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7.初めてのお泊まり

母に呼ばれリビングに向かう、戸田は漫画が面白いとご満悦だ。

物語にもあまり触れたことがなかったせいか、感想を言い慣れてない感じだ、語彙が″おもしろい・強い・カッコイイ″と小学生のそれだった。



リビングに入るとソファに座ってた妹がこっちを見た、そして後ろにいるはデカい存在を見て目を見張る。


─妹はこのイケメンを見てどういう反応をするんだろうか、クラスの女子みたいにときめくのか…?


と思っていたら妹は思いっきり顔を顰めて


「だれ?おにぃの友達?」


と死ぬほど失礼な反応をしてきた。

つい最近まで小学生だった妹にイケメンとかトキメキとかそういうのはまだ早かったか。


「友達の戸田だよ。こっちは妹の麻衣。」


戸田に軽く紹介するとニコニコと麻衣ちゃんよろしくね~と妹に声をかけてくれた。

「ふーーん。」と言いプイとテレビに見直る。戸田にごめんね失礼で、と言うと「ううん~。妹いるのうらやましい~」と戸田はニコニコして、心の広い男で良かったなと思った。



配膳していた母を手伝って、皆でテーブルについて食事を始める。

フレンチドレッシングのかかったレタスのサラダとポテトサラダ、玉ねぎのスープといつものカレー、僕と戸田の分には昨日の残りの唐揚げとゆで卵が乗ってる。妹はトッピングは卵だけにしていて、勿論戸田のは大盛りだ。

戸田が「美味しいです」と感想を言ったら母がなにか答える前に妹が「ママのカレーめっちゃ美味しいから今日カレーの日でラッキーだったじゃん」と死ぬほど偉そうに答えていた。


うちの食卓はもともと賑やかな方だ。

僕が黙ってても母と妹がよく喋るし、母がいれば妹は強い口調なのは変わりがないが、けっこう僕にも話しかけてくる。

父と母に大好きで、甘え上手でもある妹がムードメーカーになっているのだろう。

そこに人あたりのいい戸田が入ることでより一層賑やかさを増した。


壁を感じさせない戸田に対して妹もつっけんどんなとこがありながらも好意的に話しかけている。

なんなら僕に話しかけるより戸田と話す頻度が高い。


今日家に遊びにきたきっかけを話したら妹が「え…マジで?漫画読んだこと無いとか普通ある…?」とドン引きしたような顔で言っていた。

妹は僕が避けた地雷や失礼ポイントを軽やかに踏んでいく、ただし、それがなんとなく許される空気を持っている所があるのも彼女の特徴だ。


─幼さゆえの生意気さって感じで適当にいなせる感じもあるからかな。


妹は小柄で、なおかつ大人びたとこはまったくないので戸田は妹を小学生くらいに認識してる可能性もある。


戸田は「家が厳しい?感じで漫画とか買わなかったんだよね~」と答えを聞くと「ふーん」と興味を無くし後追いはしない辺りでバランスが取れているのだろう。

戸田の家が教育的に厳しいのは意外だったがよく見れば家に上がる時は自分で靴を揃えていたし、食事中の姿勢や所作とか、確かに育ちの良さを感じるものがあった。

容姿が綺麗だから全てが美化されて見えるだけかと思っていたが、教育が厳しかったからかと納得した。

なら何故不良に?と疑問も浮かんだが家での過剰な抑圧が外での爆発に繋がったのかなとぼんやり考えた。



「そういえば戸田、漫画の続き貸そうか?持って帰る?…いや、でも重たいから大変かもだし、また気が向いたら読みに来るとかがいいか」


話してる途中で″いや、まだハマってないかもなのに貸すとか押し付けがましいか?″と気付いて焦って会話を方向転換させる。


「借りたいしなんなら明日とか直哉に用事ないなら読みに来たい~!」


─確かに戸田は読む速度が早い方だから持って帰れる量を貸したらすぐ読み終わってしまうだろうな。


と思いつつ予想より積極的な戸田の返事に僕が相合を崩しているとそれを見ていた母が「あら、それなら今日は泊まっていけば?」と言ってきた。


思わぬ発言と展開に僕が固まっていると戸田はえ~!いいんですか~!?と喜んで返事をする。

妹は気にしない様子でもぐもぐとカレーを食べていて友達の初のお泊まりに動揺しているのは僕だけだと気付いた。


「あ、おうちの人は大丈夫かしら?アレだったら私からお預かりしますって電話するけど」と母が言う。

「うちは放任なんで大丈夫ですよ~。」と戸田は答える。


「そう、じゃあお風呂貯めるから、ご飯食べて落ち着いたら2人ともお風呂済ませちゃってね。戸田くんは大きいから寝巻きはお父さんのでいいかしら~」


そう言いながら、母は自分の食べたお皿を下げるために立ち上がって動き出した。



風呂上がりの戸田が父のパジャマを着て部屋に戻ってきた。

こんな夜に部屋に自分以外の人がいるのは変な感じだ。


普段自分どうすごしてたっけ?と思いながら寝るまでの時間をどう過ごそうか迷っていると母がドアをノックしてきた。

来客用の布団を持った母のために戸田が部屋のドアをあけて僕が布団を受け取り、テーブルをどかして戸田のための布団を敷く。

母にお礼を言ったあと布団に転がってスマートフォンをいじる戸田をみてめちゃくちゃ人の家に泊まり慣れてるな…と感じる。


「直哉の家っていいね」

「そう?」

「うん、お母さん優しいし、麻衣ちゃんは元気でいい子だね、お父さんは単身赴任って言ってたけどどんな人?」

「父さんは、落ち着いた感じの優しい人かな。怒ったら怖いけど。時々変な冗談言って自分でウケて笑ってるからちょっと変わってるとこもあるけど…、戸田の親はどんな人?」


若干気になっててでも触れるのに躊躇われていた戸田の家庭環境話に触れてしまった。

でも自分が聞かれたことを聞き返すのは円滑なコミュニケーションの手段としては自然だし、探る様な感覚を相手に与えることはないと思うので問題は無いだろう多分。


「うちはね~、父親は学校の教員なんだ。とにかく厳しい人でね、俺はこんなんだし、とにかくウマが合わなかったんだ。」


過去形で話してるのにひっかかりつつも黙っておく。


「今の母親は俺が中学の時父が再婚した相手で、生みの母親?はよく知らないんだけど、義理の母親は…とにかく優しい人?かな。」


やっぱり何かしらの複雑さがあった様子だったな、そして自分の人生経験の不足ゆえにこれに対してどう答えるのが正解かは分からなかった。


漫画のように深い話をしてる時に相手の心に残ったり癒したりできるセリフが言えるような人間ではないことは分かっていたけど、こんなにもなんて言えばいいのか分からなくなるのかと驚いたくらいだ。


─こういう時に気の利いた返しが出来るキャラに憧れる…。


「あ、ねぇこの巻の続きまとめて出しといてもいい? 」


と漫画を持った戸田に言われ会話が終わってしまい、その後話を戻すなんて技術を持たないので、僕が気の利いた返しをする機会は失われてしまった。

次に期待だ。

戸田は波を打ちたいなと思ってます。


妹の麻衣が戸田に対して失礼な態度でも、自分が戸田に謝って、妹を叱らないのは直哉(主人公)が実はシスコン気味だからです。


次は「友達との休日」です。

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