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JSDF異世界戦記  作者: やぶ
状況開始
4/8

1話

憎しみの目でボトワンは荒野の丘に寝そべり麓を進軍する帝国軍団を観ていた。その数は千に近い。

国元に向かう最中で遭遇した帝国軍を冷静に観ていられる自分に驚く。以前なら怒りに我を忘れ独りで斬り込んでいたと想う。目の前の荷馬車が積む食物は荘から奪い獲った物のはず。荘はどうなっているのだ。民は。想うと怒りで身が怒りで震える。

無駄死には許さんと言った。アベル団長が無駄死には許さんと言ったのだ。自分を護る為に自ら盾となり散った名も知らない男たちがいたのだ。その男たちを想うと震える。心が震える。

重石しかならないが、もし許されるなら再び騎馬隊の騎士として帝国と戦いたいと思う。

今、己が出来る事は国元に戻り帝国は平定する事は無く共和国を侵略しクローディア様の御身が目的だと国元に伝え、千の帝国軍が迫って来ると伝えるのが使命なのだ。団長がこの場に居ればそう言うだろう。いいや、団長の心を読み動く、身体は違うが心は1つなのがアベル騎馬隊なのだ。

ボトワンは地面を這いつくばりながら繋いである馬の元に戻っていった。




駐機しているブラックホークの中で矢島は腕を組み瞑想するかのように目を閉じていた。

ゼロアワーがマルヒトマルマルと決まりFOBシカゴから進発するのはヒトニマルマルと決まった。

胃に入れないほうが動ける矢島は糧食は食べずに身体を休ませていた。

帰国後、多方面に報告書を書き上げる作業に追われる。休養らしい休養はこれで最後になりしばらくは取れなくなる。

寒さに目を開けた。

座席下に突っ込むように置いてある個人用防護装備を防寒着代わりに装着するかと想うが動きが鈍くなるので結局はやめた。

「寒いですね。雪が降っても変じゃない勢いですよ」

安元2等陸曹が機内に乗り込みながら言った。

「砂漠でも年に数ミリは雨と雪が降るって話しだが今日は降らんだろ」

半月が出ている夜空は満天の星空、雲1つも無い。

「話し変わりますが、小隊長。今夜は損をしましたね」対面の座席に座りHK416のチャンバーから弾薬を抜くと外したマガジンに装填する。

「何を?」

「アメリカさん提供の糧食はバッファローウィングでした」

「マジか?」

「マジです。小隊長の分も食べました。流石の本場物です。美味しゅうございました」意地悪くニヤリと笑う。

「食い物の怨みは恐ろしいって諺、知ってるよな」冷ややかに矢島は言う。

「すんません!。帰国したら奢らせていただきます!」大袈裟に拝むように手を合わした。

「良し。期待している」矢島は笑顔になった。何処か気分が軽くなった。他愛もない会話が気分を落ち着かせた。

「ありがとな」

「なんの事です?奢りの事ですか。任せください。美味い店、探しますんで」

「高い店なら遠慮しとく。懐が寂しいのは知ってるからな」

「流石、小隊長。俺の財布の中身まで知ってるのは。流石です」

「だろ?伊達に小隊長はやってないさ」

安元はいつもの小隊長に戻ったと内心、ホッとした。




「軍団。到着しました」ロムルテリア郡の騎士。ダヤンはオクタヴィアンの前で膝ま付き頭をたれた。

オクタヴィアンは椅子に座ったまま頷く。

天蓋の外は兵たちが調理している音が騒々しい。

「国元から肉が届く手筈じゃがな。相変わらずじゃの」

「兵たちを甘やかしたくありませんので」

「して手筈はどうじゃ?」

「信頼できる騎士5人と10人隊の長には話しております。ですが長、」

オクタヴィアンは手で停めた。

「わが家の永年の夢と言っても良いじゃろ。それはそちも同じだと思うがの」

「開祖は確かに怨みを持っていたと聴いておりますが。私はそれ程とは言えません」

「万の軍団の団長になれるのだがの…」オクタヴィアンは軽く笑みを浮かべた。

広大な荒野に並ぶ万の数の軍団がダヤンの命令を待つために並ぶ所が想い浮かぶ。

