2: 王子様こわい
さっきのベリーキューティースイートエンジェル美少女ちゃんは気になるが、今まさに国王陛下とご対面しているこの状況では、いつもの美少女愛でるぜモードはどこへやらだ。
さすが王様。なんかこう…威厳というかオーラが違いますね!
しかも此処にお母様は居ない。どうしてかは後で話すとしよう。
それにしても、前世日本人のチキンガラスハートにはつらいものがある…胃に穴が開きそうです…うぅ、どうしてこうなった。
けれど、私は前世日本人とはいえ、アイスティーン家の娘であることに変わりは無いのです。ここはきちんと挨拶をしなければ!
「申し遅れました、はじめまして。私、ミリアナ・アイスティーンと申します」
「はじめましてミリアナ。君の事はお父上からよく聞いているよ。ほら、座りなさい」
王様はなかなか気さくな方のようだ。
それとも私がまだ幼いから配慮してくれているのだろうか。いやはやありがたい。
かなり緊張していたのだが陛下の表情も態度も優しげで、段々と緊張がほぐれていく。
「今回君を呼んだ理由は分かるかな」
「はい、第一王子アルデリッグ様に関してであると伺っております」
「その通りだよ、アルデリッグは今年6歳になるのだが…色々理由があってなぁ…友人と呼べるものを作れなかったのだよ」
「まあ…そうだったのですね…」
色々な理由とは一体…とは思いつつ、その辺りは流す事にする。
優しげであろうと相手は王家。下手はうつまい。
「それで、四華でありアルデリッグと同い年の君に話し相手になってもらいたい」
「話し相手ですか」
「ああ、少し話してみて合わなければ断ってもらっても構わないから」
四華とは家の階級である。侯爵や伯爵みたいなものだと思っていただけると分かり易いだろう。
階級のある家は華持ちとされ、階級に応じた華片の飾りを身に付ける事になっている。
無華は一般階級の方々。華持ちは、一華から始まり一番上は五華。五華が示すものはそのまま王族な為、王族を除けば一番上は四華。つまりアイスティーン家はそれに属しているわけである。つまり王子の友人にあてがうにはもってこいの家柄というわけだ。
さらに、父は陛下からも良い評価を頂いているそうなので、四華である上に信頼がおけるアイスティーン当主の娘がアルデリッグ殿下と同い年という事で目を付けたのだと思う。
まぁ、下手に華片の少ない家から選べば確実に選ばれた家が周囲の嫉妬から厄介事に発展するのは必至なので妥当だろう。
因みにファンタジーな世界でもあるので魔法があるのだが、華片の数が多い家程魔力が高い子供が産まれる事が多いとされている。
まぁ、7歳にならないと魔法を使えるようにしてもらえないので私自身の魔力量は分かりかねるのだが。
「私でよろしければ喜んでお受け致します」
「そうか!ああ良かった。リドリア、アルデリッグを呼んで来なさい」
「かしこまりました」
リドリアと呼ばれた使用人は、ドアの向こうに消えていった。
…アルデリッグ様かぁ。なんでかアルデリッグ様はパーティなどでもお姿をお見せになられないから、実物を見るのは初めてなのよね。
数分待つと、リドリアさんが戻ってきて「少し待って欲しいとの事です」と伝えられた。
陛下は実はサプライズで話してなかったんだよね、身だしなみ整えてるのかなと笑っていらっしゃった。…この父親は。
ある程度待ったところで、アルデリッグ様がいらっしゃいましたと声をかけられる。
わくわくしながら扉の方を見ると、入って来た方の容姿に目を剥いた。
「はじめまして、アルデリッグ・グラジオラスと申します」
「はっ、はじめまして。ミリアナ・アイスティーンと申します」
其処にいらっしゃるのは、見目麗しい上品な少年。銀色のさらりとした髪はどうやら肩ぐらいまであるのだろう、それを後ろで1つにまとめている。
「アルデリッグ、リドリアから説明は受けているね」
「はい、アイスティーン家のご夫人とご令嬢がいらっしゃっていると。彼女がアイスティーン家のご令嬢でしょうか」
「ああ。因みにご夫人はディアラと幼い頃からの友人でね。今頃話し込んでいるだろう」
ディアラ様はお妃様の名前だ。
此処に入った時点では確かにいらっしゃった。
でも私が、はじめましての「はじ」まで言った辺りで王様が「ご夫人と話して来てはどうか」と言って他の部屋にやってしまったのだ。
なんでもご夫人は私とお母様に会うのを大層楽しみにしていらしたそうで。ご夫人が居られるとアルデリッグ様のお話に辿り着けるかどうか…という事だったらしい。
…とまぁ、それはどうだっていいのだ。
私はアルデリッグ様のお顔から目を離せずにいた。
アルデリッグ様はそれを察していらっしゃるのか「なんだこの女」という雰囲気を地味に醸し出している。
…先程は、反射的にご挨拶できたけれど私の頭の中は“このこと”でごちゃごちゃで。
つい、小さな声とはいえ口してしまった。
「さっきの美少女…?」
途端、アルデリッグ様が凄い形相で私の腕を掴んだ。ちょ、痛い!痛いです!
そして、お顔を戻されて陛下の方に向き直した…手は離さずに。
ほらぁ、陛下もちょっとびっくりしてますよ!?
「父上、ところで私が彼女の居るこの部屋に呼ばれた理由について伺いたいのですが」
「あ、ああ。ミリアナ嬢はお前と同い年でな。話し相手にどうかと思ったのだが」
「そうですね、私もあまり同年代の方とはお会いする機会がありませんでしたからお話してみたいです。彼女にこの城を案内してきても構いませんか?」
「そうだな、いいんじゃないか」
「ありがとうございます。いきましょう、ミリアナ嬢」
「え、わっ」
エスコートしているように見えて、かなりの力を込められ、悲鳴を上げる可哀想な私の手。
しかも部屋を出てからはどんどん引っ張られていって…。
「あ、あの…アルデリッグ様?どちらに…」
「いいから来い」
小さなその声には怒気が含まれていて、私は口を噤んでそのまま大人しく手を引かれているしかなかった。
やがて何処か誰も居ない部屋に連れ込まれ…。
「お前」
「ひっ…!」
壁に追いやられ、足で私の横を蹴るようについた。
つまりは、壁ドン足バージョンだ。
「さっきの、説明しろ」
ああ、お母様!私とっても帰りたいです!