4話
「処罰はもちろん受けるつもりです。私は私のした事に責任を取ります」
「自分はただ、状況を報告する責を果たすだけです。結果はどうなるか判断出来ません」
落ち着きを取り戻した大滝は深くうなだれ椅子に座っていた。
その側で白石はヘルメットに取り付けてあるビデオカメラの電源をOFFにしなかった事に後悔をしていた。
テーブルからフォークを取った大滝は捕虜となった敵兵を襲った。
回りの自衛官に取り押さえられ、馬乗りにされた大滝は半狂乱になりながら女性の名を呼びながら床に自ら額を押し付けた。今では落ち着きを取り戻し椅子に座っている。
「婚約者、なんです。あそこにいた女性は」厨房の奥を振り向き、視線を白石の顔に戻した。
「真奈美には会えませんね」
「ここでは。駐屯地に戻りしだい会えるように手配はします。それまでは貴方を脅威、危険人物として対応させてもらいます」
2人は大滝の両手を拘束しているタイラップバンドを観た。
「ありがとうございます」大滝は深々と頭を下げた。
血の匂いが鼻についた。馬小屋の中。奥で白馬が秣をのんびりと喰む。
「我が陛下。御召に参上しました」頭上から声とともに、血が溜り落ちる。
「怪我をされたか」アベリックは白馬に鞍を起き天井を見上げた。
「お見狂しいものを。我々がいた群れを追い払う闘いで」
「今、その群れは」
「御城の側にいた者達は全て処分してまいりました。次は領地内に散っている者の処分です」
「それは後で良い」
「陛下の御命を狙う者たちですぞ」
「私が下す命よりも大事と貴方はおっしゃるか」
「おお、陛下…我が陛下」
天井板が外れ、穴から舞い降りた切傷まみれのハーフゴブリンが片膝を着く。「なんなりと」
「貴公、これより我が剣として、只独り我に仕えよ。我を唯一の主人として我を崇めよ。貴公はこれよりカラドボルグと名乗るが良い」
「ハ」カラドボルグはひれ伏せた。
「我が剣、カラドボルグよ。アベルの下に参じてアベルと共に帰城をせよ」
「恐れながら、我が主よ。我らいた群れは務めを果たすためなら穢ならしい事もいたしましょうぞ。お気をつけよ」
アベリックの表情が緩んだ。
「貴方たちは…私の事を気遣いくれるのでしょう。貴方たち兄妹の生命よりも私の子供の生命を取った私の事を」
カラドボルグは破顔した。
「それが剣の使命。主の勅命が我ら至上の歓」
アベリックは馬に跨がる。白馬が一つ嘶いた。
カラドボルグは馬小屋の大きく扉を開け土砂降りの雨の中、膝着いた。
「アベルの元に参れ。我が剣よ」
「御意」
カラドボルグは壁に向かい走り、手の甲の鉤爪引っ掛けながら登り向こう側に消えていった。
アベルは見送るように馬を進め停めた。顔に大粒の雨が当たり涙と混じりあった
「リマフタロクより戦車6、装甲車3、近づく。雷神ウイスキーマルヒト。風神エコーヒトナナに防御態勢にて移動せよ」
「雷神、ウイスキーマルヒト了」
「風神エコーヒトナナ了解」
「フタナナに連絡。防衛態勢にてエコーマルヒトに移動」
春山の正面モニターは偵察衛星からの情報が敵部隊の接近を知らせていた。
「了。フタマルよりオール・チャンネル、敵車両接近警報。フタナナ、エコーヒトナナに防衛態勢にて移動。送れ」隣りの席の成瀬が間髪入れず連絡を入れた。
春山の懸念に部隊に対戦車ヘリコプターが配属されていない事であった。この地域には網の目にレーダーサイトが配置され、いかなる航空機の侵入を阻んでいた。車両部隊による強襲と離脱により大規模な戦闘にならないように作戦は立案されていたが、不確定要素、もしもの時は米軍から掩護の航空機が飛来する事にはなっているのだが、既に想定外の対応速度で戦闘車両が反撃に出た。
「制圧は何処まで終わっている」