「長の御心のままに」ダヤンは深々と頭を下げた。

ダヤンはオクタヴィアンが城に戻ると天蓋を片付けさせた。

簡単な造りの椅子に座る。兵たちには厳しい命を与えるがそれ以上自身にも厳しい事をしていると想う。

戦場はいつも晴れとは言えない。雨の日も風が荒れ狂う日にも長駆させ荒野で寝かせている。自身もそうだ。羊の皮が有れば心地よく眠る事は出来る。

だが、兵は違う。己が生活の糧が有り、兵の役目とはダヤンの遊戯に付き合う。と言う雰囲気だ。

帝国と戦とは言ってはあるが盗賊やゴブリン共を掃討する程度だと想っている。まして、帝国から戦を仕掛けるとは想っておらず長達の話し合いで終わると想っている。

秀で出る兵が欲しかった。数は多くなくとも欲しかった。

今夜の謀をこなせば国の兵団をまとめた軍団、常に闘いをする為の兵団を創りその長になるとオクタヴィアンは確約した。

焼き上がった1切れの鹿の肉と木の実、小川から汲んだ水を従僕が持ってきた。

腰の袋から岩塩を出し舐めてから肉を口に入れた。ゆっくりと噛み砕き、水で流し込む。

万の兵を指揮したいというのは夢であった。開祖ロドリグが指揮し戦ったナルヘニヤ草原の戦は御伽話として幼少の頃から聴いていた。今の歳になり聴いても身体が熱くなる。夢を見ても良いと想う。馬鹿げた夢と言われようが独りの男が夢を見ても良いと想う。

ガイヤール家に怨みが有るのは開祖ロドリグだけと言ってよい。

開祖の怨みを晴らすのは子孫の役目なのか。怨みの闇を薄め、やがて忘れ去られるようにするのが子孫の役目とも想う。

今の自分には解らない。

小川の向こうに騎馬が走るのが観えた。

荘から国元に伝える騎兵とは想ったが鎧は着けておらず載り方も下手であった。

停めようと想ったが城下はテヴディア荘と国元の兵の持ち範囲だった。

その騎兵は任す事にして従僕に10人隊の長を集めるように命じた。


アルスは森の中を駆け抜け降りたままの橋を渡る。中庭に着くと馬から滑り落ちるように降りるとその場に四つん這いになり荒く息をした。

「アルス様!」城女中たちが手を差し伸べる。

無言で手を払い退けたが再び城女中たちが身体を持ち上げようとした。

「触るな!邪魔だ!」一喝したアルスは立ち上がり城内にフラフラ歩く。

アルスの暴言と何かに取り憑かれたような目付きに城女中たちは恐怖した。

旋階段を登る。足は重く青銅の塊のように重い。

ラルカンジュの部屋の前に着いた。ドアの鍵を開けるのも、もどかしく指先から火を放ち鍵を焼き切った。一瞬、気を失いかけるが部屋に入った。

中は羊紙の巻物や書物が散らばっていた。

普段なら拾いながら歩くが構わず書物や羊紙を踏みにじりラルカンジュの机の椅子に座る。

目当て巻物を机に拡げた。そして新しい羊紙を探しそれも拡げる。

羽ペンにインクを付け数式を書き込む。

身体が冷えてきた。力が抜けていくのが解る。恐怖が身体中を駆け巡る。それでも頭の中にへばりつくように記憶してある魔導数式を頭から抜き出す。羽ペンが乾くのがもどかしい。幾度もなく乱暴にペン先を壺に入れる。飛び散るインクに構わず一心不乱に羊紙に書き込む。

身体に雷が走ったように衝撃が走る。

記憶にあった数式を書き出したのだ。それで第13魔素柱が出来た。

査読をしないと想うが時が無く師匠ラルカンジュはアラカザト山に居る。そうアラカザト山に居る。窓から観た山はまだ変化は無かった。

国元に戻る時に見かけた帝国軍団がいつ来るのか解らない。帝国軍団の事は兵団の長には話してはいない。召喚した怪異を使役として戦わせれば良いだけの事だ。何も心配は無い。

力が手に入るのだ。そう、皆を守れる力を手に入れる事が出来るのだ。

残忍な程に冷たい笑みを浮かべたが、やがて声高々に笑った。




「全車両停車」

春山指揮の第2中隊を載せた車両部隊の隊長、野村1等陸佐は命じ全車は峠道のコーナーで停まった。コーナーの先には大河に架かる橋が有り米海兵隊が制圧している最中であった。

