表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
229/306

七十六話 『万雷の恥辱』

 サビトガとハングリンは多少苦労しながらも敵の残骸を一所ひとところにかき集め、小石と土をかぶせて埋葬まいそうした。


 他の敵から死臭を隠すためだったが、しかしこれほど血肉と油の臭いが拡散してしまった今ではどれほどの効果があるか分からない。


 新たな敵襲にそなえる必要があった。二人はとりでに戻り、仲間達と対策をることにする。


 くずれ落ちていた砦の大門はシュトロ達の手によってみごとに立て直されていたが、反面たった三人の力で持ち上がった大門はところどころ木が腐り、欠けて、穴がいていた。


 火事を消すさいにひっぺがした床材ゆかざいで補修はされているが、たけり狂った骸骨が突進してくれば数分と持ちこたえられないだろう。


 シュトロ達もそれは心得ていると見えて、大門のすぐ後ろの土をり返し、落とし穴を作っていた。穴のそばに味方を渡すための長梯子ながばしごと、穴に落ちた敵にぶつけるための石が積んである。


 廃墟同然の砦の防御力を底上げする応急処置としては、中々のものだった。しかしサビトガは火のついた骸骨がぶち破って行った壁の穴が未だそのままになっていることにすぐに気づき、あわてて床材の残りと草のなわで補修にかかる。


 魔の者が全力でぶつかってくれば、結局どの壁も崩されてしまうのだ。やはり必要な休息を取り次第しだい他の拠点に移った方が賢明けんめいだった。


 サビトガは砦の穴を一通りふさぐと、それからようやくシュトロ達にこと顛末てんまつを報告した。骸骨の正体を知ったシュトロは中庭の遺骨が確かに死んでいることを確かめに走り、レッジは自分の放火が敵にとどめをさした可能性を知らされ、ほんの少し表情をゆるめる。


 骸骨と不死の水に関してハングリンが口走った内容を聞いた少女は、何ともいえぬ表情を顔に浮かべ押し黙ってしまった。


 各々(おのおの)が各々の思考をめぐらせ、多少の意見を交わした後、ようやく赤い夜を休む運びとなる。


 砦を出るのは明日の朝、睡眠と見張り番はいつも通りのローテーションと決まった。三階の弓兵達の当直場に寝具を広げ、見張り役は平原にのぞのぞき穴と、階下を順に警戒する。


 やがて、横になった者達が、寝息を立て始めた。







 ――万雷ばんらい拍手はくしゅの音が聞こえる。


 騒々しい楽器の音と、やけくそな口調で万歳を叫ぶ声が聞こえる。


 夢だとすぐに分かった。それは過去の光景。祖国パージ・グナの、歴史に残る醜態だ。


 処刑人の衣をまとい都通りをくサビトガを、民衆がり付けたような笑顔で送る。


 拍手。拍手。拍手。


 サビトガの祖国における拍手とは、見事な演劇に対する賞賛の表明を起源とする行為だ。


 演劇。お芝居。茶番。


 民衆はサビトガを賞賛するふりで、全てをまがい物だと非難しているのだ。


 その気持ちはサビトガも同じだった。一人の処刑人の出立しゅったつを、全国民が半狂乱で祝福する。二度と戻れぬ魔の島へ王命を受けて向かう男を、生きて帰れよと心にもない言葉で送り出す。


 王座を簒奪さんだつした邪悪な男の求める芝居を、皆で演じてやっているのだ。


 万雷の拍手の音は、人々の尊厳がはじけて出る破裂音だ。


 国から尊厳が、取り返しのつかないものが失われる、破滅の音。


 それがサビトガの背に、耳にまとわりついてくる。心身をさいなむ、魂を汚す、傷跡のように――――





「君だって、十分にみじめだ」


 はっきりと聞こえた声に、サビトガは目を開けた。真っ赤な視界の中央に、ハングリンの顔面がある。


 横になったまま、ハングリンの首元をつかんだ。彼が武器や危険物を持っていないことを知っても、その手はほどかない。


 ほどけなかった。


「俺をあらためるんじゃない」


 殺気もあらわに言ったサビトガに、ハングリンは相手の顔をのぞき込んだまま、ぐにゃりと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