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links.  作者: バルサン赤
箱庭の少女
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晩、暮れる故郷

 リードルの街へ着いたのは日がどっぷりと暮れた後だった。国境と首都の間にある街ということで人通りは非常に多い。ハル達四人が埋もれて見える程、奇抜な集団も歩いている。即ち治安も良いとは言えないのだが、大通りであれば問題ないだろう。旅慣れしているライカが宿を取り、トトを連れてギルドへ行く。当初はシャーリーとハルで別れて行動するつもりだったが、襲撃されるとどうしようもないと説得され、四人固まって行動することになった。

 二階建て、そこそこいい宿のエントランスで、トトとハルは待ちぼうけを食らっていた。既に二件目なのだ。二人部屋を二つ取るだけなのに。とトトは椅子に座ってぼうっとしている。

「……あの、トト、君」

「何だ? えーと……ハル」

 暫くもごもごと躊躇う様子を見せていたハルだが、意を決したようにトトの方を向いて詰め寄った。

「混血児のことについて、もっと教えてほしいんです」

「あんまり俺も詳しくないけど」

「私は何も知らないんです。それと出来れば、魔女の方じゃなくて、赤い目の方を知りたいんです」

「ううん。まあ、詳しいこと知りたいんなら図書館に行った方がいいと思うけど、いいよ」

「ありがとうございます。あと……シャーリーちゃんには言わないんで欲しいんです」

「? いいけど」

 トトは荷物から古びた一冊の本を取りだした。慣れた手つきでページを捲り、半分程過ぎたあたりで止める。

「俺が学校に通ってた頃の教科書なんだけど。

 この前言った通り、赤い目は魔物の血を引く証なんだ。これは魔女の方も同じなんだけど、劣性遺伝子みたいに、血を引いていても容姿に現れない場合の方が多い。そういう人は一般人と変わらないんだ」

「赤い目の人は、一般人じゃないんですか?」

「うーん、まあ、特殊な能力を持ってる人も居る。例えば、魔物の長、竜の血を強く引く人は魔物を従えやすかったり、他の混血児がどの魔物を先祖とするかを感じ取れたり。

 それに、後天的に力に目覚める人も居るんだ。容姿こそ変わらないけど、ちょっとした刺激で力に目覚めたりな。だから混血児に近しい人も差別的な目で見られる。半分魔物って言っても差し支えない、って認識らしいけど」

 擦り切れかけた字を指先が辿る。図解付きのそれは読み書きを習ったにも関わらず難解だった。難しい言い回しなのだ。貴族的な、そういう言葉には慣れているが、どうにも古臭い言葉ばかりだった。

「でも、今混血児は一定の割合でどの国にも居る。中にはその魔物の力を使って家を大きくした例もあるんだ。

 ただ魔女側と違って、魔物は力関係がはっきりしてるから、苦手な魔物の混血児相手だと本来の力を発揮できなかったり、とかもあるかな」

「……その、後天的に力に目覚める人って、何か兆候とかはあるんですか?」

「個人によるとしか言えないかなあ。図書館には魔物図鑑とかもあるはずだから、それを見たら参考になると思う」

「そうですか、ありがとうございます。

 トトさんは何か、特別な力とかはあるんですか?」

 彼は目を丸くして、自分の掌を指差した。意味が分からず首をかしげていると、苦笑いを浮かべて、いいものじゃないよ、とだけ言った。そうして手を引っ込める。それと同時にカウンターで手続きを済ませたシャーリーとライカが帰ってきた。

「かなり混んでたけど、なんとか部屋は取れたわよ」

 鍵を二つ、手に持って見せる。憔悴した表情から、かなりの時間立たされっぱなしで待たされたのだろう。私はもう休むわ、と呟く声も、いつものきつめの印象が抜け落ちている。

「俺は……ギルドだけど、これ出すだけ出して、賞金受け取る手続きとかは明日にしよう」

 ライカも欠伸をして宿から出る。窓の向こうは街灯の明かりだけが輝いていて、もう今日は外出は出来ないだろうとハルも固まった体を伸ばすように立ち上がった。シャーリーに並ぶように駆け足で歩む。が、彼女はカウンター脇の棚を難しい顔で眺めている。

「どうしたの?」

「新聞よ。昨日と一昨日、オウカ家についての情報は手に入れられなかったでしょ。……これでいいか」

 ぱらぱらと灰色の紙を捲り目を通す。探すまでもなく、大きな見出しで当主暗殺から当主争いについてまでが書かれた記事が目に入った。

 序盤は概ねゲルデッヒ家で手に入れた情報と変わりなかったが、後半に入るとびくりとシャーリーの体が震えた。ハルは目を凝らして文字を読む。

『――――と思われていたが、先日未明、オウカ家二男のレン・オウカの遺体が発見された。犯人については同一犯と見做し、目下捜索中である。なお、長男ユウ・オウカ、長女キョウ・オウカ、次女ハク・オウカは依然と行方をくらませている――――』

「そんな、お兄様が! でも、他にも……?」

「どういうことなのかしらね。当主争いは子息だけで行われていた筈でしょう? 確か、キョウさんとハクさんは姉妹、他に兄妹はいなかったわ。当主争いに巻き込まれる必要なんて」

 シャーリーは震える手で新聞を閉じて元に戻す。疲れた頭でそんなことは考えたくはなかったのだ。下手をすればユウは死んでいる、その可能性から目をそらすように、ハルの手を引いて部屋の扉をばたんと閉めた。

 沈黙が、部屋に満たされる。ハルもまた、冴える頭に流れ込む情報が、身を刺すように痛くて仕方がない。彼女は誰よりも兄を慕っている。ハルが屋敷で待っていても、本家へ行った兄は必ず帰って来たのだ。それが、今兄は自分の居場所を知らず、そして自分も兄がどこへ消えたのか、それを知る術はない。瞼が、水滴に押し上げられるように熱くなる。嗚咽すら上げず、ただその寂しさに、家族と離れた不安さに、涙だけを流した。

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