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百十一話 『赤い光』

 赤い光が、世界を照らし出す。


 巨人の体から、空へと伸びた蛇の群。まがまがしい大樹のように展開した寄生虫達が、一斉に発光し、雲を、大地を血の色に染めた。


 王都を守るルキナとガロル達が、ケウレネス達が。


 甦った亡霊達、ナギとチビ、コフィンの民。草原に放たれた原種のドゥー。スノーバ兵達へ剣を振るっていたセパルカ王と、その将兵。


 調教師ダカンも、石畳に倒れていた魔術管理官達も。都を追われたスノーバの入植者達や、空を舞うモルグさえも。


 世界を地上から照らす凶悪な光に、目を奪われていた。


 スノーバ兵達が、凍りついたように動かなくなる。行進の最中の、片足を振り上げた姿勢のまま、あるいは剣を振りかぶった姿勢のまま、槍につらぬかれ、地にひざをついたまま、硬直する。


 静止する戦場を、神の光が染め上げる。





「分かっていたんだ。こうなることは」


 双剣のアルスが、慟哭の声を落とした。

 赤い光に染まった広場、対峙するアルスとフクロウの騎士。


 アルスは縦に切り裂かれた右目から眼球の残骸をこぼし、フクロウの騎士は折られた剣を構えている。世界の異変を前に、フクロウの騎士が兜の奥で低く喉を鳴らす。


「どうなる、と言うのだ。これから何が起こる」


「『死』だ……一切区別差別のない死が降りそそぐ。あの蛇の『樹』が、世界に放たれるために用意されたことぐらい見れば分かるさ。あいつは、ユーク将軍はそういうヤツだ。勝利のためには味方も犠牲にする。今までもそうだった」


 アルスが、双剣を振りかぶり向かって来る。左右から襲って来る刃を盾と剣で受けるも、直後に靴底がフクロウの騎士の腹に飛んできた。


 鉄の鎧越しに、衝撃が胃を揺らす。腰を折るフクロウの騎士が、しかしそのまま靴底と双剣を押し返し、前に出た。


 刃と盾が何度もぶつかり合い、赤い光の中に火花が散る。


 振り回した盾で双剣をなぎ払いながら、フクロウの騎士は矢のように鋭く声を放つ。


「守らねばならん者がいるなら、退いてもよいのだぞ!」


「馬鹿なことを言うじゃないか、お前さんほどの男が……敵を味方の陣の中に放つなど、論外だ」


 突き出される双剣が、フクロウの騎士の胸当てとマントを切り裂く。そのまま首へ刃を滑らせようとするアルスのあごを、フクロウの騎士が返した剣の柄頭つかがしらで突き上げた。


「世界に、同胞の上に死が降りそそいでも俺と闘い続ける気か!? 自分のためだけに!!」


「……挑戦を受けると、言ってくれただろう」


「何をやっているんだ!」


 貴様は何をやっている!


 ぶつけられる言葉に、アルスが、赤い空を見上げながら、息を吐いた。


「……ああ……本当に」


 何やってんだろう、俺。


 引きつった声をもらすアルスが、それでも体勢を立て直し、再び双剣を振りないでくる。


 フクロウの騎士が、アルスに怒声をぶつけながら、折れた刃と盾で迎え撃った。

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