第00話 帰還
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物語の始まりです。
俺はこの日を忘れない。…忘れたりするものか。
−−−ある二等兵の言葉
正暦1935年6月6日0526時 リベリナ共和国エヴァンポート沖 第一統合戦闘団旗艦 重巡洋艦レーク
風が吹きすさぶ中、艦橋の上に一人の青年が佇んでいた。肩に付けられた階級章は准将。
「ここにいたのか。」
掛けられた声に青年が振り返るとそこには仲間達が集まっていた。
「ああ。」
青年は返事をするとまた進行方向を見る。視線のその先にはこの戦いの最重要目標がある。エヴァンポート基地ーーー陸・海・空の三軍を運用でき、士官学校も併設するこの地方最大の基地であり彼らにとっては大切な思い出の残る場所である。今、彼らの艦隊はそこへ上陸する為、兵員輸送艦と共に全速で進んでいる。
「…不安なんだ。」
青年は一言、ポツリと呟く。
「何がだ?今のところは上手くいってるじゃねーか。」
仲間の一人が首を傾げる。事実その通りだった、本来駐留している敵艦隊は囮に引っかかってまるで見当違いの方に向かっているし敵の通信基地とレーダーは特殊部隊の働きで既に制圧している。後は味方の空挺部隊が敵を攪乱しているのと併せて上陸すればいいだけだ。
しかし青年の考えは違っていた。
「その上陸が一番危ないんだ。突破力と火力が第一統合戦闘団と第四一義勇歩兵師団だけでは少なすぎるんだよ。せめて戦艦や空母だけでも此方にまわしてくれれば良かったんだけれど…。」
「しかたねーんじゃねーの?俺達嫌われ者だし。ま、例外も少しはいるみたいだけど。」
「………。」
そう、本来ならばこの類の作戦、しかも基地への強襲上陸作戦なら動員される部隊は3〜4倍あってもおかしくない。一応第一、第三艦隊が砲撃支援と航空支援の為に動いているが、ほとんどは後詰の正規軍部隊の護衛に張り付いて動く気配すら無い。僅かな例外…きちんと自分達の義務を果たそうとしたり、あるいは上から「お前の艦は向こうに行け」と命令された嫌われ者が十数隻いるだけだ。要するに上は活躍し過ぎた自分達を使い潰そうとしているわけだ。自分達正規軍のプライドが許さないから、と言うただそれだけの理由でだ。
「多分、いや絶対この作戦は大きな損害が出る。今までみたいにはいかない。いや、今までだって殆ど偶然で勝ちを拾ってきたような物だ。俺は英雄なんて言われてるけれど、実際は唯の平凡な人間に過ぎないんだ!」
青年は叫ぶ。それに対する仲間達の反応は青年が考えていた物とは違っていた。
「なんだよ。お前、そんな事でぐじぐじしてたのかよ。心配して損したぜ。」
「へ?」
「そんな事最初の時から解ってる事じゃないの。ねえ、みんな?」
「ああ。俺達がアンタを認めたのはアンタが俺達の指揮官として相応しいと思ったからだぜ。」
「ワタクシも同意見ですな。あなたこそ、と思ったから指揮権を貴方に預けたので。」
「ボクもだよっ。この作戦の指揮官はキミにこそ相応しいと思うよ!」
「………(ニコッ)。」
「おじさんもそう思うよ〜。」
「…私は命令に従うまでです。」
「ふっふっふ、この僕に任せて大船に乗ったつもりでいたまへ!」
「…アタシはあんたが一番危ないと思うんだけど。」
「何ぃ!」
そんな風に騒ぎ出した仲間を青年は呆然と見つめていた。
「おい、なにぼーっとしてんだよ。もうすぐ作戦開始だぜ?」
「え?あ、ああ…みんな、俺なんかに命を預けていいのか?」
青年の言葉に全員が声を揃えて言う。
「「「「「「「「「当たり前だ!」」」」」」」」」
一時間後、艦橋に立つ青年と仲間達。
「司令、もうすぐ作戦開始時刻です。」
「よし。」
「頼むぜ、何かこう士気の上がる言葉をよ。」
青年は通信機に向かい、告げた。
「諸君!我々は今歴史に残るであろう作戦を始めようとしている!この作戦は速度が作戦の成否を分ける!敵が混乱から立ち直る前に侵攻し、素早く基地を制圧するんだ!艦隊は速度を維持して湾内に突入しろ!そのまま肉薄して砲撃を敢行して、敵をかき乱せ!航空隊は砲台及び車両庫を攻撃、反撃の芽を叩き潰せ!歩兵隊は特殊部隊と共に速やかに施設を占領しろ!」
そして、青年は笑って言った。Z旗を掲げよ!と。
「発、第一統合戦闘団総指揮官アーサー・ウェリントン 宛、第一統合戦闘団及び第四一義勇歩兵師団全将兵。
祖国は各員がその義務を全うすることを期待する
オペレーション・シチズン…スタート!」
ーーー史上最大の作戦が始まった。