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百十七話 『射撃』

 大地に降りそそぎ、折り重なった蛇の死体。それらが噴き上げる赤い粒子が、まるで砂嵐のように風に舞い、世界を彩る。


 霧散する蛇の下からは潰された人や馬の屍が覗き、殺戮と破壊の痕跡を戦場に残す。


 瞬間的に炸裂した死。数え切れぬほどの蛇が肉塊と化し、どれほどの人数がその道連れとなったのか。


 混沌とした戦場で、しかし各勢力が生き残った人員をまとめ、再び行動を起こし始めていた。


 コフィン人達は仲間を救助しつつ、いまだ活動中の赤い蛇に挑みかかる。セパルカ軍も穴の空いた陣形を整え、コフィンの王都へと近づき始めた。バラバラに行動していたスノーバの入植者達も、ここに来てようやく戦場から離れ始め、身を守るためにより大きな集団と合流しようとしている。


 それぞれが、それぞれの目的に向かっている。


 そんな人間達の背後で、スノーバの神は自国の兵士達に喰らいつき、金属と骨肉を咀嚼するおぞましい音を響かせていた。



「怪物めが――何たる暴虐だッ!!」


 進軍するセパルカ軍の中央で、両断した赤い大蛇の屍を踏みながらに、セパルカ王が神を睨んだ。


 戦車を引いていたロードランナーの何匹かは飛来する蛇と激突死し、その手綱には今は、わずかな肉片がこびりついているだけだ。


 ロードランナーにまたがった兵士の何人かがぐらつく戦車の前に出て、己のロードランナーを戦車に接続する。


 そのまま戦車を引き始める兵士達の後ろで、セパルカ王が巨大な剣を振りかぶり、凄まじい咆哮を上げた。


 王の岩のような筋肉に太い血管がいくつも走り、次の瞬間、巨大な剣が空気を裂いて空へと飛ぶ。


 まるで風にあおられる炎のような音を立てて刃が回転し、小さな点のようになったかと思うと……やがて兵士を喰らう神の頭部から、わずかなどす黒い血煙が上がった。


 セパルカ王が強く歯ぎしりをし、左右の拳を打ち合わせる。


「おのれ! 喰うのをやめもせん! もっと近づかねば……!」


「王よ! あれを!!」


 戦車を引いているセパルカ兵の一人が叫び、コフィンの王都を指さした。見れば、王都を囲む石壁が青白く発光し、蛇の赤い粒子の光を押し返すように強くまたたいている。


 セパルカ王の第一王子が、戦車の上で剣を構えながら叫んだ。


「コフィンの者らがまた何かするようだ! 親父! 俺が兵を率いて石壁へ助太刀に行く!」


「ダメだ兄貴ッ! あれを見ろ!!」


 セパルカ王が第一王子に答える前に、第四王女が鋭い声を上げた。彼女が剣を向ける先では、セパルカ王の一撃に一切反応を示さなかった神が、口端に肉塊をぶら下げながら王都へ顔を向けていた。


 その両の眼窩にはりついた、ちっぽけな何かがうごめいたかと思うと……次の瞬間、神がつかんでいた兵士達を放り出し、口からぼとぼとと死肉をこぼし、スノーバの陣を踏み潰しながら走り出した。


 地を揺るがし、あらゆるものを蹴散らしながら石壁へ突進する巨大な怪物。セパルカ王が目を剥き、わきから飛んでくる新しい剣をつかみ取りながら叫んだ。


「全軍突撃ッ!! 今すぐあのバケモノを攻撃しろォーッ!!」


 王が再び剣を投擲すると、ロードランナー達の爪はさらに強く早く地面を削り、セパルカ兵達が一斉に鞍の後ろから、短い投槍を装填した射出機を取り出した。


 大きな十字架のような形をしたそれはぎちぎちにねじられた太い縄と頑丈な板ばねの力で物を発射する武器で、いわば槍や石を扱える、改良型の弓のようなものだった。


 セパルカ人達は対人戦闘では剣や槍、斧を好み、このような凝った飛び道具を持ち出すことはめったにない。


 強力な発射機は、人以外の害獣や、同程度の高威力兵器で襲って来る敵に対してのみ使われる装備だ。


 セパルカ兵達は同盟国の都へ突っ込んで行く巨大な死の権化に向かって、王におくれを取らぬほどの気合の声と共に、投槍の一斉射撃を敢行した。

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