と報復をあきらめてしまえば、みながその者を『奪われても怒らないやつだ』と判断する。

 自分のかても名誉も守れないようなやつは、集団の下層に位置づけられ公然と格下扱いされる。お前はそれをねらっているんだ。

 無人の集落を探索させられる通過儀礼とは、ちょうど逆方向の試験だな」


「……」


「俺を見る視線に、警告じみたものが混ざっている。好奇の視線や品定めをするような視線もあるが、いずれも傍観ぼうかん者の目だ」


 観衆の機微きびは察し慣れていてな。そう続けるサビトガが、少女をわきに逃がしながら拳闘の構えを取った。


「貴様は一人だ。オーレン。レイモンドも止めてくれる様子はない。……格下の使い走りを手に入れるつもりだったのだろうが、当てが外れたな」


 瞬間、オーレンが橋の終端からサビトガの方へと駆け下りてきた。鳥類を連想させるカン高い気合と共に、飛びりが顔面に迫る。


 両腕を交差させて受けると、骨が予想以上の音を立ててきしんだ。見ればオーレンの靴先には、ぶ厚い鉄の補強具が取り付けてある。


 背後にふっ飛ばされ、集団の何人かが体を受け止めてくれた。丸太のように太い腕をした巨漢が、サビトガの耳元で大声を上げる。


「気をつけろ! やつは馬無しでも十分強い! 丸腰で騎馬隊の足を奪う馬賊の出だ!」


 オーレンが奇声を上げ、突っ込んで来る。


 サビトガは集団の手から離れると、向かい来る拳に、まっすぐに正拳を叩きつけた。

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