4.ギルティ・プロジェクト
光林高等学校は私立の進学校として有名で、生徒も地域住民から成績優秀眉目秀麗と持て囃されている。駅から徒歩十五分の位置で、その間にある商店街は都市開発の影響で個人店が少なく、駅前と直結することで絶えず賑わっている。
月曜日の昼下がり、さらに雨後で酷く湿った冷風が吹く中となればさすがに一足も少なく、学校も授業中であるために随分と静まり返っている。
文化祭を週末の土日に控えての豪雨である。今はもう止んでしまったが、少なくとも生徒らのテンションも、いくらか下がり気味だった。
だから窓際に座る幾人かの生徒が”それ”に気づくのも無理はなかった。
教室の窓からは校庭、閉ざされた門が一望できる――そのグズグズの泥になった校庭のど真ん中に一人佇む不審者。遠目に見ても長身痩躯で、髪は褪せたような色の金髪。男だが、その長い頭髪を後ろで一括りに束ねていた。
異様な姿である。
校舎を見るわけでもなく、何かが来るのを待つように門へと身体を向けていた。
度々動いて振り返る。窓際、彼に注視する幾人かが慌てて黒板へと向き直るが、念仏のような教師の言葉は、一切耳に入らない。
暫くして、また向き直る。どうやら時間を気にしていたらしい。
少年らはそれに促されるようにして、教室に設置されている壁掛け時計に視線を泳がせた。
十四時――二分前。
何かがあるのだろうか。
そう思った次の瞬間には、何かが起こっていた。
遥か頭上から何かが落ちてきたのだ。鳥や、まして飛行機の類ではない。
人形か、と思った。だがそうでないと認識できたのは、男の目の前で着地して尚、立ち上がる姿があったからだ。
「……桐谷?」
半年前に転校してきたらしい少年の名を口にするのは、クラスメイトの男だった。
その異様には、未だ誰も気づいていない。
そしてその少年でさえも、一部始終を見学しても完全な理解は難しいだろう。
◇◇◇
雨は上がっていた。二時間も前に止んだ豪雨だが、それでも衣服を乾かすことはない。
障壁を滑り台のようにして落下した少年は、およそ今のところ生涯で一番になるかもしれないスリルに心臓を踊らせながら、それを抑えようと大きく息を吸い込んだ。
「良く間に合ったな。全力で足止めするように命令したはずだが」
「御託はいいよ。君も導入がないとその気にならないタイプかい」
「話を聞かないな。だからあんたはダメなんだ」
やれやれとでも言いたそうに肩をすくめる。
まるで緊張感のない、というよりも、どこかとらえどころの無さを伺わせた。
「わたしはな、その気になればこの学校など一分も経たずに残骸に変えられるし、あんたが間に合わなければそうするつもりだった」
「……高校を、人質に?」
「この際だから教えるが、これは全て仕組まれたことなわけだ。『ギルティ・プロジェクト』は咎人の有用性と――その複製体の試験を併せ持つ計画だ」
第一段階は対軍隊。つまり一般的な兵隊とどの程度戦えるのか。
第二段階はサバイバル能力。自然に対してどれほどの耐性を備えて、健常者との違いはどこか。
第三段階は対咎人。咎同士の戦闘及び、咎の特性やその体質による戦闘傾向はどうか。
第四段階は複製体の実施試験。咎人の複製体がどれほどオリジナルを再現するのか――現在はここである。
「全て仕組んでいた」
十八年前の逃走劇も。
十三年のサバイバルも。戦闘も。多くの死も、喜びも、感動も――おざなりなストーリーを作る一つの要素だったのだと。
少年の知らぬ六年前、日本国内で起こった戦闘も。
WSOの独断による計画実施。代償と犠牲は、恐らく実施母体である機関が実感しているものよりも遥かに大きい。