FOBサンタフェを進発した車両部隊は目標サンタフェ食堂に向け移動を開始、橋の制圧完了まで、この場で待機する事になる。

野村の心配はゼロ・アワーまでにサンタフェ食堂に到着する事と各車両に不具合が発生する事であった。

富士演習場での実弾射撃をしているので武装はまずは無いと見ているが、今時作戦のような長距離を自走した事は無く各車両の不具合が発生する事が心配の種で派遣が決まった時から野村は部下には勿論、整備科にも辟易させる程に口うるさく整備と点検を指示していた。しかし、FOBサンタフェでの時間調整中に1台の89装甲戦闘車に不具合が発生し乗車していた2中隊の隊員たちは随伴していた予備車両に移乗し戦力の低下を防ぐ事は出来たがこれ以上の車両故障など有ってはならない。

「雷神ゼロワンより各車両へ。計器をチェック」

停車している今、下車して機関部などを目視で確認したい所だが全車両より異状なしの報が野村の気分を多少は良くした。

その野村が車長も兼ねている89装甲戦闘車には第7小隊が載っていた。

車内は内燃機関の排熱で心地よさを通り越し多少暑さを感じる。隊員たちは押し黙ったまま虚空を見ていた。

小隊長の島は赤色の灯の下でタブレット端末の画面の現在位置を観ていた。橋の占領は後どれくらいなのかと苛立つ。

車両部隊として命令され参加した今作戦の不可思議とも何かの虐めとも言える車両部隊行動予定を組んだ者に怨みの言葉を吐く。

「救出作戦に参加し邦人を連れ帰るんだ。それ以上に何が有る?」

国内でのミーティングで島が言った意見具申の返答に言った春山の言葉を思い出す。

苛立つ自分はまだ自衛官として出来てないと想う。しかしながら車両に載ったままで何も出来ない事に苛つくのも事実。

腕時計を観る。まだ時間は有ると島は自分に言い聞かせた。




アベルの剣に祈りを捧げた終わったアルベリックは地下から城の庭に出た。

軍団の騎兵は剣を掲げ、兵たちは膝ま付いた。

「陛下。ベリアラスとバボットがまだ着てはおりませんがの陣の配置はこのように」オクタヴィアンは慇懃に言うと羊紙の地図を広げた。

「遠いので仕方ないでしょう。ベリアラスがまだとなると守りが薄くなりますね。城爺たちにバリスタを出せと命じてください」

「城爺にも戦わせると?」

「造らせるだけです。もし、帝国が戦を仕掛けてくるなら。仕掛けてくるなら、戦の準備だけは。」

「そのように。陛下」従僕に命じた。

城女中が入れ替わるように2人の側に来た。

「アルスが?」

「はい、具合が御悪い様子です。ラルカンジュ様の御部屋に引き籠まれております」

「戦の衝撃でしょうな」言いながらオクタヴィアンは地図をしまう。

「アルスたちが戦をしたとなると。アベルの和議は、アベルは」

「今だ和議の最中かもしれませんぞ。陛下、アルス様と戦を交わしたのは別の帝国軍かもしれません。物見の隊を出させます」

「お願いします。」

オクタヴィアンと城女中は引き下がった。

アルベリックは門の物見の塔に独り登った。

「陛下!」

驚く城爺を手で制する。

「アベル」

森の向こうにそびえる山岳が霞んで観えた。


城門の前の地面に描かれた方陣は緑色の光で輝いていた。

ラルカンジュは2章目の魔導を唱える。

方陣は蒼色に変わった。

3章を唱え終われば大広間の方陣を使い2つの月、ウェルザーンとアトポニス。千の1度の年に重なる今宵。その時に狙い封印方術を発動させる。

数式を変えようとも思う。次の千の年まで確実に封印を保たす為に力を全て絞り出す数式。次の千の年まで保つのだろうか。保ったとしても次の千の年はどうなる。それに査読ができるアルスはここには居ない。

再び攻め込まれ無いようにする手段を講じないとならない。攻め込むか。冥界に攻め込みボルザークを無き者にする。それが次の戦を生む。戦の業は深い。何処かで何かで業を断ち切る事をせねばならない。

