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起床

 翌朝7時頃、自室のベッドの上で目を覚ます。三人の大攻勢から貞操を何とか守り抜き大人の階段を上らないことに成功したことに安堵するものの、まだまだ夏休みは始まったばかりなのだということを思い出して絶望する。自分で自分を上げて落とすなんて器用な真似をしてしまった。


 何故朝っぱらからそこまで後ろ向きな考え方をしているのかと言えば、朝起きて一番最初に目に入ったのが文美の寝顔だからである。三人が協力関係を築いて以降、こうして文美は俺と同じベッドで眠っている。


 他の二人は普段昼間に俺と一緒にいるからその埋め合わせとして文美は一緒に寝ているとのことらしい。


 ともかくこうして文美の寝顔を見てしまうことは俺に現状を嫌でも認識させる。目を覚ました時に『今の状況はひょっとして夢なのでは』と思うことが何度かあったが、その度に文美の寝顔にその思いを否定されて心の中を諦めが占めるのだ。もしかしてそれが狙いで文美は添い寝をしているのではないかと邪推してしまう。


 そうしてずーんと心が沈み、気力やら何やらが根こそぎ消え去ってしまいなんとなく文美の寝顔を見ること大体数分、文美がもぞもぞと動き出して目を覚ます。


「お兄ちゃんおはよー」


 『にへら』とも『ぽわあ』とも言える笑顔で文美が挨拶をしてくる。それに対して俺はやや顔を赤くしてしまいながら返事をする。


「お、おう、おはよう」


 だってよ、考えてもみろよ、妹とは言え美少女が至近距離でそんなだらしない顔して『おはよう』って言ってくるんだぜ? しかもそれが毎朝毎朝必ずだぞ? 俺の倫理観がどんどんと壊れていっているのも納得するだろ? してください。俺が悪いんじゃあないんだ。


 そして文美は頬を俺の胸にスリスリと擦り付ける。崩壊速度が増すからやめてください。


 やがて満足したのか文美は俺から離れるとベッドから立ち上がる。


「それじゃあ朝ごはんの準備してくるから、お兄ちゃんはゆっくりしててね! あ、でも二度寝しちゃ駄目だよ!」

「わかった、顔洗ったらリビング行くよ」


 そして文美は部屋から出ていき、パタパタと階段を下りる音が聞こえる。ゆっくりと言われてもなあ、三人で妙なことしてないかとかで落ち着かないんだよなあ。


 はあ、とため息を一つついてから俺もベッドから立ち上がり洗面所へと向かう。一緒に寝るようになって朝からバタつくことが無くなったのだけは良いことと言えるだろうか。




 顔を洗い終えて三人が待つリビングに入る。昨晩のように三人が裸エプロンだったりしないかやや警戒したが、見た限り三人は普通の恰好をしていた。そのことに安堵のため息をつくが、何故リビングに入るのにこれだけ警戒せにゃならんのか。



「あ、雄太くんおはよう。今日の朝ごはんは和食だよー」

「雄太、おはよう。もうちょっとで出来るからテレビでも見ててよ」


 俺がリビングに入るとほぼ同時に榛名と田中が口を開く。俺は『おはよう』とだけ返して椅子に座る。まるで夫婦みたいなやり取りを二人とすることに対していまだに違和感があるものの、俺にできることは無いので大人しくしておく。


 ぼけーっとテレビを見ているといつの間にか俺の前の席に文美が座っており、二人が朝食を運んでくる。メニューはごはんと焼き魚に味噌汁に卵焼きという『ザ・和食』な内容である。


 内容自体は至って普通ながらもやけに舌に馴染むんだよなあ。これが胃袋を掴まれるということなのだろうか。順調に外堀を埋められて行っているような気がする。


 そして四人とも食べ終わり、さて部屋に戻ろうかなと思っていると榛名が口を開く。


「それじゃ、今日は何時に出る?」


 え、何に対しての質問なのよ。


「うーん、お兄ちゃんも準備しなきゃ行けないだろうし10時くらいでいいんじゃないかな?」

「そうだね、こっちは準備出来てても雄太はまだだろうしね」


 状況が掴めないでいる俺に反して田中と文美は質問の意図を把握しているらしくサクサクと話が進んでいく。ちょっと待って。


「え、何? 何の話なの?」

「え? 何って昨日言ってた旅行の話だよ」


 俺の疑問に対して榛名が答える。


「ああ、そういうことね。買い物とかに行くだけだったらそんなに準備はいらないよね?」


 海についてとか色々聞いてたもんなあ。水着とかも買うつもりだろうし、意見とかも聞かれるんだろうなあ。訪れるであろう羞恥プレイに思いを馳せて俺はやや憂鬱になる。



「「「え?」」」


 しかし返ってきたのは三人の疑問の声。え?


「えっと、雄太くん、買い物じゃなくて旅行に何時に出発するのって話だったんだけど……」




 え?

チカレタ……

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