「今は、何の試験だい」
「かつてのホープ・ウォーレスはお人好しにも程があったらしい。だから、関係のない大勢の人間が危機に晒された時、あんたはホープ・ウォーレスとしての行動を取れるか、咎はオリジナル級の展開を見せるか」
それで、と一息ついて続けた。
「前者――ホープ・ウォーレスとしての行動を取れるか。これは及第点だ。あんたは、ひとまず合格といったところだな」
「君は、馬鹿にしているのか……」
ふつふつと、湧き上がる感情は激昂。
全身が熱を帯びる。顔が熱くなるのがわかる。
だが、我慢など到底不可能だった。
「人が死んだ! 大勢の人たちが犠牲になったんだぞ!? 無関係の人間を殺す男も居た、君らの身勝手の代償で消えていった多くの命があった! 実験? 試験だと?! 君は、その責任者だったのか!?」
「ああ」
何事もないように、頭に血が上る少年をいなすことすらせずに頷いた。
「指示はあったが、言い逃れなどするつもりはないし」
にっ、と。男は、この上ないような意地悪な笑みを見せた。
「利害の一致ってところだろう。わたしは、君の言う”多くの犠牲”に疑問も無かったよ」
「一つだけ、いいかい」
「好きなように」
「君にとっての、君の救済っていうのは?」
白々しく、また肩をすくめる。
長い黒のロングコートを翻して、腰から胸にかけて括りつけられていた歩兵銃を抜く。腰の鞘から銃剣を取り出して、着剣した。
「咎人の殲滅かな。この咎人は、湧き出たウジが知能を持って地上を侵攻するようなものだ」
「そうかい、わかったよ」
少年は脇から拳銃を抜く。スライドを引いて、弾丸を装填した。
「なら僕は、君から、皆を救済する」
「どうでもいいが――始めよう。最後の試験だ、少しの期待くらい許してくれるといいんだが、なあ? マコト」
リッシュの視界を覆うのは純白の壁だった。
無駄だ、と思いながら壁を視線で破壊する。直後、見失った桐谷の姿が脇から飛び込んできた。
頬に突き刺さる痛烈な拳撃。たたらを踏むようにして脇に跳び、拳銃を構える少年を睨む。
突如として、自動拳銃がはじけ飛んだ。一つ一つの部品すら無く、それは執拗に叩き壊されたかのようになって吹き飛んだ。
少年が慌てて、着色を施した《絶対障壁》を数十枚展開する。そのまま横の空間に飛び込んで避けたその瞬間には、出現させた障壁は既にゼロへと至っていた。
――《限定破壊》。
視界内のものを無条件で一つだけ破壊する。それは知覚と同じ速さで実行され、予備動作や準備はない。
ただ、目に見えていなくとも隔てるものがあれば――たとえば、ガラスの存在を知らずにその向こう側に居る敵を破壊しようと思っても、その隔てるものを壊さねば届かない。それは認識の問題ではなく、自動的に照準を最前面のものにするという彼の中の絶対的な規則だった。
破壊の規模は、壁であれば壁。頭であれば頭。腕を破壊しようと思えばできるが、しかしその場合は衣服を破壊してからで無くてはならない。
しかし、どうあっても知覚する時間内に済むこと。脊髄反射ならば○.一秒以下で完遂する。
だから己を守る壁などに意味はなく、猫騙しもまともに通じる相手ではない以上、常に数手先を行く思考と、及びもつかない奇行を考えて動かねばならなかった。
倒すためには、全てが初めて披露する思いつきであり、その全てがリッシュの思考の上を行く手段でなければならない――むろん、無茶である。自分で考えていて、バカらしくなるほど格が違った。
今の己、桐谷洵が勝てるだろうか。
壁を展開し、円を描くような機動で辛うじて逃げ続ける少年は思った。
