04 - 唐揚げ
「唐揚げにレモンかける人~!」
飲み会の席でスーツ姿の彼は明るくそう言いつつ、
誰も声をあげなかったのに、レモン汁を唐揚げにかけ始めた。
なので私はそのことを咎めた。
「ダメだよ、誰もやって欲しいって言ってないんだから。食べ物を台無しにしちゃってるよ」
「あっ、そうだよね。申し訳ない」
彼は一歩下がって、地面に頭をこすりつけ、
唐揚げが乗っているテーブルに向かって土下座をした。
「ごめんね。ありがとう。ニワトリさんありがとう」
「ニワトリはそう言われても喜ばないと思うよ。死んじゃってるし」
「ああっ!!」
彼は泣き崩れた。
そうして彼はジャイナ教徒になった。
私もジャイナ教徒になった。
「やっぱりアヒンサーは徹底しないとね」
彼は休暇中の旅行先で自然に生きる動物たちを見て、
満面の笑みを湛え、慈しむような視線を送っていた。
「空気中にも水の中にも、体内にも微生物はいるけどね。勝手に傷つけちゃってるかも」
「ああっ!!」
彼は泣き崩れた。
そんな彼に私は一言を添える。
「…でも、私たちが死んでしまったら、償うこともできなくなってしまうよ」
「しかし、生きていればそれだけで生き物を傷つけてしまう…」
「そう。結局自分に都合よく生きることしかできないんだ。もっと傲慢に生きよう」
彼は私の言葉を聞いてハッとし、ジャイナ教徒であることをやめた。
私もやめた。
彼は再び飲み会で唐揚げにレモン汁をかけるようになった。
そして、飲み会のたびに他人の唐揚げにレモン汁をかけ続け、会社をクビになった。
ちくしょう一体誰がこんなひどい仕打ちを。
私は飲み会の彼のいなくなった席を見つめながら、
もぐもぐとレモン汁のかかった酸っぱい唐揚げを頬張った。
あー、やっぱ唐揚げはうまいなぁ。




