表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編小説

ドッグフードは犬神に

作者: 旱咲




――八百万の神々が人間と同じく普通に生活している世界。


そこで生きる私の恋人は、犬神である。










「……ほら、食べなよ」

「食えるかっ!」



テーブルを挟んで向こう側に座っている犬神に、食べ物の入った皿をすすめる。



「主食じゃん」

「俺の主食は米と味噌汁だ!」

「え、あんた猫じゃないじゃん」

「誰が猫まんま食うっていった?!」


それに、と私の恋人は言葉を続ける。


「俺は犬神であって、犬じゃねぇんだよ!ドッグフードなんか食えるわけねぇだろうが!」


彼が激怒するのは私がすすめた皿の上にドッグフードが乗っているから。



「犬神でしょ。犬の神様でしょ」

「違うっつうの!」

「だってあんたよく私のほっぺた舐めるじゃん。キスより舐めるほうが好きなんでしょ?」

「おまっ!!」


途端に顔を赤らめる恋人に、心の中でそっとほくそ笑む。



「だったら私のつくる料理よりドッグフードのほうが良いかなーって」

「…………お前、なにか怒ってるか?」


ええ、怒ってますとも。

……昨日のあんたの言葉に、怒っているんですよ。




――昨日、私が初めて作ってあげた手料理を、犬神に食べてもらった。いつもご飯を美味しそうに食べる犬神を見て、私の手料理を食べさせてあげたいって、そう思ったから。


だから、不器用な私が端正込めて作ったのに。



「お前、不器用にもほどがあるぞ。この玉子焼き、なにいれたんだ?苦いぞ。それならお前の妹のつくったヤツのほうが何百倍も旨いな」



確かに、自分でも味見して美味しくないなって思った。砂糖じゃなくて重曹を入れていたことにあとから気づいたし。


だから、私も一緒になって美味しくないよねって。

そう、笑いの種に出来たらいいなって思ってた。



それなのに。



妹の手料理のほうが何百倍も旨い、ですって?



いや、私の妹は器用でなんでも出来るのだけど。



でも。



「ねぇ犬神。いつ妹の手料理を食べたのよ」

「はい?」

「私の見てないところで2人っきりで会ってたわけ?」

「はぁ?!……んなわけないだろうが!」


無論、私もちゃんと理解している。

きっと実家に犬神を連れてきたときに、私の知らないうちに口にしたのだろう。犬神は押しに弱い性格だから。



理解しているからって、気持ちはどうしようもない。


ゆえに、次の日になってから嫌がらせのように彼にドッグフードを出したんだから。



「……もしかして、昨日のこと怒ってるのか?あんなのいつものことじゃねぇか!お前ヘラヘラしながら料理を出してくれたけどさ、本当は何度も失敗して割と成功したやつを出してくれたんだろ?……それ、知ってたけど、照れくさかった…っつうか……」


それもちゃんと理解している。


美味しいって言ってくれるかな、って期待しなかったわけじゃない。けれど、玉子焼きを渡したときに、顔を真っ赤にしてくれたことで、私は満足してしまったのだ。嬉しかったのだ。



……妹のくだりがなければ。




「……お前、ヤキモチ、妬いてんのか?」

「……」



やっと気づいたか。

真っ赤な顔だけで満足したけれど、やっぱり他の女の手料理のほうが美味しいって言われると、面白くない。それが例え妹でも。




ムスッと彼を見つめると、耳まで真っ赤にした犬神が、急に動き出した。


目の前にあったドッグフードの皿を掴み、流し込むように食べ始めたのだ。



「ちょ、何してんの?!」


慌てて彼の隣に移動し、急いで皿を取り上げる。



「……う……まっず……」

「当たり前でしょ?!これは犬の食べ物なんだから!」

「……犬、ね」


ゲホゲホとしている彼をほっとけなくて、コップに水を注ぎ、手渡す。

それを一気に飲み干した彼は、私に向かって微笑んだ。



「俺は犬神だけど、こんなの食べるくらいならお前の手料理がいいね」

「……なに、それ」

「お前の手料理のほうが、何百倍も旨い」

「……」



ああ、もう。


私は堪えきれず彼に飛びついた。








「……犬神憑きは、嫉妬深くなるっていうし。お前が嫉妬深くなったのは、俺のせいでもあるしな」



――その言葉は、首を舐められた甘い衝撃で、よく聞き取れなかった。

犬神憑きには諸説あります。

犬のように発狂するのを小説に入れようかと思いましたが……さすがに、ねぇ。(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