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恋愛小説  作者: 阪上克利
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3

あれから数回、里奈を交えて釣りに行っただろうか。

一番喜んでいたのは、克利の妻である空であった。

同じ女性から釣りを教えてもらえるということで、彼女は喜んでいたし、克利もまた堂々と釣りを楽しむことができており、何よりだった。

靖男はそんな3人を尻目に静かに釣りをすることが多かった。

余計なことはあまり話さなかったが、一緒に釣りをして、誰かが釣れれば共に喜び、克利のくだらない話に共に笑い、靖男自身も、今まで同様、釣りのメンバーは変われど、楽しい時間には変わりがなかった。

そんな平日のある日、靖男の携帯がメールの着信を知らせた。

昼休みの休憩中だったので、また克利か、もしくは克利と同様、高校時代の友人である多田史郎か、どちらかであろうと携帯をみた。

『今度の土曜日・・・空いてますか?』

それは里奈からのメールだった。

確かに数回、釣行を共にしたのでアドレスの交換はしていたのだが、メールのやりとりはなかった。

何故急にメールなんてしてきたんだろう?

答えに困ったが一応土曜日は暇だったので靖男は『空いてますよ。』とだけメールした。

たぶん釣りの誘いだろう。

克利のメールがかみさんを通して、里奈から来たに違いない、靖男はそう思っていた。

『じゃあ、夕方電話させて下さいネ。』

返事は意外なものだった。

よく分からないが、靖男はあまり考えないようにして午後からの仕事に望んだ。

だが、なんだか妙な気持ちだった。

ふわふわして落ち着かず、仕事も手につかなかった。

夕方、終業のベルがなり、靖男は帰宅の準備をした。

時計の針は18時きっかりを指していたが6月の空はまだ明るかった。

といっても、1時間かけて電車に乗り、自宅に帰る頃にはすでに真っ暗なんだろうけど・・・。

電話は靖男が自宅につく頃に鳴った。

『はい。』

『あ、保高さんですか?橘です。』

『どうも。』

『なんか変なメールしちゃってすみません。』

『いや大丈夫ですよ。』

『保高さんって映画見ます??』

『映画・・・ですか??』

映画・・・もちろん自分では見に行くことなどないが、その昔、まだ克利が独身の頃、付き合わされたことはある。

阪上くんはあれで案外、一人で行動するのを嫌がるところがあるんだよなあ、と靖男は見当違いなことを思いながらも返事した。

『見ないこともないですよ。』

『良かった~。実はもらった映画の券が2枚あって困ってたんですよ。一緒にどうですか?』

『あ、はい。いいですよ。』

映画なら克利の妻である空と行けばいいのになあ・・・と思ったがそれは言わないでおこう、と靖男は思った。

なにか事情があるのかもしれないし、自分で役に立つならそれでもいいと思ったからである。

でも・・・。

電話を切ったあと、靖男にとっては平凡ないつもの週末が一変し、待ち遠しくなったのは初めての経験だった。

(つづく)


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