表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
253/306

百話 『闇を降りる』

 あり合わせの素材で作った命綱が、ぎしぎしと音を立てて手すりをこする。


 シブキと苺之妃が身を抱き合い、一塊ひとかたまりの影のようになっていてくれているおかげで、サビトガの腕には余計な震動や負担がかからずに済んでいる。


 だがそれでも、二人分の重みを傷ついた体で支えるのは骨だった。サビトガの姿勢がしだいに低くなり、体が空をあおぎ始める。命綱を降ろす手の皮が焼け、ひじの関節が悲鳴を上げ始めた。


 サビトガは息を詰め続けながら、足元に転がっている黄金の巨躯に視線をやる。命綱の先端を巻きつけた首は未だ露台の床についたままだ。この首が綱に引かれ持ち上がれば、恐らくはシブキ達が地上に着く。巨躯が絞首こうしゅ死体になった時が苦難の終わりだ。


 苦痛に唇を噛みながら、命綱を降ろし続ける。上級妃の二階建ての寝所は、一般的な家屋の三階から四階に相当する高さだ。シブキ達も闇の深淵しんえんに呑まれるかのような恐怖と戦っているはずだった。


 ぎしぎし、ずるずるとすべる綱。雨空をあおぐサビトガの肩が床に接触した時、黄金の巨躯の首がまる音がした。


 直後に綱の先の重みが消え、サビトガの体が床に投げ出される。背を打ちつけ息を吐き出すサビトガが、急いで身を起こし、手すりの向こう側をのぞき込んだ。


 闇の深淵に、一瞬だけシブキに渡した剣の光がひるがえった。見れば衛士達の灯火が先刻よりも近くをさまよっている。


 サビトガは両手を握っては開き、血流をめぐらせると、すぐに手すりをまたいで命綱を伝い始めた。


 闇を降りるサビトガの指に、敵の喉の骨が砕ける明確な感触が命綱を通して伝わってくる。サビトガの体重は、きっとシブキと苺之妃のそれを合わせた分よりも重いはずだ。


 巨躯が手すりを圧迫し、きしませる音が聞こえる。地上を目指すサビトガの目に、わずかにほりの水のゆらめきが映った時。


 頭上からバキバキと木の砕ける音が響き、サビトガの体が命綱もろとも闇を落下した。


 あやうく声を発しそうになった口をふさぎ、受け身をこころみる。堀の水のゆらめきから高度を推測し、闇の中の地面にあたりをつけて転がる。


 さすがに完全には上手くいかず、右半身を土に打ちつけてしまった。濡れた草にうめきを吹きかけるサビトガの後方で、露台から転落した巨躯が手すりの残骸と共に地面に激突する。


 飛散する血臭けっしゅうが鼻に届いた時、サビトガの体に四本の手が伸ばされた。


 身を支えられながら起き上がると、シブキと苺之妃の顔がすぐそばにあった。二人の顔色にいかなる負傷の気配もないことを認めるや、サビトガは打ち付けた半身をかばいながら外堀へとのぞむ。


 堀の架け橋に、衛士達の灯火があった。後宮へと向かって来るその光に、サビトガの目の前に突き刺さっていた三叉槍の柄がきらめく。


 折れた剣を差し出してくるシブキに手の平を向け、サビトガは三叉槍を引き抜く。いささか巨大すぎる得物えものだが、折れ剣よりはマシだった。


 架け橋の光は、三つ。シブキ達に「背後についてください」と声を向けると、サビトガは地を蹴り、進路をふさぐ敵を排除にかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