ホープ・ウォーレスは心底リッシュ=デモ・リッシュの事が好きだった。仲間として、師として、頭首として、全てが信頼に、羨望に値した。少なくとも桐谷洵はそう記憶している。
しかし桐谷洵は、第一印象でリッシュを嫌悪していた。好意を抱いていたという実感は無く、だから今の心情を優先して彼は男を殺そうと思った。
自然な感情――だろうか。嫌いだから殺すというのは、飛躍しすぎではないか。
心配になる。
やはり人並みではないのだろうか。
「一つ訊いていいか」
口を開くのはリッシュから。
頭の中に未知が満ち満ちる洵にとって、これ以上の会話は混乱を招きかねない。
しかし彼は頷いた。何も知らぬ少年はただその言葉を、聞くしかなかった。
「あんたは死んだ時のことを覚えているのか?」
男の言葉で、久しぶりに思い出す。
あの凍土での記憶は――何者かに撃たれ、首を裂かれた記憶しかない。相手は誰だったか……それは常に、白い闇に掻き消されてわからなかった。
そう告げる。
リッシュは困ったような、驚いたような、そんな妙な表情をして――どうやら、感心しているようだった。
「技術の進歩か。どうやって記憶を部分的に消しているのか、些細だが興味があるな」
「何が、言いたいんだ」
「殺したのはわたしだよ」
「……なんだと?」
オリジナルは確実に桐谷洵より格上だ。ならば最強を呈したその男が、なぜ殺されることになったのか。
敵のほうが強かった。
そこに、死んだはずの旧友の存在を加えれば必然になる。油断が、その死を確実にさせたのだ。
「なんで、殺したんだよ。必要が――」
「なかったわけじゃない。そもそも、生存している咎人以外は全員機関に収容されて、複製体の試験体にされていた」
「……僕も、その一人だったのかい」
「ああ。中でも飛び抜けて優秀だったから、複製体でも期待の一番星だった。今のところ、期待通りというところか」
足を止める。止めてしまう、というよりは、意思に反して止まってしまった。
もはや激痛など吹っ飛んでいる。命を削る疾走も、どうでもよくなった。
血を吐かないのは、吐くほど血が無いから。痛みがないのは、麻痺しているから。
だから、にわかに諦観を垣間見た。
重ねて見る絶望。
仕組まれた十八年間に――旧友に裏切られていたという事実。
衝撃は、だからこそ少年の足を止めるに至っていた。
「運が悪かったな、マコト。わたしも、命がけなんだよ――」
言葉の直後、構えられた歩兵銃が半ばから吹っ飛んだ。
切断されたのだ。過ぎった白刃はリッシュの脇の足元に突き刺さり――銃剣と共に千切れた銃身は、宙空で回転しながら彼の背後で、地面に叩きつけられる。盛大に泥が跳ねて、土に埋もれた。
少年の背後に、短い金髪を総立ちさせたタンクトップの男の影があった。
「確かに運が悪かったな骨董屋。ご自慢の骨董品がぶっ壊れちまったぜ」
瀬戸ユウは雷速を誇る。その気になれば、洵より遥かに早くこの場所に到着できたはずだった。
「ま、話は聞かせてもらった。大将がヤバそうなんで手伝いに来たが――まさか洗いざらい吐くとはな。典型的な悪役たァてめェのことだ」
腕を組み、無防備にリッシュの視線に晒される。
だがお構いなしに、言いたいことを口にした。
「大将、オレァお前が慰めてくれたことに感謝してんだぜ。正直、あそこで勝手に暴走してたら、マジに頭がイッてたかもしれねえからな」
「……ユウ。別に、僕は」
「てめェが悩む存在価値なんてどうでもいいんだよ。そこらの人間だってよ、自分の存在意義は、なんてご高説のたまってる方が少ねえだろ」
「いや、だから、気にしてないんだよ、そこはもう」
困り顔の桐谷に言われて、「まあ」と漏らす。
「一応だ、一応。参った時にオレの言葉を思い出してくれればいいさ」
