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良かれが滅びを導いた

 魔獣に支配された世界と誰かが言った。その誰かも長い年月と共に忘れ去られ、人間は減り続け、反対に魔獣達はある存在によって無限に生み出されている。本来、硬い鱗や皮膚、毛皮を持たない人間達は生身で普通の野生動物にも勝てない。道具と知恵、数を持つことでやっと互角に戦えるくらいだ。

 しかし、野生動物でやっと互角となれば、異形かつ獰猛、さらに人間には未知のエネルギーを操る魔獣達が突如として現れ、相手にするとなるとどうなるというのだろう。

 答えは単純、蹂躙される。

 少年は、ある日突然その光景を目にする。少年の住んでいた村は決して豊かではなかった。だが森と川が近くにあったことから食べることに関しては何とかなっていた。水が干からびたり、獲物が全くいない地も存在するという話を聞けば、ここは恵まれているのだと親から聞かされていた。理解はできたものの、世界は広いのだという知識を得ると、この狭い村で一生生きていくことに若さ故に思わずをえなかった。

 未知への興味、たまに村を訪れた旅人達の話は娯楽から夢へと変わっていくのだが、いつか自分もそうなりたいと思い決心をつけたある日のこと、その日は月のない夜だった。夜は危なくて当然だが、少年は闇を怖がっていては夢は叶わない、度胸を身につけたいとこっそり家を出たのだった。村の入り口付近から外は本当に闇、何も見えないということがこんなにも恐ろしいのか思うと、誰でも良いから人に会いたいと思ってしまう。まだ家の明かりが消えてしまう前に引き返そうした時だった。


「ねえ、そこの君」


 草が風で擦れる音と風の強く音しか聞こえなかった筈なのに、急に人の声がして飛び上がってしまった。


「そんなに驚かれるのは侵害ね、まだ何もしていないでしょう」


 暗がりで顔こそ見えなかったが、若い女性の声であることは分かった。しかし村の人でないことはだけは分かる。


「・・・私は暗闇で見えるから何とも思わないんだけど、普通はそうよね。こんな暗い中ではそれが普通か」


「・・・貴方は誰?」


 挨拶の言葉も出なかった。寧ろ気持ちを落ち着けるためにはこの言葉を発するのが精一杯だったのである。


「えっと、こういう時って自分から名乗るのが礼儀じゃなかったかしら?まあこの聞き方から名前そのものを聞かれたわけじゃないから解釈次第かな。ただの旅人と思って頂戴、それで人のいるところを探しているんだけどあなたどこに住んでるの?」


 旅人と聞いて、記憶にあるのは冒険譚を聞かせてくれた旅人達の愉快な笑い声と英雄のようにも見える活躍だった。


「村だよ。お姉さんは今日泊まっていくの?」


「そうね、用事はあるんだけどすぐ終わるから泊まる必要は・・・」


「お姉さんの旅の話聞きたい!」


 それは少年にとっての我儘だった。久しぶりに村を訪ねてきてくれてそれも旅人ならば、自分の知らないことをたくさん知っているからだった。そしてその話を聞くのが何よりも楽しみだったからだ。

 

「・・・・まあいっか、泊まるのもたまには悪くないかもね。それじゃあ、村まで案内してくれない?」


「うん!」


 困り顔の女性の手を引き、来た道を引き返した。村までの道中、あの暗闇での怖さはどこへやら今は女性の話を聞きたくて仕方がなかったのだ。


「ところで君はなんであそこにいたの?それも一人で」


「いつか世界を旅してみたいんだ。旅人達の話を聞いていると、旅っていうのは恐怖と度胸の隣り合わせ戦いらしくてさ、こんな暗闇すら怖いようじゃできっこないって思ったんだ。だから度胸をつけるために出てみたんだ」


「それでどうだった?暗闇の中を進む気分は」


「怖いというよりも寂しい、誰か隣にいて欲しいって思った。やっぱり、無理なのかな」


「何が?」


「暗闇の中ですら怖いなんて、僕には旅人に向いていないのかな」


「向き不向きというより、それは誰もが当たり前に思うことよ。それを何回も繰り返して、慣れて、鍛えて、そして強くなり大きくなるの。たった一回でそう思って諦めるならそれこそ本当に向いてないわよ。君がどうするかは勝手だけど」


