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links.  作者: バルサン赤
アンビギュアスに還る
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己の向かう先

 王宮への立ち入りを禁じるように横一直線に、城壁まで延ばされた柵の中央、役人と思わしき頭の固いそうな男が人々の立ち入りを遮る。時折そこを通ろうとする人間にやれ通行証だの書類だのを求めるのだ。カーラ達もあえなく門前払いを食らい、柵の目の前にかかる橋の上でどうするかを相談していた。

「通行証って、それを貰う為にここに来ているのに」

「あれが無ければ、今の状況では帰ることもままなりませんからの」

 手すりにうなだれるようにして体重をかけるカーラとは逆に酷く落ちついた様子のバーナードはちらりと柵の向こうを見た。立派な建築であるが、それは植民地時代に国民を動員して創り上げたものだ。わざわざ国としての姿を創って、この島に住む人間すべてを縛ろうという魂胆の元である。元々森や山奥、海辺、人が住むところはいくらでもあった。人伝に聞いた話ではあるが、その集落の人間達は確固とした別々の暮らしをして、しかしお互い助け合っていたと言う。貧しいながらもここは楽園であったのだ。権力などという、人の作った争いの種を持ち込まなかった故に。

「……あの、バーナードさん。向こうが少し騒がしくありませんか?」

 城壁の外、城門の方向を見る。門番たちが多数そこで待機しているが、争うような怒号と剣の交わる金属音。戦闘が起きているのだ。気付けば連絡を受けたのかいくらかの小隊が城門に向かって颯爽と向かった。ただそれを見ていることしか出来ないが、真剣な面持ちで二人は体を強張らせる。その騒ぎに気付いたのか、人々も民家や店に逃げ込む。先程までサーカス団の公演があったのだろう、派手な格好をした人間がわたわたとあちらこちらを駆けている。躓く子供を起こしてはぐれた母親を探していたり、人々の非難を勧告したり。しかしそれは少々違和感があった。

「大袈裟すぎませんか。あの人たち……」

 それにバーナードが肯こうとしたその瞬間、後方、王宮の左側から爆発音が響き渡った。ばっと振り返れば炎と煙。がらがらと崩れる白い石壁が彫刻や花を押し潰している。穴から僅かに身を乗り出すようにした軍服の男は身を焦げさせて、そのまま壁と共に力なく落ちる。急いで中に入ろうとすれば、役人が両手を広げて首を横に振る。

「立ち入り禁止だ!」

「通行証だの、言ってる場合じゃないでしょう! 私は回復魔法が使えます、怪我人はこうしている間にも――――」

「ええい、五月蠅い! そう言って中に入り込むつもりなのだろう! さてはこの騒ぎも貴様らが」

 言葉を遮るようにして男はカーラの頭上を飛び越える巨大な獣に押し倒された。泡を吹いて倒れる男を放って、大きな獅子のような魔物は中に入っていく。

「魔物? バーナードさん!」

「分かっておりますとも。しかし……」

 バーナードは振り返る。城下町には魔物が押し寄せているが、民間人を襲う兆候を一切見せないのだ。訓練されたかのようなその動きは的確に軍人たちだけを襲っていた。そしてその奥、囲まれるように派手な格好をした人間達が――――

「いけません! 魔物が重要なのではなく、あのサーカス団! あれが魔物を操っている!」

「サーカス団?」

 魔物たちを従える女性は露出の多い格好で、鞭を携え周りの人間に指示を下している。そうして隣に控える一際大きな、赤毛の獅子に飛び乗った。魔物の背はカーラよりも少し高い位置か。真向から立ち向かえば、ただでは済まないだろう。ちろちろと体の内に溜めこんだ炎を吐いて、軍人たちの組む陣形すら無視して全てを焼き払う。

 しかしそれ以外にも無視できない要素はある。橋の下、大きな川から蜥蜴や蛙型の魔物が飛びだした。城壁には魔物が入らないよう、川の部分に柵を設置している筈だ。つまり内部から入り潜んでいたことになる。飛び跳ねるようにして城内に入りこもうとするその魔物に炎が襲いかかる。カーラの魔法だ。しかし水を纏うその魔物たちには相性が悪い。僅かに怯ませるのみだ。そこへバーナードが掌底を叩きこむ。対岸へ吹っ飛ばされた蛙は民家の壁に叩きつけられそのまま動かなくなった。蜥蜴が嘆くように鳴いた。

 炎の獅子がそれに反応して、女性を乗せて走った。カーラの目の前で、涎を垂らして、しかしそれすらも吐息の炎で燃やしてしまう。女性はそこから降りてぴしゃりと言い放った。

「邪魔をしないで。この国の問題よ。貴方達、関係ないでしょう」

「人を殺そうとしている魔物を、見逃す訳にはいかない。何故、こんなテロのような真似を」

「この国は腐っているわ。全部無くすのよ。そうして、元の姿に戻してみせる! 魔物と共存し、飢えを見て見ぬ振りなんて一切しない、そんな姿に。そのためにはルシアニア人以外はいらないの。そして権力の味を知ってしまったルシアニア人もね」

 外から人がやってこない、そんな状況に歓喜しているの、そう言い放つ女性に薄ら寒いもの感じた。執着に似た恐ろしい感情が目に宿っているのだ。話し合いは平行線にしかならないだろう。残念な気持ちを抑えてカーラは無駄と知りつつも炎を巻き起こした。獅子はぐるると低く唸ってそれを尾撃で振り払う。

「……こんな過激な集団をとらなくとも、国を変えることは可能です。貴方は若さのあまり逸ってしまっているだけではないのですか? 人は変わる生き物ですよ」

 蜥蜴を処理し終えたバーナードは女性に呼びかける。ぴしゃんと鞭が地面を叩く。

「変わった結果がこれじゃない! 自分達がいつまでも上に立っていると思わないで。いつもそう、この国を見下して。ぼろ雑巾みたいに扱って。あたしたちは道具じゃない。解放されたと思ったら、今度は貴方達に毒されてこの国が根本から腐っていく!」

 彼女の背後から、鳥の羽をもつ女性が躍り出た。ハーピーだ。美しい声が、今は怪音だけをひしらせてカーラ達を襲う。あまりの痛みに耳を抑えて、カーラは蹲る。それを食い殺すようにして獅子が大きな口を開けて飛びかかった。しかし、空中でぎゃおんと悲鳴をあげてひっくり返されるように地面に倒れ伏した。

「ヴィルトゥス!」

 その獅子の名であろうか、女性は腹から血を流す獅子に回復魔法をかける。温かい朱の光に包まれ、ぴくりと獅子は動く。辛うじて一命をとりとめたのだろう。しかしもう戦う事は出来ないだろうその深い傷に、女性はカーラを睨みつけた。しかし女性の視界に入ったのはカーラではなく、それを覆い隠すように作り物のような翼を広げた鳥の魔物と、その前に立ち剣を逆手に構えるリリューシャだった。

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