「フタキュウより完了の連絡ありましたので目標の制圧は完了しましたが敵の反撃が重く、帰隊準備に時間が掛かるとの事です」
春山は腕時計を見た。予定よりも速い。
「流石は小川の9小だな。山田の8小に引けを取らない。が、帰隊準備を急がせい」
「了解です」
長距離偵察隊が飛ばしていたドローンからの静止画像を呼び出し春山は又、拡大表示した。
モニターは村人たちを虐待する兵士。若い女性をレイプする将官を映し出す。
画像を観た後悔にも似た苦く苦しい感情が込み上げる。フェーズ4に移行しないとならないのは解ってはいる。だが部隊が去った後、取り残された村人はどうなるか。
「アメリカさんの救援、やはり来ないか」春山はモニターを戻すと目線を離さず顔を成瀬に向けた。モニターが風神隊が敵戦車の進出を抑え込んでいると表示していた。
「駄目ですね。航空支援のみで人員移動の支援は無し、即時の移動指示だけです。元々は橋頭堡は他の地点でって事でしたし」
「マルマルに連絡。出動を要請してくれ。それと、ヒトマルの呼び出しも頼む」
「了解です」成瀬は伊澤を呼び出した。
「ヒトマルからフタマル」移動中の為か雑音が入る
「そちらの進捗状況はどうだ」
「これからフェーズ4に移行するが」
「そうか。村人を救援するのに移動させる。頼む、掩護してくれ」
「フェーズ4、達成出来なくなるんじゃないのか」
「マルマルにも出動要請もしたが、人員移動の手段と敵の反撃に備え戦力を多く確保したい。リミットタイムを割り込む前に移動完了すれば問題ない。虐待された村人を救いたい。そのためだ。手を貸してくれ」
「解った。我の戦力を再配置するのに時間をくれ。親っさんには報告したのか」伊澤は笑みを浮かべた。
「まだだ。親っさんをダシに使うようで心苦しいんだが。すまん、俺のわがままに付き合わせて」
「やめてくれ。その、付き合うて言うのを」
雨脚を風が乱す。足場は川のような泥と化していた。
共和国の中央の押しが弱まる。帝国歩兵が圧を掛ける。共和国の陣営が崩れはじめた。
「劣勢に怯むことなく良く持ったな」誰ともなくベルンハルトは呟く。
共和国の右翼の騎馬隊の乱戦から飛び出し帝国歩兵に噛みつくように駆けよる。帝国弓兵が騎馬たちに弓矢の雨を降らす。
1騎、2騎と落馬するが勢いは衰えず騎馬隊は帝国歩兵の群を蹴らした。
稲光が一瞬、戦場を照らす。雷がまた、古い砦に落ちた。
騎馬たちが開けた隙を共和国の歩兵の群が突いてくる。
ベルンハルトは唸る。
大盾を持った帝国の槍兵たちが前に出て、歩兵の前に壁をつくる。槍兵の壁に歩兵が走りこむ。
角笛の音が戦場に響いた。角笛の音が城から響いた。
戦場に歓喜と驚の唸り声が挙がった。
森から単騎の騎士、白馬に跨った騎士が旗手を従え戦場に駆け寄る。
「旗印は白地に金の不死鳥。アベリック国王陛下」ブットシュテットの声が震えている。
「知っている。余計な事は言うな。なんと、名誉な事だ、なんと素晴らしい事だ。一国の国王と剣を交える。これだから戦は」
ベルンハルトは馬の横腹を一つ蹴りし丘を駆け下りる。
「御舘様」
「留めるな、雑兵では礼を失する」
短く5回、長く3回の角笛の音が雷光と雨風の中に響いた。
その音は共和国兵団出立の合図、そして国王出立。
兵団は既に出立しているので共和国兵団の合図ではない。即ちその角笛の音は、国王アベリックの出立の角笛の音。
「陛下が、だと」
ダヤンは一瞬、動きを停めた。隙を付き帝国槍兵が槍を突きだした。ダヤンは盾でその槍を殴りつけるように叩き落とす。馬首を回し森の方へと駆け出した。
クレマンが指し示した先には鈍く輝く白銀の鎧に身を包んだ馬上のアベリックが観えた。
グレゴワールは騎兵を纏めあげる。アベリックの元に行くまでに帝国の厚い軍団がいる。しかし、全騎兵で行く訳にはいかない。