意識を魔導を唱える事に集中をした。



「オンタイムの映像です。1時間前に到着しました。中に10人と1人の敵兵が確認できます」瀬戸口は自分のタブレット差し出した。

指揮通信車両の車両は暗くモニター画面と赤い照明灯が灯されているだけだ。

橋を攻略した米軍海兵隊に派手に見送られた車両部隊はサンタフェ食堂から迎えに来た瀬戸口と合流をした。

春山は瀬戸口のタブレットを受け取ると指揮通と同期させた。

座席前のモニター画面は上空から管制施設の車両の隣りに駐車するバスを映し出す。赤外線は車内に10人が座り運転席横に小銃を構えた人物像を捉え、バスの周辺にAKを構えた5人の敵兵が配置しているのが観えた。

「移動して人質の位置を把握させないつもりか…それで」

「制服から推測するとかなりの上級の将官も着てますね。ここの司令官と会ってます。うちの方は配置を変えバスを既にカバーしてます」

「引き続き頼んます。敵兵の配置と人質たちの位置を教えてください。フタマルより全隊へ。各自のタブレットに注目」

「この周辺の民家に分散して3個小隊の敵兵が寝泊まりしてます。納屋に5人、家畜小屋に3人の人質を確認。こことここの家畜小屋に現地の村人たちが。それで、この屋敷に我らが司令官が居ます。敵兵の配置は以前、送った位置と変わらずでダラけます」瀬戸口はそれぞれの要所に印を付ける。

春山はここの司令官と長偵は何が合ったのかと思ったがあえて指摘はしなかった。

「フタロクはバスと管制施設の制圧。フタナナとフタハチはこのラインで家畜小屋を制圧。フタキュウに置いては侵入経路の変更無し。以上。」春山は自分の端末に線を侵入の線を引いた。

