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あれから数回、里奈を交えて釣りに行っただろうか。
一番喜んでいたのは、克利の妻である空であった。
同じ女性から釣りを教えてもらえるということで、彼女は喜んでいたし、克利もまた堂々と釣りを楽しむことができており、何よりだった。
靖男はそんな3人を尻目に静かに釣りをすることが多かった。
余計なことはあまり話さなかったが、一緒に釣りをして、誰かが釣れれば共に喜び、克利のくだらない話に共に笑い、靖男自身も、今まで同様、釣りのメンバーは変われど、楽しい時間には変わりがなかった。
そんな平日のある日、靖男の携帯がメールの着信を知らせた。
昼休みの休憩中だったので、また克利か、もしくは克利と同様、高校時代の友人である多田史郎か、どちらかであろうと携帯をみた。
『今度の土曜日・・・空いてますか?』
それは里奈からのメールだった。
確かに数回、釣行を共にしたのでアドレスの交換はしていたのだが、メールのやりとりはなかった。
何故急にメールなんてしてきたんだろう?
答えに困ったが一応土曜日は暇だったので靖男は『空いてますよ。』とだけメールした。
たぶん釣りの誘いだろう。
克利のメールがかみさんを通して、里奈から来たに違いない、靖男はそう思っていた。
『じゃあ、夕方電話させて下さいネ。』
返事は意外なものだった。
よく分からないが、靖男はあまり考えないようにして午後からの仕事に望んだ。
だが、なんだか妙な気持ちだった。
ふわふわして落ち着かず、仕事も手につかなかった。
夕方、終業のベルがなり、靖男は帰宅の準備をした。
時計の針は18時きっかりを指していたが6月の空はまだ明るかった。
といっても、1時間かけて電車に乗り、自宅に帰る頃にはすでに真っ暗なんだろうけど・・・。
電話は靖男が自宅につく頃に鳴った。
『はい。』
『あ、保高さんですか?橘です。』
『どうも。』
『なんか変なメールしちゃってすみません。』
『いや大丈夫ですよ。』
『保高さんって映画見ます??』
『映画・・・ですか??』
映画・・・もちろん自分では見に行くことなどないが、その昔、まだ克利が独身の頃、付き合わされたことはある。
阪上くんはあれで案外、一人で行動するのを嫌がるところがあるんだよなあ、と靖男は見当違いなことを思いながらも返事した。
『見ないこともないですよ。』
『良かった~。実はもらった映画の券が2枚あって困ってたんですよ。一緒にどうですか?』
『あ、はい。いいですよ。』
映画なら克利の妻である空と行けばいいのになあ・・・と思ったがそれは言わないでおこう、と靖男は思った。
なにか事情があるのかもしれないし、自分で役に立つならそれでもいいと思ったからである。
でも・・・。
電話を切ったあと、靖男にとっては平凡ないつもの週末が一変し、待ち遠しくなったのは初めての経験だった。
(つづく)




