プロローグ
静寂。とにかく静寂だ。
まだ明るい時間帯だが、霞がかった空と樹海という環境。開けた地面で焚き火を囲んで座っている十五人の男女は、誰も声を出さない。因みに誰も眠っているわけではない。寧ろ全員が緊張と覚悟を引き締めた顔をしており、武器をいつでも構えられる所に置いていた。
というのも、全員が一言も発しないのには理由がある。五感が敏感であるように全神経を周囲に集中しているためだ。誰か一言でも発して余計な会話があってはそれだけで気を逸らされるとこれから迎え撃つ敵の察知が遅れることになる。
すると、一人が武器を構えた。
「こっちから来る。構えろ!」
全員が即座に立ち上がり武器を手に取った。まだ遠い距離に位置しているが、近づいてくる音から察するに数十から百まで達するだろうと予想していた。
「隊長、我々は本当にこのまま正面から迎え撃つんですか?木の上から奇襲をかけるという手もありますけど」
確かにこの樹海かつ自分達を中心に考えれば相手は隠れ放題なこの状況、焚き火を囮として隠れ向こうがこちらに到達してから奇襲をかけるのも作戦としては有効だろう。
「群れに対する奇襲は一発でかいのをぶち込んで大量に巻き込むことが大事だ。一匹二匹狩ったところで混乱してもすぐに回復される。各自焚き火を背にしたまま正面から戦え、深追いはするな。この状況なら包囲はされるが背後と横は仲間がいる。目の前の敵に集中して殺し続けろ!」
「隊長、罠を起動させましょう!」
「まだだ、第一陣は通過させろ。第二陣からが勝負だ」
数秒と経たない内に樹海の奥から獣の影が見えた。さっきまで遠くに感じていたのに驚くほど早い。まだ感覚では五分も経っていないのに、秒単位で状況が変わっている勢いだ。
「早まるなよ、まだ、まだだ」
突撃の瞬間を待っていたが、相手も襲って来なかった。
「何故でしょう。さっきまでの勢いのまま突っ込んでくると予想していたのに」
隊員の一人が周囲を見渡して予想だにしていなかった相手の行動に少し拍子抜けしているが、すぐに隊長の答えが返ってきた。
「向こうも隙を窺っているんだろう。というかこっちが戦闘体制に入っていることで殺気を感じ取って逆に警戒心を与えたようだ」
集団の動きを一気に切り替えれたということは、一匹一匹の警戒心が強いもしくは統率個体がいることを示している。
「経験上、この手の奴が想像以上に手強いことがある。数稼ぎが想像以上に厄介なことになったのを覚悟しておけ」
姿こそ見えないが、どこかで獣の咆哮がした。恐らくこの声の主が統率個体だろう。
「今度こそ本当に来るぞ。罠作動準備・・・」
「隊長、ちょっと待った」
隊員の一人が声を張って止めた。
「何故止める!今の咆哮は明らかに・・・」
一瞬気づくのが遅れた。この気配、何番目かは分からないが、体を侵食する呪いと奴等と同じ部分が、そして本能がその存在を知覚したのだ。
「何故だ。何故お前がこんな所に現れる!この忌々しい魔女がーーーーーー!」
奥からゆっくりと歩いてきたのは妖艶、神秘的、そしてとてつもない圧を放つ美女だった。
遥か昔から存在しているとしか記録がなく、不老かつ不滅、無敵にして無限。人類にとって災厄で最悪、最も憎まれ、人類と世界に呪いを生み出し続ける魔女。
「不思議なこと。貴方達に会うたびにそれと似たようなことを毎回言ってきますね、この状況を作り出した私が言うのも変ですがもっと違うことを語れる人はいないのですか」
「黙れ!俺達をこんな目に合わせて、罪もない人々が大量に殺される世界にした、お前達がいなくなる日を望まれているんだ」
「そうですね、ですがそれで良いんですよ。私たちは本当に長い長い時間人間達を見てきましたが、最初は必死に生き抜いている姿が美しかったのに技術の発展や文明を開花させると平和ボケだったり個人的な都合で生きている人達が増えだした。私達はそんなものを見たくありません、本来生きる上で大事なことを忘れた人間達にもう言葉ではどうしようもない、ならば手荒なことをしてでも引っ掻き回して思い出させる、いえ、改めて貰いたいんです」
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか。この外道がーーーーーーー!」
この日、十五人のカリュード達が帰らぬこととなる。ことの詳細を知っている者は誰もおらず、ただ単に魔獣の群れに蹂躙され殉職したのだろうという予測しか誰も立てることができなかった。




