表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)  作者: 真島 文吉
棺の魔王0 -魔王の処刑人- (旧題 ヘッズマン・グレイブ)
178/306

二十五話 『草原へ』

 草原の草は若い獣のたてがみのように、つやつやと光を帯びてまっすぐに空に向かっている。


 サビトガは握っていたひもを少女にひったくられながら、ゆっくりと視線を背後へと向けた。サビトガ達の背後には、草におおわれた大きな洞穴が、まるで大口を開けたへびのように長く地面の隆起りゅうきを後に引いていた。


 その隆起はやがて盛り上がった丘の中に取り込まれ、丘の頂上には葉ずれの音を立てるブナの森がある。少女が回収した腰紐を結びながら、森を見上げて言った。


「産道を通らず自力で森を抜けた異邦人は、ああいう場所からこの『子宮』に出て来る。やっと森を抜けられたと喜ぶやつもいるが、たいがいは目の前に広がる草原の広大さに呆然ぼうぜんとする。魔の島はどの方角から見ても森に地形を隠されているから、広さを甘く見積もるやつが多いんだ」


「草原と、森しか見えない。これからどこに向かえばいいんだ?」


 サビトガの問いに、少女はひょい、と肩をすくめてみせる。視線を前方に戻し、自身のひざまである草の中に足をみ入れる。


「森から離れればいい。草原の中心に向かって歩けば、いずれ道が開かれる、はずだ」


「はず?」


「……ここから先へは、ワタシも立ち入ったことがない。使命に出かけた者のみが知る、最古の秘境への道だ」


 自分にけ寄って来るサビトガ達を尻目に、少女は草の匂いのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。海岸とブナの森、地下を主な暮らしの場としてきたのだろう彼女は、わずかに機嫌を良くしたような表情でレッジを見る。


 首をかしげるレッジに、少女は「おい、かたぐるま」と唐突とうとつな要求を口にした。


よろいも荷物袋もなくして重みが恋しいだろ。ワタシが肩に乗ってやるからしっかり支えろよ」


「何だよそれ! いいよ別に!」


「目線が高くなればより遠くを見渡すことができる。地平線の遠さは目の高さに比例する。オマエとワタシが協力すればこの場の誰よりも高い位置に視点を置くことができるのだ」


「き、協力って、ただ僕に乗っかるだけのくせに……」


「いち早く地形の変化や危険物を発見することはみなの生死にも関わることだぞ。いいからしゃがめ! どうせ他に仕事もないだろ!」


 レッジはサビトガとシュトロに視線を向け、二人が肩をすくめるのを見届けてからしぶしぶ草の中にひざをついた。


 少女が首に乗るや、気合を入れて立ち上がる。わずかにふらつきながら少女の細い足をにぎると、レッジはうらめしそうに少女の顔を見上げて「何か見える?」といた。


 少女が満足げに首を横に振ると、三人の男達は無言のうちに、地平線を目指して歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