百三十八話 『奔走』
震撼する大地。怪物の叫び声。肉の焦げる臭い。
死と破壊がうずまく王都とその周囲に、人々が散る。回帰の剣を求めて、勢力と身分を越えてあらゆる人が奔走していた。
逃げまどっていたスノーバの民までもが、コフィン・セパルカ両兵に剣を向けられながら、協力を申し出る。
生き残るためには、行動しなければならなかった。ナギが、チビやコフィン兵達と共に石壁の外周を走り回る。石壁を攻略しようとしていたスノーバ兵の死体と装備が、そこかしこに散乱していた。
折れた剣、槍の穂先などを拾い集め、壁際に積み上げつつ、ナギが焦りもあらわにうなる。
「白い刃に、黒い宝石の埋め込まれた剣ですって……! この戦場にいったい何千振りの剣が転がってるのよ! 手探りで探してたら日が暮れるわ!」
「とにかく目についた刃物は全て集めよ! 魔力を秘めたものがあれば我々が教える!」
ロドマリアが魔術管理官の仲間とともに、刃物の山を吟味する。魔王とマリエラの死闘に震える大地が、積み重なった刃を小刻みに揺らし、ガチガチと鳴かせた。
ナギが、首のなくなったスノーバ兵が握り締めている剣をもぎ取ろうとした時、不意に地に倒れていた死体がずるりとすべり、その下から大きな動物の頭蓋骨が顔を出した。
それは真っ白な、ドゥーの頭蓋骨だった。ダストが魔術で操っていた、獣の影……ルキナやナギを乗せ、戦場を駆けてくれた魔物の一部だった。
頭蓋骨には無数の刃傷が這い、下あごが砕けてなくなっている。
王都を守るためにスノーバ兵と戦い、力尽きたのだろうそれを見て、ナギがぎり、と奥歯をきしませた。
「ちくしょう……! ちくしょうッ! 負けてたまるか! やられてたまるかッ!! 絶対に滅びてなんかやるもんかッ!!」
スノーバ兵の手から力任せに剣を奪い取りながら、ナギは大草原で暴れ狂う敵へ、怒声を投げつけた。
「勝つのは私達だ!」――そう言ってマリエラへ向けられた刃先は、しかし、やはりただの鉄色の刃でしかなかった。