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棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
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三十一話 『夜を迎える四人』

 レッジの瓶詰びんづめナッツを早々に食べ尽くしてしまうと、四人は巨大な穴のふちに寝床をこさえ始めた。


 虫や蛇にまれるのを防ぐため、身を横たえる場所の草はすべてり取り、さらにその周囲の土をり返して空堀からぼりにする。


 堀のへりをねずみ返しの形にしておけば、周囲の草原からって来る良くないものをかなり退しりぞけられるはずだ。


 剣の刃で草を刈り、さやで土を掘り返すシュトロとレッジ。彼らが地ならしをしている間に、サビトガは少女と共に刈られた草をみ、寝床の屋根を用意する。


 青草を編んで天幕てんまくにして、下で火をくのだ。こうすれば身を休めながらに天幕の虫殺しもできる。編み目が細かいひし形になるサビトガの編み方を、少女はすぐに覚えた。やがてシュトロとレッジも作業を終えて、天幕作りに加わってくる。


 そうして陽がかたむき世界があかね色に染まる頃には、皆の頭上をおおうに十分な大きさの天幕が完成した。堀を作った時に出た土を固めて土台を作り、仕込み剣を抜き取ったサビトガの槍を布で保護した上で立て、テントの支柱にする。そこに草の天幕をかけ、四方のはしを空き瓶や石で固定した。


 あとは、火だ。周囲の和草にこぐさだけで一夜の火をともし続けるのは難しい。サビトガ達は何とはなしにシュトロの背負うカカシに視線を集めたが、案の定シュトロは目をり上げて誰の発言も許さなかった。代わりとばかりに荷物袋から小さな火打ち石を取り出して渡してくる彼に、サビトガは仕方なく周囲の草を足で分けてまきを探す。


 産道の村に山ほど積まれていた乾いたブナの枝を、一本たりとも持ってこなかったのはうかつだった。結局四人がかりで草の中から見つけ出したのは、古い大腿だいたい骨と、それよりもさらに古いと思われる、なかば自然にかえりかけていた麻の手袋。さらに刃が真っ二つに砕けたおのがひとつ。


 いずれも先客の探索者の残したものだろう。大腿骨はともかく、手袋と斧の木製のは燃料になる。すでにあかね色から暗青色に変わりかけていた空をあおいでから、サビトガは急いで草のテントの中に入り、手袋と斧の柄、そして和草を組み上げる。テントの一部を引き上げて排煙口を開けてから、火打石をかち鳴らした。


 シュトロが持っていた火打石は本当にただの石をなわでくくりつなげただけの物で、持ちにくい上に火花も少ししか散らない。羽毛の襟巻きを少しちぎって火口ほくちに加えたが、火のつきは悪かった。


 みるみる暗くなる世界に少しばかりあせり始めるサビトガ。その顔の横に、不意にとがった刃先がぬっと突き出された。


「使うか?」


 見れば、少女が人さし指ほどの小さな刃物を背後から差し出している。どこにしまってあったのか、それは、彼女が以前ウェアベアに投擲とうてきしたナイフだ。


 その刃の根元に細かいみぞが走っているのを見とめるや、サビトガはナイフを受け取り、火打石を溝の上ですべらせた。


 ヂリヂリと音がして、火花が無数に飛び散る。さらにもう一度同じ動作をすると、羽毛に火の粉が燃え移った。すかさず火口に両手をそえ、ゆっくりと命を与えるように息を送り込む。


 羽毛が真っ赤に光り、その色が麻の手袋に、草に移り、そしてぼう、と、炎が産声を上げた。


 サビトガの背から炎をのぞき込む皆の顔が、テントの中に照らし出される。


 やがてめらめらと斧の太い柄を燃やし始める炎に、サビトガは仲間達を振り返り、ほっと、息をついた。

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