「クレマン、ここを頼む」そう、言い残すと馬首を返した。
7騎を従え帝国歩兵にぶつかる。「ええい。邪魔だ」その気迫と共にグレゴワールは鉄鞭を振るう。鋭い音を立て鉄鞭が歩兵たちの頸が飛ばす。
気迫。グレゴワールの気迫に帝国歩兵の圧が緩む。捩じ込んだ。グレゴワールは強引に従えた騎兵たちと歩兵の群れに捩じ込む。
厚い、まだアベリックとの間を帝国軍が埋め尽くしていた。
旋回するブラックホークの窓から後にする高層ビル群が観えた。闇に浮かび上がる姿はまるで墓標のようだと白石は想った。
到着した米海兵隊からの援軍に任務を引き継がせた伊澤指揮の第1中隊は米空軍のスカイレイダーの掩護を受けながら帰路に着いた。
邦人の人質以外と負傷した自衛官を載せたオプスレイは空中給油を受け公海に停泊している米軍空母に向かい、その他の第1中隊を載せたヘリはFOBサンタモニカで給油を受け『かが』に戻り帰国する。
白石は腕時計を観ると数時間は眠れると判断した。壁に身を預け眠りについた。
89式の機関砲の射撃音が響いていた。村の広場。人質たちと村人たちが集まり不安気な表情で射撃音がする方を見ていた。
「せめて、けが人と女と子供だけも一緒に避難させてほしいと言ってる」
「無理だと言ってくれ」小川はそう言うと唇を噛み締めた。視線の先には虐待されたのか大怪我を負った村人達をライフセーバー役の隊員が治療を施していた。
宮崎は村長だと名乗る老人に現地語で応えた。
CIAが捕縛を命じた幹部、大統領の甥は捕虜と納屋の中で監視下に置いてある。どのような手段で敵国が奪還作戦を展開するかは解らない。そして、村人たちにどのような被害を被ることになるのか想像も出来ないのである。村長が救援を求めるのは当然だと小川は想う。
狼狽と悲願のゼスチャーを老人はしながら悲痛に話し宮崎はまた返答をした。
「なんと言ってる」
「こっちの訛りが強くて上手く聴き取れ無いが、お前たちは神の軍隊ではないと言ってたので俺たちは日本の軍隊と応えた」
小川は合図をすると2人は老人を残し踵を返す。
「しかし、良く現地語が解るな」
「ここの大使館の駐在武官としていた事があったから。なんとかならんのか」宮崎は立ち止まり小川の顔を見た。
「意見具申するので手いっぱいだ」遠い目をしながら握りしめた小川の握り拳は震えている。
村人たちも避難させる時間が遅れを呼び、引いては反抗作戦全体の失敗に繋がる。それを恐れた。
小川は老婆の腕の中で泣く乳飲み子を観た。長距離偵察隊の隊員の1人が老婆に近づき糖分補給用の飴玉を与えていた。熱い血が身体を駆け巡った。俺はいったい何が出来るのだろ。そう、俺はここにいて出来る事。
「小隊長、その考えを実行すれば良いだけだ」
ハッとした表情で小川は宮崎を見返した。
「俺らは小隊長の命令なら,どんな命令でも聴く」宮崎は笑みを浮かべた。
いつの間にか第9小隊の全員が小川の周りに集まっていた。
「止めると思ったがな」小川は隊員一人一人の顔を観ながら言った。
「そうか、止めると思ったか。俺達を舐めるなよ」
全員が宮崎の言葉に黙って頷いた。
アベリックの肌はまるで縫針で叩かれたようにチリチリした。野盗や怪異を駆逐する場には出立はしているが、これが戦場。本物の戦の情調だと想う。
「遅参、御無礼。しながら御身が戦場に立つとは無謀、あまりにも無謀です。御城に御戻りを」グレゴワールはアベリックの隣りに馬首を並べた。アベリックは一つ頷く。
「アルスを見かけませんでしょうか」風に負けないように声を張り上げた。
グレゴワールは一瞬、戸惑う。戦場では聞かない言葉に戸惑った。
「いいえ。御城では」
「城には居ないのです」
ダヤンがアベリックの前に駆け付けた。
「陛下。御城に御戻りを」