 少年は女性の顔を見た、どんな顔なのかはやっぱり見えなかったがその口元は笑っているように見えた。


「じゃあ、僕はお姉さんのいう通りにすればなれるのかな?」


「絶対とは言わないけど君次第かしらね。言ったでしょ、諦めるなら向いていないって」


 村の入り口がうっすらと見えてきたので、女性の手を離した。


「このまま真っ直ぐ進むと村に着くよ。すぐ左手に宿屋もあるし、まだやっている時間だと思うから」


「見えるわ、案内ありがとう。君も帰るのでしょう?」


「僕はさっきの所からもう少し先に行きたいからお姉さんは先に行っていいよ」


 女性は返事代わりに頷くと振り返らずに村まで歩いて行った。

 少年は、女性と出会った所まで戻ってくるとそのまま道沿いを進んだ。暗闇に目が慣れてきたのか、最初よりも周りが見えた。探検とはいっても実は何度か日の明るい時に親に隣町まで連れて行ってもらったことがある道だったが、夜に通ったことはない。

 

「・・・今日はここまででいっか」


 そろそろ親に気づかれるかもしれないし、もしそうでなかったとしてもどうやって家に忍び込むかも考えないといけない。

 何にせよ少年には大した距離でなくとも初めての度胸試しを成し遂げたという達成感があった。

 後先のことを考えず余韻に浸りながら帰路を進んでいた時、行きよりも妙に周りが明るいことに気づいた。

 村の方で、遠くから見ても分かるほどだった。ただ、その明かりの中にうっすらと煙が立っているのが見えた時、妙な胸騒ぎがした。


「・・・何、これ」

 

 全ての建物が炎に包まれていた。少年の家も、友人、村長、親戚の家があった所が、今日の夕方まで見た光景が一変したのだった。

 外には誰もいない、皆まだ建物の中にいるのだろうか。

 するとその炎の中で影が動いたのを少年は見た。人がいると最初は思った。

 しかし、その炎の中から現れたのは人ではなかった。

 頭部から尾に至るまで鱗に覆われ、頭部に角と口から牙が伸びていた。その巨体と圧倒的な威圧感、特徴からして本で見たことがある竜と呼ばれる怪物そのものだった。

 世界の山や森、海に至る自然の中で生きる野生の獣よりも遥かに危険かつ獰猛な怪物と呼ばれ、魔力という巨大な力を源からある存在によって形作られた獣、魔獣。

 

「あら、取りこぼしでもいたかと思ったら貴方だったのね」


 怪物の背後から現れたのは見知らぬ人、いや違う。この声は、さっき村まで案内した女性の声だ。


「でもある意味幸運かしら?私が滅ぼしてきた村や街にいた人間達は魔獣を放った途端にあっという間に全滅していたわ。この子達が骨も残らず食べちゃうからなんだけどね。でもこうして生き残りがいて鉢合わせというのもまた珍しい。この村の周辺にも何匹か放っていたんだけど、見つからずにここまで辿り着いたのは運の良さでしょうね。その年齢でこの子達と戦えたらそれこそ怪物よ」


 事態を全て理解した上で、声が出なかった。この女が全てを壊した。少年の家、家族、村、思い出も。そして、この女を村まで案内してしまったのは少年自身であると。


「ここまで案内してくれてありがとう。別に一人でもここまで辿り着けたとは思うけど、夜の寝静まった集落というのはいくら夜目を持っていてもやっぱり見つけづらいのよね。それに貴方みたいな幸運を持つ人は実に私好み。だ・か・ら・・・」


「ま、じょ」


 少年は大人達から聞いた話からこの女が何者なのかを考え出し掠れ声を出した。そうでもしないと心が持たなかったからだ。しかし、いくら頭を動かしたところで、少年にはもはや何もできなかった。この魔女や周囲で唸り声を上げている魔獣達への恐怖もあっただろう。混乱と自責の念が渦巻き、立っているのがやっとの状態だった。

 

「そう、私は魔女。名も知らぬ幸運な坊や、貴方が一体どんな子になるのか興味が湧いたわ」


 気づけば魔女は少年の目の前に立っており、顔を覆うように女の手が広がっていた。

 逃げなければと少年は思った。だが体に傷一つなくとも、精神が傷つけば体は思うように動かすことはできない。

 魔女の聞き慣れない言語で何かを呟いている。次第に魔女の白い手が不気味な光を纏い、その光はゆっくりと少年に移動した。


「貴方が強い完全体になって生き残れたら、私が迎えに行ってあげる。時の流れるがままに放っておいたら勝手になる。簡単なことでしょ。あ、でも」


 立ち去ろうとした魔女は振り向いた時の顔を少年は一生忘れることはできなかった。

 少年に与えた不気味な光と同じ色の目を見た。少年はこの時どう表現したら良いのかまだ知識がなかったが、この魔女を目撃したことがある者達の言うことは共通していた。

 美女だが謎の雰囲気がある、底が分からない。


「彼らには関わっちゃダメよ?私が今まで目をつけた子達も彼らに大半取られちゃったからね」


 少年の意識はそこで途切れた。

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