「雷神、風神の両隊に置いては人質確保と同時に暴れていただく。以上。送れ」返答は無いが野村はインコム越しにほくそ笑んだと想う。

無線が瀬戸口を呼んだ。

「了。…どうやら面白い物が見れるようです」タブレットを操作してドローンを屋敷の方に移動させた。

モニター画面は屋敷の二階,テラス窓が開け放しの部屋が映る。2人の将校が激しく言い争う。現場指揮官は上半身裸のまま屋敷から出た。

煽るように両腕を振りながら叫ぶ。屋敷に振り返りベランダに出てきた将校を指差し怒鳴る。

「この髭が指揮官です。ベランダに居るのが先程着いた将官になります。」

春山はベランダに居る将官の顔画像を本部ヘッドクォーターに送った。

民家から敵兵が慌てながら発射管制施設に走り出した。

「ミサイルを射つようです。ヒト番からミサイル発射警報」

発射したミサイルの振動が車両を振動させた。

甲村は発射光の激しい光から夜目を守る為に顔を腕に押し付けながら11個目の小石を握りしめた。





天空が見えた。数分、蒼色の空を観ていた。

身体に力を入れた。激痛が走る。痛みがない部位は無いようだ。このまま、空を観ながら逝くのも悪くはないとバティストは想う。

「死んでるか」

視界に男に肩を預けたレアンドルの髭面が入ってきた。

「まだだ。お前も死んではいないようだな。安心した」

「俺とこいつだけ残った」

視線をレアンドルを支える男、少年に視線を移した。普段、レアンドルが厳しく師事をしている職人の1人だ。2人とも全身黒く変色した血に塗れている。

上半身を起こそうした。激痛が走りうめき声とともに起きた。

血と焼けた匂いが鼻腔に付く。屍体と辺りをうろつく馬しかいない。

「兵は。生き残りの兵はいないのか」

「お前と同じようなのが数十人いるだけだ」

「国元に戻らないと」

「動かないほうがいいな。こいつに荷馬車を治させる。それまで寝てろ」

少年は頷くとレアンドルを地面にそっと座らせ馬車に駆け出した。

「兵を動かしたのは早急過ぎたかもと想う。帝国に戦をする意識を確かめる前に弓矢を放った」

レアンドルは地面に横になった。

「あの目に和平って言葉は無かったよ。殺気しか無かったな。後悔をしてるのか」

「後悔より反省をしてる」

「あの弓矢でうちのギルドは助かったと想う。結局は2人しか残らなかったが。恩にきる」

「帰ったらエールで返してくれ」

「帰れたらな。それまで死ぬな」

「そうしよう」

レアンドルは空を見た。雲1つ無い蒼の空が広がっていた


森のそば、平原に造られた天蓋。

ベリアラス郡とバボット荘からの軍団到着を待たず天蓋の中では軍議が始まった。

「帝国からの言伝が無いのが気にいらん。いくら我らが小国の集まりとは言え礼に失する」

「ジュスタン殿。今、アベル様が帝国の騎馬隊と話し合っておる」オクタヴィアンは冷めた目でパイプをふかした。

辺りに紫煙が漂う。

「言伝も無くゼヘモリヤを襲った事を言っている。それではまるで盗賊か蛮民のようだ。陛下、どうでしょう。我らも帝国領土に攻め入るのは」

「それはテヴディア荘の意思としてでしょうか」

「いいえ、筆頭騎士としてでも無く私の意思です」

アルベリックは眉間に皺を寄せた。

「筆頭騎士として言っていただきたい。この場は政の場でありますからのジュスタン殿。」オクタヴィアンの目付きは鋭くなった。

「むむ。失礼した。荘の兵団だけで帝国を防ぐ事は難しくなるかもしれんと長が言っておりましてな。国元の兵団を我が荘に出立していただきたい。当然、我が荘からの手助けはゼヘモリヤに送るのは反対いたします」

「ゼヘモリヤから使い役が着ており兵を出してほしいとの事じゃ。共和国としては無理としても国元で送る。ですな」

「そのつもりです。戦があればですが。終われば兵団と手助けを送ります」

「無論、わしの郡もそうするつもりじゃ」

「陛下はお忘れか!反旗を翻し我らに屈辱を与えた事を!人の良さにも限度がありますぞ」

「ここは戦の軍議を話す場と思いましたが。もし、陛下を糾弾するというなら私は外させて頂く」ダヤンは立ち上がろうした。

「待たれよ、ダヤン殿。重ね重ねの失言を詫びよう」ジュスタンは深く頭を下げた。

ダヤンは座り直した。

「詫びは私では無く、陛下に」

「失礼しました」

たいして暑くも無いのに額に汗を吹き出し、醜い程に出た腹を震わせ2人に頭を下げるジュスタンを冷やかな目で見ると、同じ筆頭騎士、治世会議に出れる騎士とは思え無いとダヤンは想う。

結局は戦で頼りになるのは我が軍団とベリアラスだけなのだ。ホビット族のバボット荘は直接の戦闘よりは攻城兵器の類いを使わせ、我が軍団とベリアラスで戦場を駆け巡り投石と石弓で手助けさせる。テヴディアの兵たちは遊撃させる。嫌、ジュスタンの判断で動く事になる遊撃は任せる事は出来ない。ここぞという判断できるのかが解らない。