「ダヤン殿、アルスを見かけませんでしたでしょうか」
「アルス様…戦場では見かけてはおりません。所在が解らないのですか」
「そうです。帝国の目的の1つに我がガイヤールを滅ぼし、クローディアを連れ去る事だと」
「理不尽極まりないですな。大国がする事とは思えません」
「誠です。帝国のデリンガー侯爵の言葉です」アベリックの旗を掲げる騎士が言った。
「貴公は」ダヤンは眉をひそめる。
「アベル騎馬隊、ボドワン」
「そうか。アベル様は」
「隊長とは龍の背で別れました。入口で待ち伏せていたデリンガー侯爵の言葉です」
「陛下、今は陣を建て直すしましょうぞ」グレゴワールは戦場を観ながら言った。
自然と共和国軍はアベリックの元に集まりるように後退しはじめていた。
「采配はダヤン殿にお任せいたします。ジュスタン殿にも伝えください」
「ジュスタン殿は討死されました。ロムルテリアは私の配下に取り入れております」ダヤンはアベリックの前に馬を進めながら言った。
アベリックは頷く。
鈍い銀色の馬甲を纏った黒馬に跨がった騎士が単騎で駆けてきた。帝国軍団の陣営を2つに切り裂く、帝国軍団の攻めが停まった。
黒馬の騎兵、ベルンハルトはアベリックの前に竿立ちになり馬を停めた。
「我は帝国領セルネダ藩主。帝国第2軍団長。アダルウィン・ベルンハルト公爵。失礼ながら、ガイヤール国王陛下とお見受けいしたしますが」
アベリックは馬をゆっくりと前に進めた。
「いかにも、私は共和国国王、アベリック・ガイヤール」
「馬上にて失礼。我が陛下の勅命により貴国を帝国支配下に置き、陛下御一家を処断、クローディア姫を我が陛下の下にお連れ申し上げる」
「問おう。何故に陛下はそのような理不尽な仕打ちをされるか」
ベルンハルトは一瞬、戸惑った。アベリックの身に纏う佇まいに戸惑った。これが聖なる森の人々の血筋を受けるガイヤールの血筋。
「我が皇帝陛下のお御心は解り申さず。だが、勅命ならば光神を討てとあれば討つ」戸惑いを打ち消す為に絞り出すように言った。
「まるで、盗賊だな。帝国も地に落ちたもんだ」グレゴワールがまるで独り言のように言った。
ベルンハルトはグレゴワールを睨む。だが、自身の想いを見透かされたと想った。
「失礼した。ベリアラス郡の郡長、グレゴワール。だかな、使者もよこさず戦を起こすとは。剣聖を生み、自ら戦場に立った国王の末裔の国とは思えん。これでは、国を盗む盗賊団だ」
「戦の礼儀に反するとは我ながらもそう想う。しかし、勅命は果たす。陛下、我が軍団に降ってはいただければ命は助けましょうぞ」
「失礼な。それが一国の王に言う事か」ダヤンは進みながら言う。
ベルンハルト自身、自分でも何を言ったのか解らない。勅命はガイヤール家の殲滅。なぜ、助命をせねばならないのかと。
「我はロムルテリア筆頭騎士。ダヤン」
居た。言葉にするとそう言うしかない騎士が居たとベルンハルトは思った。ダヤンからの気迫。まるで剣のような気迫がそう想わせたと思う。
跳ね返す。気迫を巳の気迫で跳ね返す。
「非礼を詫びよう。陛下、この嵐。止むまで我が軍団を停めます。陛下の軍とは天候などに左右されず、良好な戦場で剣を交えたいものです」ダヤンとグレゴワール、2人の目を視ながら言い放すとベルンハルトは馬首を反転させまるで逃げるように馬を走らせた。
山田の前に第8小隊が集まっていた。
「無理強いはしない。援軍が到着するまでだ。と言っても援軍が着たらと言ってもどうなるか判らんし、敵に取って、ここは重要拠点施設だ。反撃がどうなるか。それでも、残りたい者は一歩前ヘ」
小隊全員に何のためらいは無かった。小隊全員の足並み揃って一歩前に出た。揃いすぎたその足音は1人の足音のように山田は聴こえた。
「すまん」山田は全員と握手をして感謝と激励の1つをしたい気持ちを押さえた。