「――関係ないさ。そこのマコトが、わたしに勝てぬことはもはや自明なんだ」
「まあそうだな、なら俺から一つ進言だ、大将。攻撃は最大の防御って言ってな」
言葉の途中で、瀬戸の姿が消える。
リッシュの眼前で電撃が弾けた。そう認識した瞬間には、既に彼の懐に潜り込んだ体勢で出現した瀬戸の攻撃は、終了していた。
腰を入れて肘を穿つ。体重を掛けた一撃が強烈に炸裂して――吹き飛ぶ、まもなく虚空で動きを止めた。見えぬ障壁が、校舎に至る遥か手前で彼を受け止めたのだ。
そこで気づく。
校舎側からのざわめき。窓を開けて身を乗り出してその成り行きを見守り騒ぐ、多くの生徒の姿に。
その中に桐谷洵の存在に気づくのは一部。指をさす級友の幾人かと、視線がぶつかって、しかし素知らぬふりを少年はした。
「ざっとこんなモン――」
口元だけに湛えた笑みを得意げに見せて振り返る。
瞬間。
右腕が、肩の付け根から”霧散”した。
血が霧のように空気中に散布して、跡形もなく消滅する。
「ぐァ……ッ?!」
驚愕が迸る。言葉を失う。衝撃もなく、痛みすら無く、ただ焼きつくような熱さを切断面に覚えて瀬戸ユウは肩を抱えて跪いた。
「ユウ!」
「確かに最大の防御だ。たかが一度の攻撃で、奴はもうこの戦闘には参加できないだろう」
歩み寄る。
リッシュが吹っ飛んだ分を削るように距離を縮めれば、地面に突き刺さった忍刀に近づいた。
拾い上げるその白刃は、冷たく冴える。切れぬものは無いと断ぜる程、それは鋭かった。
――レイドが死んで涙一つ流さなかった。
彼女は生きていたが、どうあれそれは事実だった。
怒りしか無いのだ――そうだろう、当然だ。
目の前の男に、怒り以外の何を抱けば良い? 哀れだと見下せばいいか、滑稽だと笑えばいいのか。それとも己の素性を知らぬふりして再会を喜べばいいのだろうか。
どれも却下、願い下げだ。
己を満たすのは怒りのみ。
そして今のが、決定的だった。
大量の出血の果てに目の前で跪いた男は、泥の中に倒れこむ。それを見て、マッグ・インから受け継いだ瀬戸の刃を、少年は己の牙にした。
「君を殺す」
「決意はいいが、それに足る力はあるのか」
「僕が決めた、殺すと決めたんだ! だから君に、未来はない!」
障壁が展開。瞬時に男を取り囲むように壁が出現する。純白だが、影すらも見せぬ、不自然すぎる障壁は《絶対障壁》の特徴の一つだった。
全てを遮断する……だが、破壊は容易い。
構わず目視、破壊――だが、それは指先にも満たぬ穴しか開かなかった。細やかな極小の障壁の集合である。故に見る間に、怒涛の勢いで展開していく壁は、まるで羽虫が沸き上がって正方形を形作るようだった。
一秒にも満たぬ速度。
闇が訪れ、音すらも失せる。
完全な密室――闇の中であるが故に、何も見えない。それは破壊すらままならない。
全てを遮断する。
なるほど、とリッシュは思った。
いくらか甘く見ていたようで。
どうやらそれを、逆手に取られたようだ。
背後で壁が消えた。強烈な気配がした。光が前方の壁を映す。
振り返る前に白刃が腰に突き刺さる。腎臓より下の、尾てい骨に近い位置を貫いた。
灼熱の激痛と共に振り返る。だがしかし、そこには細やかに展開される壁しか見えない。やがて完全に密閉されたその空間では音も届かず、着色ゆえに光もない。
目視が出来ない。
だから《限定破壊》ない。
血が流れ、光が訪れ、今度は右腕に刃が落とされる。少年の腕力とその重さだけで容易く筋繊維を断ち骨へと至る。しかしそこまで切断しきれず、激痛だけを残して洵は消えた。