「では、もし帝国が戦をするならば先方はダヤンの騎馬隊で良いな」オクタヴィアンはパイプの灰を地面に落した。

「ジュスタン殿にお任せをいたしたい」

「ダヤン殿。我が荘にと言われるのか」

「ジュスタン殿の騎馬隊は数は少ないとは言え精鋭とお見受けいたします。ジュスタン殿に敵陣営をかき乱して頂き我が騎馬隊で屠る。その流れで良いかと」

「むむ」

ジュスタンは唸り額の汗が吹きでる。

「陛下に対しての無礼を詫びる意味もありますがね」かき乱すぐらいはできようと言う言葉をダヤンは飲み込んだ。

「私は無礼とは思いませんが。ダヤン殿、ジュスタン殿の後掩を必ず」

「は!」

「ジュスタン殿は良いかの」

オクタヴィアンはジュスタンの仕草、落ち着きのない仕草を冷ややかな目で見た。


ベリアラス郡の軍団の騎馬隊が駈歩で平原を進んでいた。

郡長のグレゴワールは単騎で先行をしている。

「長!このままでは馬が持ちません。それに兵たちが着いてこれません。長だけで戦をなさるおつもりか」クレマンは何度目かになるか。グレゴワールの背中に言った。

速度は落ちる。がしばらくすると上がる。その繰り返しが昨日の夜から繰り返されていた。

昨日の夜、国元から届いた言伝を聴いたグレゴワールは即座に軍団を招集し国元に移動を開始した。

長の気が急くのもクレマンは解る。国元と郡の関係を超えアベルとは友の間柄と言える。戦で先代が、御母堂を流行り病で亡くされてからはガイヤール家が家族のようであった。

「クレマン!」

又、長の着いて来れないならそうする。との返事が返ってくると想った。

グレゴワールは前方を指差した。

平原が燃えていた。大火のような土煙が流れていた。

ベリアラスは速度を落とした。騎馬隊が追い付き取り囲む。

「もしや、あれは帝国か」

「あの数。でしょうな」

万に近い数の軍団が移動していた。返答のしようがない数が動く光景だった。

「陛下は確かに千の騎馬と申されたんだな!」

国元の言伝騎兵は何度も頷く。

「ならば帝国軍団の本隊か…」グレゴワールは呟いた。

「お前たちは国元に行け。私は帝国に挨拶して本心を見てみたい」

「何を言われる!」

「いざとなったら逃げるさ。私の馬に着いてこれる馬が何処にいる?」

「ですが。せめて騎兵を共にしてください」

「好きしろ。私は行く」

グレゴワールは馬腹を蹴り駆け出した。




2機のAH-1JZオロチを先頭にヘリ部隊は山岳に向け飛行をしていた。

山間に近づく。編隊は1列となり駆け抜けるように山間を飛ぶ。激しく左右に揺れる。

山間を越えると白石はパイロット越しに目標レキシントン・ホテルを観た。

ブリリアントカットのような全面ガラス張りの高層ビル郡は月光を浴び神秘的な光を放つ。

ブループリントから起こされた3Dで観た角度よりも突入する天窓の斜面は急に感じられた。

隣りのビル、目標ショウ・ケースとリグレー・フィールドにFOBスプリングフィールドから飛来した米海軍特殊部隊が取り付く。

伊澤からオール・チャンネルに無線が入る。頷く白石。

「状況開始」白石はチャージングハンドルを引き、ヘルメットの左側面に取付けてあるビデオカメラの電源を入れた。隊員たちもチャージングハンドルを一斉に引いた。


白石たちが載るブラックホークの隣りを飛ぶ機内では岡本が苦虫を噛み締めた表現で口うるさく指示を出していた。

「良いか!各装備のチェック!終わったら確認だ!」

岡本の無線に白石から入る。

「よ〜し。敵さんにごちそうを喰らわしてやれ!状況開始!」岡本は笑みを浮かべた。

機内の隊員たちは鬼の副長も笑う事もあるのだと奇妙な感動を覚えた。


闇夜に獲物を狙う猛禽のように割り当てられた目標にヘリは散らばる。

2機のオロチは高層ビル郡の周辺に駐車する装甲車両郡に次々とヘルファイアを発射すると次の獲物を求め左右に散る。爆発と豪火に包まれる車両。

廃墟となったセレブ御用達のブランドショップが立ち並ぶショピングアベニューにブラックホークが起こした風が散乱したゴミと砂埃を巻き上がる。

2機のブラックホークから降りた第3小隊は目標レキシントン・ホテルの四隅に展開をした。

低層階と施設管理室の制圧の第4小隊が入口に取り付いた。2機のブラックホークは夜空に舞い上がる。

矢島は第4小隊がエントランスホールに駆け込むのを見届けると店舗を指差し部下たちを配置に着かせた。窓は割られ店内は荒れ放題だった。据えた臭いが鼻に付く。

オロチが破壊した装軌装甲車が燃えるそば、建物全部の窓から半狂乱の銃撃音が聴こえる。

矢島は赤いIRレーザーをその建物に照射した。

「ヒトサン。照射した先の建物にCAS入れてください。送れ」

「ヒトマル。了」

角野から要請を受けたオロチが旋回からホバリングし屋上にヘルファイヤーを発射した。爆発と共に建物は崩れ去った。

戦後、復興の為に出来るだけの建物を残したいのだが、今はやはり時間が優先となる。





アルスは椅子から跳ね起きるように目が醒めた。いつの間にか気絶するかのように寝込んでしまったようだ。

いつもの悪夢。緑色のまだら模様の服を着た男達の一団が鉄の馬車と空を舞う船に乗り掛け巡る。

得体のしれない夢は悪夢としかいえない。

窓からアラカザド山を観た。

雲が渦巻く。分厚い雲が。

立ち上がると部屋から出た


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