「大将を残して帰隊したら第8小隊の名折れです」
「なに1人でカッコつけてるんですか」隊員たちは口々に想った事を言い返す。
「手持ちの弾倉を再分配して捕獲した兵器を確認。使える兵器を所持し配置に着け。別れ」
オウ。隊員たちは一斉に散らばる。
小川を先頭にした第9小隊が近く。
「こっちも小隊全員、配置に着くぞ。8小だけ、いいカッコはさせん」小川は、にやりと笑いながら山田に近づく。
「それは心強い」山田も笑い返す。
「さて、春山の兄貴に俺らのわがまま、連絡しますか」
空に溢れ出した邪素がアルスの周りに渦巻く。聖素が蓄積され邪素が揺れる。
2つの素がぶつかり、雷光を喚ぶ。
自分の魔導の力では方陣は動かす事は出来ないと解っている。ラルカンジュが封印魔導の方陣を発動する時に空に放れた魔導力に繋げアルスの召喚魔導方陣に導く。2人の聖素で生まれた邪素を召喚魔導方陣を動かす。
アルスが思い描いた第13魔素柱は邪素そのもので動く禁断と言える魔素柱になる。土、空、火の均等は崩れ、災いを呼ぶことは解ってはいる。
しかし、アルスは師匠を越える力が手中に入るという欲望に負けたと自分でも想う。
意識が途切れてきた。
アルスを悩ます悪夢が浮かぶ。斑模様の緑色の服を着た男達が乗り込む火を吐く鉄の馬車同士の戦。そして、城より高く巨大な尖塔の間を飛ぶ鉄の船。
異世界。アルスがいるこの世界とは違う世界での戦。嫌だ。その意識がアルスを覚醒させた。
方陣は動く気配は無い。まだ、足りない。邪素が足りない。
意識を集中し新たな魔導の通りを繋げた。
FOBサンタモニカの上空にヘリ部隊と米軍のスカイレイダーの編隊が現れた。
ヘリ部隊は編隊を崩さす上空にホバリングをし2機のブラックホークと1機のオロチだけがヘリポートに着陸した。スカイレイダーの編隊は上空を旋回をして湾岸方面へと飛び去る。
ヘリポートの端から航空燃料を載せた3トン半トラックと小型トラックが入って着た。
助手席から内田1等陸曹は降りると、ヘリから降りた伊澤たちに合流する。
「設備の内田1等陸曹です」
「ご面倒おかけします」伊澤はアイドリングするブラックホークのエンジンに負けない声を張り上げる。
「こっちこそ。先程、連絡したように給油ポンプは2機しかありません。全機に給油を終わらすのは当初予定通りに時間が」
「オプスレイは後で。オロチとブラックホーク末尾奇数番機を優先でお願いしたい」
「了解です。聴いたな。別れ」設備科の隊員は給油の準備に取り掛かった。
成瀬から呼び出しが入った「ヒトヒトから呼び出しです。繋ぎます」
「1小を出せって具申なら聞かんぞ。1小の装備は近接戦闘装備だろ?3小、1機ずつのオロチとオプスレイで春さんの掩護に行く。決定事項だ、諦めろ」
「一尉、ですが。隊員の被害はありません。装備など今すぐに」
「決定事項だと言った。中隊指揮を預ける。お前さん達は人質を守り俺達の帰隊を待ってろ」
自軍を斬るようにベルンハルトは駆け抜け陣に戻った。角笛を持つ伝令の兵に命じると馬から飛び降り椅子に座り込み肩を落とすと太い息を吐いた。
戦を止める合図の笛の音が響いた。
「御館様。まるで立合いをされたようですな」クレマンが水を差し出す。
「その通りと言える。居るものだよ豪然たる騎士が。戦はこの雨風が収まるまで待つ。ガイヤール陛下の軍とは最良の戦をする。雨風などに邪魔されたくは無い」
「それほどガイヤール国王に興味があるとおっしゃる」
ベルンハルトは頷いた。
「あれ程の騎士を配下に治めるとは長として羨ましいと想う。この戦、我の力を発揮するに相応しい戦だ。陛下に感謝を、勝利を我が陛下に捧げようぞ」
ベルンハルトは身の内から湧き上がる喜びと興奮に、にやりと笑った。