再び闇。音もなく、熱く滴る熱湯のような鮮血だけが己を示す。静かになった分、動揺と緊張を呈して早鐘となる鼓動がよくわかった。
男にとって予想できる攻撃手段は、しかし予想できたからといって攻略できるものではない。考えられたこの極めて小さく無数の壁が展開、ないし闇の中に落として視覚情報をゼロにするこの行為は、彼にとっての弱点に等しい。
だから歩兵銃を装備した。先日も地下で停電になるより早く撤退した理由がそれだった。
久しぶりに背筋が凍る。胃がキリキリと痛み始める。
懐かしい――恐怖と緊張、この感情が、やがて全身に帯びだした。
もう闇に慣れてしまった。だからといって何かが見えるというわけではなく――しばらくぶりに光が訪れる。時間の感覚がないが、恐らく数分ぶり、なのかもしれない。
対応できない瞳が逆光しか捉えず、網膜が焼けるような感覚が痛ましかった。
「リッシュ」
己への声。
応える暇もなく、胸に鋭い痛みが迸った。
忍刀が胸を貫く。骨を砕き、心臓へと至る。一度どくん、と跳ねた心臓が、大量の出血と共に爆発に似た鼓動を放った。
胸の中に飛び込んできた少年を見ようと下を向こうとして、しかしそれを制するように顎を上へと押し上げる掌底が邪魔になる。
次第に、周囲の壁が消え始めた。
リッシュを照らし始める光は、その時に限って奇妙なほど柔らかく感じられて、己の持つ穏やかさに意外性を、彼は今更になって感じた。
意識が緩く鈍っていくのが男には、否応なしに理解させられる。
刃が抜かれ、支えを失い背中から地面に叩きつけられる。
びしゃり、と泥が弾けて身体が弾む。沈む間もなく、肉体は大地に落ち着いた。
「マコト」
「……言い残すことはあるかい」
声だけが聞こえる。目はもう、暗がりの中に落ちていた。
何も見えない。その中で、一つの疑問だけが浮かび上がっている。
そうだ、と思い出した。
女々しいと言われそうで、結局火群に聞きたかった一つのことが、宙ぶらりんになっていたのだ。
「……いいか」
「構わないよ」
思った以上に、声は優しかった。
なぜだか、安堵する。心情は、悪戯した後に母親の様子を伺う幼児に近い。
「わたしは……あんたに、どう映っている?」
たった一人のオリジナルなのに。
恐らくは、誰よりも孤独に、誰よりも強く努力して働いてきたのに。
報われない――それだけが、虚しかった。
「強かった。仲間なら、頼もしいかな。君はいつでも一人で、何かを背負っているような孤独感を見せてたけど――ようやく、わかったよ。僕は君を理解しているつもりだった。だからいま、ようやく僕は理解した。君は誰よりも強かった。いつでも、僕の師で、仲間で、かけがえのない親友だよ」
その言葉はホープ・ウォーレスのもの。
だが、桐谷洵としても嘘偽りのない心情だった。
そして複製体として、彼の言わんとする悩みもわかる。
ギルティ・プロジェクトの責任者としてではなく――リッシュ=デモ・リッシュとして、誰かに見て、認められたかったのだ。
彼の『咎人の殲滅』は本心かも知れない。
だが、今この時、逝ってしまうこの瞬間だけは、同胞として扱っても、罪にはならないだろう。
気がつけば、リッシュの呼吸は止まっていた。
倒れた彼を揺さぶって確認しようとして、少年は屈んだところで倒れこんだ。リッシュに重なるようにして倒れてしまった身体を起こそうとして、しかし力が入らないことに気がつく。
安堵のせいか。
緊張が解けたか。
いつの間にか、鼓動の度に死にそうな程の激痛は再起していて……。
暫くして、校舎から教員が複数人飛び出てくる。発砲音からの通報か、また遠くから飽きずにサイレンが響くのを認識する。。
少年が周囲を知覚するのは、そこまでが限界だった――。