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恋愛小説  作者: 阪上克利
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2

靖男にとって管理釣り場でのニジマス釣りはいつも楽しかった。

克利が運転する車に乗って、東名高速に乗り、御殿場の『御殿場フィッシングエリア』に行く。

ここは人工的な池にニジマスやイワナを放しており、それをルアーで釣るという楽しみだ。

靖男は魚を持って帰って食べるわけではないので、キャッチアンドリリースのできるこういう釣り場はありがたかった。それになんと言っても嫌なのは生きエサを触らなくてもいいということだ。

そしてどういうわけか、ニジマスは靖男の竿によくかかってくれた。

釣りをしている間、克利は靖男にいろんなことを話してきた。

主に、かみさんのことが多いのだが、靖男の仕事のことや、昔の友人のことなど、多くのお話でも盛り上がり、普段こんなに笑わないんじゃないかというぐらい靖男は笑って釣りをしていた。

『どうですか?釣れてますか??』

『今日は活性上がってますよ。』

克利は他の釣り人と話していた。

ここではいつものことだった。

『お姉さん・・・どこかであったことあるなあ。』

克利は言った。

克利のこの言葉に靖男は気づいた。

釣具屋のあの店員の女性だ。

そもそもあの釣具屋は克利に教えてもらっていった釣具屋だ。克利が『どこかでみたことある・・・』と言っていたのも納得できる。靖男は釣具屋で昨日会ったから鮮明に覚えていただけだ。

『そうですか?確かにわたし釣具屋で勤めてるんでお会いしてるかもしれませんね。』

『ああああああああああ!!!!!そうだ!釣具屋のレジであったよ。お姉さん。』

『常連さんでしたか。すみません。こんなところでお客さんに会うなんて思ってもいなかったもんで。』

『いやいやいや。でも・・・お姉さん、今日休みでしょ?一人で??』

『痛いとこつかれちゃいました・・・一人です。』

『それは、ごめんなさいネ。良かったら今日一緒にどうですか?』

『いいんですか?じゃあ・・・。』

『あ、それとそこにいる素人の面倒も見てやってください。ボク一人じゃ手に負えなくて・・・。』

結局、克利はこの女性としばらく話して、名前まで聞き出した後、一人で場所を変えるといって行ってしまった。

女性の名前は橘里奈というらしい。

しかしこの短期間の間によくもまあ、そんなに話すことがあるもんだ、と靖男は思っていた。

『阪上さんって面白い人ですね。奥さんがうらやましいです。』

『なんかでもあいつ愚痴ばっか言ってますよ。』

『保高さんは覚えてましたよ。昨日、お店に来てくれましたもんね。』

『え、ああ、まあ・・・。』

『ニジマス釣り、はまりました?』

『ええ。あ、まあ一応・・・。』

靖男は居心地が悪かった。

なんとなく話すこともないし、克利が早く帰ってこればいいのに、と思った。

『保高さんって彼女さんとかいるんですか?』

『いやあ、いたらこんなところにいませんよ。』

『ええ。意外ともてそうなのに。』

『そんなもんですかねえ。』

『無口な人ってもてるんですよ。』

『でも阪上くんにはもっと話せっていっつもうるさく言われてますよ。』

『それは相手によりますよ。』

『そうなんですか?』

『そんなもんです。ケースバイケースですよ。・・・てか保高さん!!』

『はい?』

『きてますよ!竿立てて!!』

靖男はニジマスがいつルアーに食いついたかが分からない時がある。

まあ、素人なんだから仕方あるまい。

なんだかんだいいながら靖男はニジマスとのやりとりを楽しみつつゆっくりと岸に魚を寄せた。

すると里奈がネットを使って魚をすくってくれた。

かがんだ里奈の髪の毛からほのかにいい匂いがして、靖男はなんだか里奈の後ろにいるのが申し訳なく思えた。

『良かったですねえ。40オーバーですよ(^^)』

『ありがとうございます。』

そんなやりとりがあって、何度かお互いがニジマスを数匹かけて釣り上げ、克利も帰ってきてまた3人で釣り、時間はあっという間に夕方になった。

『橘さん。食事でもどうですか?かみさんも来るし。』

克利は当たり前のように里奈を食事に誘った。

『え?お邪魔じゃないんですか?』

『お邪魔どころか、助かりますよ。かみさんに釣りを教えてやってください。』

そのあと靖男はいつも来る克利の妻の空と里奈と4人で夕食を共にした。

靖男にとってはいつもと同じようにあまり自分からは積極的に話さなかった。

というより話すことなどないからである。

(つづく)


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